第40話

テスト期間がだんだん近づき、気付けばテスト2週間前。

それぞれの生徒が勉強に本腰を入れる。

一部を除いた部活も休みに入り、勉強に集中する期間が設けられる。

萩原に教えてもらって少し自信ができた。

授業も理解できる事が多くなってきた。


「葵〜テスト自信ある?」


「ん〜....まぁまぁかな」


「葵のまぁまぁはあんまりアテにならない.....」


同感だ。

自己肯定感が低いというか、謙遜というか。

まぁまぁと言っておきながら、高得点を叩き出すということがお決まりのパターンである。

もうここまでくると、まぁまぁというの嫌味になるレベルだが、葵が言うと嫌味に感じない。

まったく困ったものだ。


「全員いるな〜、座れ〜」


葉月先生が教室に入りホームルームが始まる。

特になにか連絡事項があるわけではないので出席を確認するだけで終わる。

そういえば今日は委員会活動の日だったな。

明石谷さんも真面目にしてくれるから俺も楽でいい。

授業もつつがなく進む。

今日の授業でテスト範囲は全て終わった。

この感じならテストも問題ないだろう。


「委員会行くか」


「悟〜」


....まさか教室内で呼ばれることがあるとは思ってなかった。

あぁ、目線が痛い。

激痛だよ。


「....どうした?」


「恵に教科書を貸してたんだけど返ってきてなくてね....受け取ってもらえるか?」


「分かった、今日伝えておく....ていうか体育館で貰ったらいいんじゃないのか?」


「バレー部今日休みなんだよ....」


「なるほど」


真面目な明石谷さんが珍しい。

と言いたいところだが、普段の彼女を知っているわけではない。

意外とおっちょこちょいなのかもしれない。


「あと....」


まだ何かあるのだろうか。

そろそろ貫通するぞ、この目線たち。


「テスト前、また一緒に勉強しないか?」


「....考えとく」


もう耐えられない、特に浅田。

あいつの目はちょっとダメだ。

ほんとに良くない。

あと葵もそろそろ注目されていることに気付いた方がいい。

俺の心も持たない。


「じゃあ、俺は委員会行くから」


「うん、また明日な」


「あぁ」


早くこの場から離れよう。


「ねぇねぇ!坂村くんと仲良かったの!?」


「あぁ...少しね」


「全然知らなかったよ!!」


少し....か。

そりゃそうだろうね。

幼なじみでもなかったら接点すらあったか怪しい。

彼女のことを好きになることも多分なかった。

それにしても....まさか教室内で話しかけてくれるとは....

この前も手繋いできたし....

もしかして俺のことが好きなのか?

いや、無いな。

有り得ない。

こんな俺と葵が両想いなんて、そんなのあるわけないだろ。

勘違いはいけない。


「おい」


屋上に近付けば、生徒立ち入り禁止だからか人目は少ない。

だから絶好といえば絶好のタイミングだろう。


「お前、邪魔すんなって言ったよな?」


「俺に言われても困るんだが」


「ふざけんな....なんで葵もお前なんかに....」


めんどくさい男だ、俺も人の事は言えないが。

葵は別に浅田のために居るのではない、もちろん俺のために居るわけでもない。

浅田は、俺が居るのにと思っているのだろう。

コイツは容姿も良いし、俺に対してはともかく、他の人には優しい。

周りの人と一緒に笑って話しているのをよく見る。

友達思いでスポーツもできるイケメン。

だが、全てが思い通りになるなんてことはない。

浅田のスペックを見れば、俺に無いものをほぼ全部持っていることくらいすぐに分かる。

だが、それで葵が好きになるとは限らない。

そんなのは彼女次第だし、俺ら次第だ。

少なくとも今の浅田の行動は、人が好きになる行動では無い。


「お前さえ居なけりゃ」


「なにしてんの?」


浅田が俺に拳を握って近づこうとしていた時に、明石谷さんの呼び声に助けられた。

いやほんと助かった。


「....明石谷」


「あんた部活は?」


「今から行くとこだったんだよ」


「ふーん....まぁそういうことにしといてあげる、早く行きなよ。屋上は立ち入り禁止だよ」


「ちっ、分かってるよ....じゃあな!」


そう言って、浅田は階段を下りていった。


「....大丈夫?」


「なにが?」


「いや、なにがって」


「何もされてないから大丈夫だ」


浅田も容赦なかったな、明石谷さんにも。

この人葵の友達だぞ。


「嘘だ、なんか言われてたんでしょ?....中学一緒でそれなりに仲良かったんだけど、少し気性が荒いところは相変わらずで....」


少しどころじゃないけどな。

まぁそれが他の人に向けられてないだけ、理性が働いてるということなのだろう。


「別に、慣れてるから.....それより早く掃除始めよう」


「そうだね.....やろっか!」


もう俺達も慣れてしまってるので、手早く掃除が進んでいった。

そうしてると、葵から頼まれてることを思い出した。


「葵が教科書返してって言ってたぞ」


「教科書.....あ!!そうだった!」


「俺の方で受け取っておいてくれっても言われてるから」


「そうなんだね!ちょっとまっててね!....はい!」


葵の名前が書かれた数学の教科書。

まだ一学期だから、そこまで汚れていない。


「じゃあ、俺の方から返しとく」


「ごめんねぇ!ありがとう!」


言われた通り教科書も受け取ったし、後は掃除を仕上げよう。


「坂村くん」


「ん?」


「浅田のこと....ほんとごめんね」


恐らく同じ中学出身だから謝っているのだろう。

この人は何も悪くないのに、律儀な人だ。


「明石谷さんは何も悪くないだろ?それに、さっきも言ったように慣れてるし」


「そっか.....でもなんで坂村くんに突っかかったんだろ」


「葵のことが好きだからじゃないか?」


「え?そうなの?」


知らなかったんだな。

まぁ同じ中学で仲良かったとはいえ、全部知ってるわけではないよな。

俺が葵のことを全部知ってるわけではないように。


「まぁ決して褒められた行動じゃないが、自分の気持ちに正直に動き回る行動力は素直に尊敬するけどな」


「凄いね....悪く言われてるのにそう思えるなんて....」


「別に凄くないだろ」


「なんだか高校生なのに高校生じゃないみたい、私は凄いと思うな」


ひねくれてるだけだと思うがな。

思ってることそのまま言ってるだけだし、普通に俺は浅田のこと嫌いだし。


「....葵の気持ちが少しわかるかも」


「何の話だ?」


「なんでもない、こっちの話.....じゃ!掃除も終わるし!片付けて帰ろう!」


上手くはぐらかされた。

葵が何か言ってたんだろうか....

気にしても仕方ないか。


「でも....そっか....浅田は葵の事....そっかぁ....」


何やら呟いていたが、掃除道具を片付ける場所は離れていたのでよく聞こえなかった。

西日に照らされる顔はわずかに苦しそうに見えた。












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