第11話 夏
夏の自転車通勤は、冬とはまた違った辛さがある。吹き出る汗は首から下、胸元を覆い、髪を濡らし、シャツを濡らす。数分で、全身汗だくになる。体内の水分が奪われていく。その時は良いが、数時間後、仕事の最中に頭がくらくらしてきたり、酸欠気味になったりする。
このところの日本の夏は、恐ろしい。生命に危険のある暑さだと気象庁が表現した通りの症状が身体に出る。熱中症で倒れた職員も居るので、そうならないように、ネッククーラーを首に巻き、さらに濡れタオルを鉢巻き状に頭に巻くなどして予防しながら自転車通勤を続けている。無理な時は、バスで通うようにしている。
夏の入浴介助は自転車通勤と同じように、うだる暑さへの対策が必要だ。最近はネッククーラーを巻く職員も多いが、一時間ほどで溶けてくる。その後も夢中で介助していると、暑さも忘れてしまう。しかし、後からダメージが来る。
若いアジャイは暑くても淡々と介助していたが、さらに狂気的に暑い日々となり、参り始めていた。
経費削減のために電源をこまめに切る決まりになっていた冷房も、頻繁な入り切りは、切っている間の温度上昇が凄まじ過ぎ、入れた時に急速に冷やすことを繰り返し、かえって電力を消費してしまうので、数年前からつけっ放しにすることに変わった。
インドのヒマラヤ山麓の避暑地が出身地であるアジャイは、今までの人生においてうだるような暑さの夏というものを経験したことは少ない。義彦の旅の経験でも、デリーなどインド平野部の夏は死者が出るほどに暑く、気温は日本以上に高いが、日本の湿気を含んだ暑さは独特で、いやらしい。中でも、京都盆地の夏は暑い。
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