第41話
テストまで1週間前。
女子バレー部などは練習を続けていたが、1週間前は全ての部活が休みとなりテストに向けて勉強することとなる。
俺も最後にスパートを掛けようとしていたんだが、葉月先生に雑用を頼まれてしまった。
「すまないな、テスト前なのに」
「別にいいっすよ、気晴らしになるんで」
この前の空き教室で出てきた備品を整理したいとのことだった。
ていうかまだやってなかったのか。
「私も忙しい身でね、なかなか手がつけられなかったんだよ」
まぁそんなに多い量じゃないから別にいいんだけど。
早速手を動かす。
「最近はどうだ?学校生活は」
「別にどうもないですよ、普通です」
「そうなのか?でも生徒は佐倉と仲良さそうなんて噂してたぞ」
噂になってんのかよ。
俺の耳には全然届いてないんけど。
変に大きくならなければ良いんだがな....
「そんなに気にするな、みんな物珍しさで言っているだけさ」
「いや、それでもちょっと嫌なんですけど....」
まだ悪い噂じゃないだけマシだと考えるべきか。
早く収まることを願うしかない。
「その佐倉のことは君から見てどうだ?」
「優しくて真面目なのは尊敬しています。ですが、たまに周りが見えなくなっている時があるのが心配ですね」
「ほう....それはどういう時に?」
「直近だとこの間の大会前ですかね....」
葵は天才だ。
それは間違いない。
誰が見てもそうだろう。
だがその前に彼女も人間であり、1人の女の子なんだ。
でも周りは期待するのをやめられない。
俺でさえも。
「良くも悪くも、期待に応えるのが当たり前になりすぎている。周りも、葵自身も。そして俺も」
「.....君は本当によく見えているな。それだけ見えてるからこそ、君からは近付けないか?」
先生の問いかけから、思わず目を逸らしてしまう。
「君の感性は大人になってから身につけるようなものだ、今の時点で受け入れてくれる人は少ないだろう」
遠慮がないなと思うが、変に取り繕ってくる大人よりよっぽど話しやすい。
ちゃんと真正面から見てくれてる気がする。
面倒見が良いというのは本当のことなのだろう。
「だからこそ、今君を見てくれている人間は手放すなよ?」
「分かってますよ.....」
俺にだって分かっている。
葵だけじゃない、萩原や田宮が居てくれることが当たり前じゃないこと。
「それをわざわざ言ってくれるために雑用に呼んだんですか?」
「それもあるが、他にもある....生徒会に興味はないか?」
いきなり何を言い出すんだこの人。
そんなの答えは決まっている。
「ありませんよ、向いてないですし、人望もありませんから」
「確かに人望はないが、君のような人間は貴重だ」
人望が無いの否定してくれないんですね。
無いものは無いから良いんだけど。
「全てが思い通りにとはいかないが、ある程度は平等な生活を望む生徒も多いだろう。そういう時に君の視点から意見が欲しい」
「俺から出る意見なんてたかが知れてますよ、今の学校生活に不満があるわけじゃないですからね。生徒が望む平等というのも不可能だと思ってるくらいなので」
これは強がりではない。
本心だ。
みんな等しく評価され、誰もが優遇される平等。
1度は夢見る理想だ。
だがはっきり言って、そんなものは不可能だ。
もし平等というものがあるのなら、それはみんな同じく冷遇される平等だ。
当然そんなものは誰も望まない。
性格も成績も努力の量も質も人それぞれで違うんだ、例え理想の平等が実現出来ても不平不満は出てくる。
そして同じ問題に辿り着く。
そんなの不平等だと。
みんなが望んでいたことなのに。
「そうか....まぁ生徒会のメンバーが決められるのは3学期になってからだ。気が変われば話してくれ。言っておくが、私の贔屓はしつこいぞ?」
少しニヤつきながら話しかける。
ホント勘弁して欲しい。
「じゃあ、あらかた片付いたから帰っていいぞ」
「....お疲れ様です」
時計を見るとそんなに時間は経っていなかった。
なんだか随分と話し込んでしまったように感じる。
「あれ?悟、今帰りか?」
さっき話題に出ていた俺の意中の相手。
まだ下校していないってことは図書委員の当番だったか。
「委員会おつかれ」
「うん、ありがとう」
委員会ってことは浅田も一緒だったってことだよな。
.....今近くにいない?大丈夫?
「浅田は?」
「先に帰っていったよ」
なら....いいか。
かと言って近くで見てたなんてことがだいぶ前にあったからな。
気は抜けない。
「一緒に帰らないか?悟」
「....そうだな」
断ろうと思ったけど、理由が思いつかないので一緒に帰ることにした。
ていうかどっちにしろ帰り道全部一緒だから断る方がおかしな話なんだがな。
「悟もなにかやってたのか?」
「葉月先生に雑用頼まれたんだよ」
雑用頼まれたというより、なんだか話し込んだ記憶が殆どだ。
多分作業というのは建前だったのかもしれない。
「はぁ....」
「なんかいつもより疲れてるね?そんなに雑用大変だったのか?」
「いや...それじゃなくてな....」
ん?と首を傾げながらこちらに顔を向ける。
可愛いからやめてそれ。
ほんとイケメンと可愛いを両立させてるのずるいから。
「実は生徒会について話してたんだ」
「え!?悟生徒会に入るの!?」
なわけないだろ。
「断ったよ普通に」
「え?なんで?」
「向いてないだろ俺なんか....」
「えぇ、そうか?結構向いてそうだけど」
冗談よせやい。
学校めちゃくちゃにする自信だけはあるぞ。
「でも来年度の話なんだから、決まるの3学期だろ?気長に考えていいんじゃないか?」
「先生にも同じようなことを言われたよ....時間が経っても変わらないと思うがな」
そう言いながら、俺は再び小さくため息を零す。
生徒会なんてやりたくない。
絶対めんどくせぇもん。
いくら葵からも向いてるなんて言われても、やれる気がしない。
━━━━━「今君を見てくれている人間は手放すなよ?」━━━━━
見てくれている人間か....
恐らく葵はそれなりに俺のことは見てくれている。
でも向いているっていうのは、葵は俺のどこを見てそう思ったんだろうか。
むしろ俺は葵の方が向いていると思う。
絶対に言わないけど。
責任感のある葵だ、生徒会やるなんて言い出したら止められる気がしない。
確かに生徒会の仕事は名誉かもしれないが、ただでさえ今でも大変なんだからこれ以上負担になることはしないでほしい。
「悟?」
「....んあ?どうした?」
「いや、なんか考え込んでいたから」
「すまん、なんか話してたか?」
「ううん、大丈夫だ」
....もう手放すなんてことはしたくない。
「葵」
「なに?」
「.....今日、家寄ってくか?」
「......え?」
少しづつでも勇気出さないとな。
「嫌なら良いんだが...テスト前に勉強をって言ってたろ?だから....一緒にやらないか?」
「.....うん!いいぞ!やろう!」
思ったより食いついてきた。
誘った俺が1番びっくりしてしまっている。
とんでもない誘いだったが、承諾してくれた。
今はこれが限界だが、少しづつ勇気出さないとな。
もう今から離れるなんて、俺には出来そうにない。
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