第4話 多分また、来ます…。
「この子はアユ。まぁ、どう呼んだっていいわよ。ね。」
大人はそう言って子供を見ると、子供はうなずいた。
「サバ、今ここに居ないかしら。今度紹介するわ。」
「それから――…あっ、そうか。」
大人が驚いたような様子を見せて、しばらくの間アユと顔を見合わせていた。
声は出していないのに、会話しているみたいだった。
割とすぐ重に向き直って言った。
「ん-。名前とか特にないから、何か―…自由に呼んで。」
えぇっ。それが一番困るんだけどなぁ。
そう重が思いながらも、なにか大人のあだ名を考えた。
「…マグロ、とか。あ、髪が赤い、から…。」
大人の髪はマグロのように赤いんだ。ピンクのほうじゃなくて、赤黒いほう。
重は勝手にあだ名を考えてしまって失礼だったかなと思ったけど、
大人は意外と気に入ったようだった。
「マグロ。いいわね、それ。じゃ、改めて。あたしはマグロ。」
マグロそう言って、軽く笑った。
「この家、結構広くてさ。もしこのままここに居るようだったら、
自由に探索してみるといいわよ。」
マグロはそう言ったあと、この部屋を出て行った。
座ったまましばらくじっとしていると、学校に行こうとしていたことを思い出した。
このまま帰るのもなんだかなぁと思ったので、
「帰ります。」
とアユに報告してから帰ることにした。
部屋を出て帰ろとすると、アユが付いてきた。
流石に外までは付いてこず、玄関の扉のところで立ち止まった。
「多分また、来ます…。」
そう言って手を扉に近づけてから、あることに気が付いた。
「変なところに飛ばされたりしますか…。」
アユはおどろいた顔をして、そのあと笑顔になった。
笑いながら、頭を左右に動かした。
重はほっと息をついて、アユに一礼し、扉を開けた。
一歩外に出て振り返ると、扉はもうただの扉にしか見えていなかった。
不思議だ。どうあの家と繋がっているのだろう。
それはそうと、この扉はこれからずっと現れた状態のままなんだろうか。
扉が現れたときは確か、鈴の音がしたけど。
重はそう思ってあたりを見回したが、何もなかった。
扉が現れたときに鈴の音がしたのは確かだ。
とりあえず扉のことは放っておくことにして、背を向けると、
しゃりん、しゃ。
扉のほうから、鈴の音がした。
前とは違って、地面にたたきつけたような音だった。
扉にさっきと変わった様子はない。
何かが鈴の音を鳴らしているんだとすれば、扉の裏に何かがいるんだろう。
鈴の音を出したものが逃げないように、忍び足、急ぎ足で扉に近づいた。
扉のうらっかわがあと少しで見える距離になって、
重は思いっきりうらっかわをのぞいた。
すると、さっきまで扉の裏にいたであろう何かが、
目に見えない速さで近くの
何かはすでにその場から立ち去っているようだった。
重はびっくりして、何かが突っ込んでいった茂みをしばらく見つめていた。
程なくして、地面すれすれのところから何かが顔を出した。
猫だ。
顔だけしか見えないので何猫か正確には分からないが、
さっき一瞬見えたのを思い出すと、サバトラかキジトラだろう。
近づこうとすると猫は、顔を少し引っ込めた。
これ以上近づこうとして怖がらせてしまうのも悪いから、
撫でるのは断念して、学校へ向かうことにした。
重はゆっくり後ろに下がって、猫から見えないところへ移動した。
もとあった家のがれきなどがほどよく残っていて、周りにほどよく木が生えている。
だから、日陰も日向もほどよくある。ついでにほどよく人通りが少ない。
猫にとって快適な場所なんだろう。
人通りの少ないこの道から外れて、影の少ない道へ出た。
重の視界は、所々ひびが割れてその隙間から草が生えているコンクリートから、
生暖かそうな灰色のコンクリートに変わった。
顔は可もなく不可もなくという感じだったけど、可愛かった。
登校中に、猫やら犬やらの動物を見ると、いっとき嬉しいの、分かるだろうか。
重は心の中でにやにやしながら歩き始めた。
冷たくないけど暖かくない風が、重の体を横から押している。強いな。
夏の終わりで、秋の始まり。あと、なんか面白そうなことの始まり。
わくわくしている。
体のはしっこがムズムズ、そわそわして、重は少し小走りした。
◆読んでくれてありがとうございます。2号です◆
これを書き終えた時がちょうど、秋の始まりなんです。
この時期は毎年、自分もそわそわしているので。
お話を書いてるうちに季節変わっちゃうけど。
投稿の頻度は決まっていません。
気に入ったら、何かしら評価してほしいです。
アドバイスや誤字報告、待ってます。
登校中の道草から マー坊 @wu-tang
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