第46話
全国高校女子バスケットボール大会。
いよいよ本番。
会場が遠いから悟達はここに来れていない。
おそらく今は宿題を進めている頃だろう。
机に向かう姿が容易に目に浮かぶ。
試合前のベンチに座って出発前日のことを思い出す。
━━━━━「ほらよ」
「これ....御守り?」
「本当は現地に行って応援したかったが、遠くて行けないから、せめて御守りをと思って」
「.....ありがとう」
「テレビ観戦になるが応援してるぞ。悔いのないようにな」━━━━━
バッグに付けた御守りを見る。
たとえ悟がここに居なくても、気持ちはここにある。
悟がくれた御守りを見るだけで力が湧いてくる。
悟だけじゃない、出発日にクラスのみんなからも応援を貰った。
何人かは現地に来るとも言っていた。
悟もみんなと一緒に、そのタイミングで御守りくれたら良かったのにと思ったけど、そんなタイプじゃないか。
「どうだ?葵、全国の舞台は」
「キャプテン....最高ですよ」
「正直初戦勝てるか不安だったけど、でもアドレマリン?っていうのかな?それがドバドバ出てさ〜」
「アドレナリンな」
「そうそう!それそれ!」
初めての全国大会で緊張もあったのに、ここまで勝ち上がってこれるなんて思わなかった。
明日は準々決勝、ベスト8まで上がってきた。
去年、桐谷茜さん....春海高校が見た同じ景色。
「全国レベルの中でも、ここからは本当の強豪校しか残っていないんですよね」
「私達だってそのうちの1つさ、自信持っていこう」
そうだ、私達だって招待されてここに来たんじゃない。
勝ち抜いて勝ち抜いて、ここまで来たんだ。
「さぁ、明日も朝から試合だ。もう休もう」
「そうだな、部屋に戻るわ」
「私も〜」
「じゃあな、葵。また明日」
「はい」
先輩たちはそれぞれの部屋に戻っていった。
明日の試合相手は、去年全国大会で準優勝した滝谷高校。
実際に試合も見たし、過去の試合映像も見た。
研究するつもりが1つ1つの動きに圧倒されてしまった。
少し不安になっていると、携帯が鳴った。
悟の名前が映っていた。
「....もしもし」
「悪いな、こんな遅い時間に」
むしろ嬉しい。
御守りを悟だと思って頑張ってたとはいえ、もう何日も会ってないから少し限界が来てたくらいだ。
「いやいや、気にしないでくれ。どうしたんだ?」
「いや....ちょっとな....話したかっただけだ」
こんなの反則だよ。
珍しく悟から電話きただけでも飛び跳ねてるのに。
ほんと....ずるい。
なんか私ばかりダメージ受けてる気がする。
少しだけ気に入らないけど、幸せだからなんとも言えない。
「試合見てたぞ、凄かったな」
「大会前はどうなる事かと思ったけどね....未だに緊張してるし」
「初めての全国大会だからな、そりゃ緊張するよな」
「うん」
今は落ち着いている。
でもやはり、コートに立つと気持ちが逸る。
地区大会決勝の時とは違う緊張感。
「今日テレビは今後の注目選手に葵の名前を出してたぞ」
「そ、そうなのか?」
「あぁ、凄い選手が出てきたってな」
「お、大袈裟だな....」
少しインタビューされはしたけど、そんな感じで放送されていたなんて....
「でもテレビで言われているのは、俺が昔から知っていることばかりだったよ」
「え?...」
「今周りがどんだけ騒いでいても、それは今更だってことだ。俺はもう昔から葵の強さを知っている」
「悟....」
「そのままの葵で行けよ。決勝戦の時みたいに周りの肩を借りながらな。御守りもあるんだ、1人じゃないぞ」
そう、もう昔から見てくれている。
私がバスケをやりだした時から、悟はいつも見てくれている。
━━━━━「ん?あら、いつの間に御守り....私2つあげてたっけ?」
「いや、これは悟から...だけど」
お母さんは、御守りを見て少し不思議そうな顔をしていた。
「悟くん、今年は自分で渡したのね」
「どういうこと?」
「あ、内緒にしててくれって言われてたんだった....まぁいっか!」
「話が見えてこないんだが....」
「去年と一昨年の大会前に渡してた御守り、2つとも私からあげたことにしてたけど、本当は悟くんから貰ったものなのよ」
.....知らなかった。
お母さんもこれで2倍の効力よ!なんて言って御守り2つくれたから....何も言わずに貰ってた。
悟が御守り渡してくれた時もそんなこと一言も言ってなかった....
去年は嫌われてるんだと思って、怖くて聞けなかったけれど...そうだったのか...
応援には来ていなかったけど....ずっと応援してくれていたんだな....
見ていてくれてたんだ.....
「なにか喧嘩したのかと思ってたけど、悟くんの感じを見ると、そういうわけじゃなさそうだったし....まぁなにはともあれ良かったわ、あなた達がまた仲良くやれているみたいで」
「.....うん」
思わず目頭が熱くなる。
私は、なんで信じなかったんだろう。
どうせ見てくれていないって、なんで諦めていたんだろう。
確かに応援に来てはいなかったけど、ずっと応援してくれていたんだ。
ずっと傍に居てくれていた....
「青春ねぇ.....もう手放しちゃダメよ?あんな優しい子他に居ないわよ?」
「うん、ありがとう。お母さん」
「行ってらっしゃい、中途半端にならないように全力で行きなさい。私だって葵を応援してるんだから」━━━━━
「いつもありがとう、悟」
「....別に俺は何もしてないだろ」
君はいつもそう言うね。
昔からだ。
「そろそろ寝るだろ?ありがとな、付き合ってくれて」
「いやいや、私の方こそ....」
「明日も頑張れよ、見てるからな」
「うん、じゃあね」
そう言って電話を切った。
声を聞けただけでも、心が充電された。
明日も頑張れる。
悟が喜んでる顔を見たいし、なにより先輩たちともっと一緒にバスケをやっていたい。
泣いても笑っても、勝っても負けても、悔いのない試合にしよう。
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