第45話
一学期最終日。
明日からいよいよ夏休みが始まる。
葵と夏休みどこかに出かけようと思っているのだが、結局まだ誘えていない。
色々心の中で必死に言い訳を並べてはいるが、結局は意気地無しなだけだ。
校長先生の長かった話ももうじき終わりそう。
体育館は広いとはいえ、人が集まると暑苦しい。
夏だから暑いのは当たり前ではあるんだが、人が集まり籠った熱は、また違う苦しさがある。
そんな中で聞く長話なんて拷問以外の何物でもない。
「えぇ〜、いよいよ明日から夏休みです。休むときはしっかり休み、それでも気は抜かずに勉強も忘れないようにしましょう。教師全員、生徒たちの元気な姿をここで待っています」
校長先生の話が終わり、形ばかりの拍手が起こる。
それに紛れて、後ろに居た深見が小さく声をかけてくる。
「長かったな、校長の話」
「まったくだ....早く終わって帰りたい」
「後ろから見てて倒れないか心配だったぞ」
「そこまで体弱くねぇよ」
さて、前々から少し気になっていた。
あれからそれなりに深見と話すようになった。
俺から話しかけるということはないが....
しかしこれは、もしかして友達になれているのでは??
いや、確信してはいけない。
こいつは友達とか関係なく誰とでも話すことができるやつだ。
そういうところは浅田と同じ。
俺にはできない高等テク。
「えぇ、ではこれで終業式は終わります。生徒の皆さんは順番に教室に戻ってください」
さっきまで静かだった体育館が一気にうるさくなった。
生徒の足音、話し声。
これを聞くと、やっと解放された気分になる。
「坂村は夏休みの予定は決まってるのか?」
「いや、特に決まってない....深見は部活か?」
「部活はそうだが、それ以外の予定は男子バスケ部のみんなで遊びに行く予定だ」
キラキラな青春ストーリーだな。
俺にとっては非現実的過ぎる。
教室に戻り、ホームルームも終わった。
あとは帰るだけ。
「ねね!全国大会どこでやるの?」
「ちょっと遠いところなんだけど」
「全然いいよ!応援行きたい!」
夏休みの全国大会を応援に行きたい人達が葵の周りに集まっていた。
当然、浅田も居る。
確か日程は夏休みが始まって1週間経った辺りからだったよな。
とはいえ、遠いところなら俺行けないな。
お金無いし。
行けないけど、せめて御守り渡しとくか。
そう思い立って教室を出た。
「あ!坂村くーん!お疲れ様!」
「お疲れ様です」
いつものように萩原と田宮だ。
「おつかれ、これから帰りか?」
「いえ、これから図書委員の活動なんです」
あぁ、可哀想に。
確か俺も去年終業式の日に図書委員の活動日と重なってたな。
早く帰れるとウキウキだったのに、見事に裏切られてしまったのを覚えている。
「そうだ、坂村くんも一緒に図書室おいでよ!夏休みの予定も決めたいし」
図書室に行くのは全然構わないんだが、予定って何?
なんか約束してたっけ?
「一緒に遊びに行こうよ!」
まじ?俺が?
そういうのって2人で行きたくなるものじゃないの?
大丈夫か俺が混ざっても。
「そういうことですから、図書室行きましょう」
言われるがまま、2人について行く。
そしてまた言われるがままに夏休みの予定について話し合う。
終業式で早く帰れる日だから、図書室に来る物好きな生徒は1人も居ない。
俺はそれを経験済みだから分かる。
「坂村くんはどこか行きたいところある?」
「いや、俺は特に....ていうか、本当に良いのか?」
「私達のことなら気にしなくていいんですよ、それはそれで日程は決めていますから」
「田宮さんとのデートも楽しみだけど、坂村くん達とも遊びたいしね。友達だから!」
そう言われると断れない。
「せっかくなら佐倉さんも誘いたいですね」
「全国大会もあるから....終わったあとに誘ってみようか!」
「じゃあ、それまでに宿題ある程度進めときたいな」
今年の夏休みは思った以上に忙しくなりそうだ。
元から俺は夏休み宿題は早く終わらせるタイプ。
やることなんてそれ以外に無かったから早く終わってしまってたんだよね。
我ながら理由が悲しい。
「気になってたんですけど....佐倉さんと坂村さんの仲良くなったきっかけってなんなんですか?」
「きっかけ?」
「確かに少し気になるかも!1年生の頃はそんな感じ全然無かったよね?」
「まぁその時はクラスも離れてたからな」
きっかけか....
覚えてはいるが、そこまで鮮明ではない....
「1番最初は1人で居た葵に俺が話しかけたのが最初だった気がするな」
「意外ですね...」
そりゃそうだよな。
でも、昔の俺は今とは違って明るい方だった。
何があってこんな根暗になってしまったんだか。
とりあえず自分の記憶の棚を探る。
━━━━━「何してるの?」
「......」
「???何してるの〜?遊ばないの?」
「....私女だよ?」
「ん?知ってるよ?なんで?」
「いつも男だって笑われるもん.....」
「そうなの?ん〜....でもかっこいいの僕好きだよ!」
「ほんと?....へへ...」
「なんだ!笑ってるところ可愛いよ!ほら一緒に遊ぼうよ!」
「.....いいの?」
「うん!!おれ悟!」
「....わたし、葵」━━━━━
この後自分たちの家が隣同士なのを知って、一気に遊ぶ回数が増えていったんだよな
今思い返してみれば、2人とも今とは真逆だったような気がする。
てかあの時の俺凄いこと言ってるな。
今だったら絶対に言えない。
「なんだか今の坂村くんからだと想像できないね」
「俺もだよ」
「でも素敵ですね、そう言われると女の子はみんな嬉しいと思いますよ」
「やめてくれ、思い出して恥ずかしくなってるんだから」
2人共すごくニヤニヤしてる。
話したのを少し後悔してしまう。
「佐倉さんと坂村くんはなんというか、深い絆で結ばれてるよね、何も言わなくても分かりあってるというか」
「どうだろうな...」
「私達にはそう見えますよ。だから、周りに何を言われても大丈夫です。私達は2人の味方ですから」
恐らく、この間浅田の舌打ちが聞こえてきたから、2人は色々と察したのかもしれない。
余計な心配をかけてしまったな。
「大丈夫」
「本当に?」
不安そうな顔をこちらに向ける。
「たとえ坂村くんが傷に気付かないほど痛みに慣れているんだとしても、傷付く坂村くんは見たくないんだ」
だからと萩原は続ける。
「だから、何かあったらいつでも頼ってね?」
「あぁ、ありがとう」
頼ったら本当に力になってくれる。
味方で居てくれる。
ダメな時はダメだと言ってくれる。
俺は本当にいい友を持った。
これから先もし葵と恋人になれたとしたら、この2人には真っ先に朗報を持ってきて伝えたい。
そう思った。
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