第44話

2日間のテストも終わってから2週間が過ぎた。

これで1学期の行事は全て終了。

あとは夏休みを待つのみ。

1年生の頃とはまるで違う時間だったように感じる。

長いようで短く、とても濃い時間の連続だった。

つまり....楽しかったということだ。

テストは全て返却されたが点数もかなり良かったし、もう思い残すことは無い。

ということで、今日という休日は自分へのご褒美ということで好きなお菓子と新しく本を買いにいこう。

たまにはこんな日があっても良いはずだ。

そう思って、家で昼ごはんを食べてから今に至る。

俺は今本屋に居るんだが


「その本オススメだぞ?」


「なんでいるんです?」


真田冬雪さん、女子バスケ部キャプテンと偶然会った。

どうやら葵も一緒のようだ。


「もう練習は終わったんだ、読んでた本の続きが今日発売日だから買いに来たんだよ」


「なるほどな....お疲れさん」


「私は葵の付き添いだ、暇だったから。それに、私も本はそれなりに好きだからな」


「そうですか....」


「ふふっ、じゃあ先輩、私本探してきますね」


「うん、行ってらっしゃい」


なんだろう、俺の周りはスポーツに強い人と読書が好きな人が多い気がする。

葵が本を読むのは知ってたが、そんな俺ほど読む感じではなかったはず。

そんな彼女が続きを買うほどハマってる本。

よっぽど面白いのかもしれない。


「....君たちのやり取りは目の保養だね」


「どういうことです?」


「そんなに深読みしなくていい、単純にそう思っただけさ」


見世物じゃないんだがな。

ただの幼馴染同士の会話だし。

....まぁ俺の方は恋愛感情込みの会話だけどな。

葵は知る由もないだろうけど。


「俺の方より、真田さんの方こそ何かあるんじゃないですか?」


「....どうしてそう思う?」


「葵が気にしてる様子でしたから」


山井夏鈴さん....だったよな?その人と一緒に歩いてる様子を見てる時に葵は既に何か気付いていて、気にしてるように見えた。

多分、葵は無意識だろうが。

そういうのは分かりやすいんだよな、あの子。


「....いらない心配をかけてしまってるみたいだな、すまないね」


「いや俺は良いんですけど....そんなに気にならないので」


どうでもいいとまでは行かないが、俺が気にしても仕方ないというか....


「....女の子が....夏鈴が好きだって言ってもか?」


むしろ確信してたくらいだ。

これを聞いてくるってことはあの人と付き合ってるわけじゃなかったのか。


「別にいいんじゃないすか?気持ちなんて人それぞれですし」


「.....本当に気にならないみたいだな、それとも興味が無いだけか?」


まるで俺が冷たい人間だって言ってるみたいだな。

まぁ間違った認識ではないが。

原田に対して思ったのと同じだ。

否定も肯定もする権利は無いし、必要も無い。

ただそれだけ。


「幸せならそれで良いと思ってるだけですよ」


「なるほど、ありがとう....,気にしてたってことは、夏鈴に対する私の気持ちは、葵にも勘づかれてるってことか....」


「言っときますけど、葵はそういうのを差別するような人間じゃないですよ....驚きはするかもしれないですけど」


「分かってるよ、言われなくても....それは分かってる」


誰にでも相談できるようなことじゃないからな。

異性を好きになった時でも誰に相談すれば分からない人がほとんどなのに。

同姓が恋愛対象ならば、尚更。


「私も....普通だったら良かったのに」


「ただの友達だと、思えたら良かったのに....」


普通...か。


「まぁ、普通ってのも人それぞれだと思いますけどね。葵もバスケでも勉強でも人間離れしてますけど、それでも普通の女の子なんですよ」


「....何が言いたいんだ?」


「真田さんも俺たちとそんなに変わらないってことですよ。人なんだから違うところがあって当然。ただ好きになる相手が違っただけのことです」


真田さんの悩みと苦しみの全てを理解することは出来ない。

だから分かった気になってこうしたらいい、ああしたらいいなんて言うことは出来ない。

分かりもせずにアドバイスをするのは無責任だし、そんなのは失礼だ。

でも、俺にも分かることはある。

恋愛対象が同姓だろうが異性だろうが、そこに優劣は付けられない。

周りと差があるわけじゃない、周りと違いがあるだけだ。


「.....ありがとう、話せただけで楽になったよ」


「そりゃ良かったです」


「勝手で申し訳ないけど、私はこのまま帰らせてもらうよ」


「葵は良いんですか?」


「君が居れば問題ないだろ?....ありがとうと言っておいてくれるか?私からも今度伝えておく」


「....分かりました」


そう言って本屋を出ていった。

俺はさっき真田さんがオススメだと言ってくれた本を手に取る。

これにしようかなと悩んでいると葵が帰ってきた。


「お待たせしました....あれ?先輩は?」


「帰っていったよ」


「そ、そうなのか....」


「....気にかけてくれてありがとうって言ってたぞ」


葵が少しハッとした。

でもすぐに安心した顔をして、安堵の息を漏らした。

やはり、葵はすごく気になっていたんだろう。


「そうか....良かった」


全国大会も近いから、今すぐ大きな行動に移るわけじゃないだろうが、知ってしまっている以上は見守るしかない。

俺は俺で葵の彼氏になるために頑張らないといけないしな。



....まぁ何したらいいのか全く分かってないんだけどね。

とりあえず、夏休みのどこかで遊びに誘ってみるか。

























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