第16話 会議

 ケアハウスの周囲にある同じ法人が経営する病院や特養、老健、グループホームなどの代表者が集まって、それぞれの施設で受け入れている海外からのEPA研修生や技能実習生の状況についての会議が毎月一回開かれていて、義彦も出席している。

 十年ほど前のインドネシア、フィリピンからのEPA受け入れに始まって、ベトナムが加わり、中国、そして今年からインド、ネパールと、出身国が多岐に渡ってきているが、受け入れる側の意識は、あまり変化がない。

 日本に住む一般的な日本人は、アメリカ、ヨーロッパ以外の外国は世界地図のどこにあるのかはっきりと知らないのが普通だし、インドネシアとフィリピンとインドの違いなど意識していない。

 義彦はケアハウスのリーダーということでたまたまこうした施設横断の会議参加しているだけであって、発言は義彦個人としてよりもケアハウスのリーダーとしての発言であることを意識し、かつて自分が各国をフラフラと旅行していたことによる知見を差し挟むつもりは毛頭なかった。

 この会議の元締めであり、受け入れ先の国々を訪問したりしてある程度の知識がある本部事務職員が掲げる方針を無批判にメモする。その上で、今ケアハウスで今年初の受け入れとなるインド出身のアジャイが職場内で浮いている状況の報告をする。

 今までの研修生で職場が合わない場合、職場間異動が行われることもあったが、効果がある場合とない場合とがあり、アジャイの報告を義彦がしていると、それは異動してもあかんな、早よ仕事終わらせようとするのはどこも一緒やからな、との声が挙がった。

 義彦の報告の後、他の施設からも、職場に馴染んでいけない例が紹介されていた。どちらかと言うと、日本人の職員の方が壁を作っているようで、その職場の中でしか通用しない慣習を研修生が理解しないための暗黙的なバッシングムードが漂い、コミュニケーションがスムーズにいっていないようだ。

 今後、毎年、技能実習生を法人全体で受け入れるつもりなので、先が思いやられる、との発言も出る。来る側は、日本に馴染もうと必死な場合が多い。日本人側に意識改革が必要な面もある、との意見も聞かれた。


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