第39話

一日一日、刻一刻とテストが近づいている。

今日は学校が無い休日。

まだテストが近いわけではないが、今の時期からしっかりやっておかないと自信が無い。

特に俺は部活に所属していないのだから、スポーツで結果を出せない分テストで点数を取らないとな。

めんどくさいが部屋で1人で机と向かい合う。


.....予定だったのだが。


「田宮さんここ間違ってるよ」


「え?どれです?」


「悟はどこか分からないとこはあるか?」


「なんで居るの?君ら」


何故こうなったのか....

経緯を説明すると、元々萩原は田宮と一緒に勉強するつもりだったらしく、街中にある図書館に行こうとしていた。

だが図書館は点検中で休館。

どうしようかと迷っていると、出掛けていた葵にばったり会った。

少し話し込んでいると一緒に勉強しようということになり、葵の勉強道具を取りに佐倉宅に向かった。

隣は俺が住む家になるので、どうせなら俺の部屋で4人で一緒にやろうという話になったと。

うん、分からん。


「ごめんね、急に押しかけて」


いやほんとだよ、びっくりしたわ。

おかげで何も用意してなかったぞ。


「仕方ないですよ、図書館が休館だったんですから」


「いや、他に場所なんていくらでもあったろ....」


「良いじゃないか、4人でやれば色んなことを教え合えるぞ?」


.....それはちょっと助かります。

今回のテストはあんまり自信無いので。


「はぁ....まぁとりあえずお茶取ってくるから、勉強進めといてくれ」


部屋を出てリビングで人数分のお茶の準備をする。

勉強とはいえ、自分の部屋に友達が居るという状況が俺の心を浮つかせる。


「悟、私も手伝うよ」


「ありがとう」


今日は少し暑いから氷を入れよう。

葵が持ってきてくれた4つのコップに均等にお茶を注いでいく。


「なぁ、悟」


「ん?」


「.....いや、やっぱりなんでもない」


なんだ?歯切れが悪いな。

今更言いにくいことでもあるのか?

だが、なんでもないと言われてズケズケと踏み込むのも迷惑かもしれない。

だから聞きたい欲を無理やり抑え込む。


「そうか....まぁ、話したくなったらいつでも話せよ」


「ありがとう....いつかは...」


「気にすんな」


葵自身の悩みだったら多分この場で話してくれていた。

ほんとに多分だけど。

話せなかったということはまた別のことなのかもしれない。

田宮のことか?

いや...今日の感じを見てるといつも通りだ。

明石谷さんか?

.....いや、余計な詮索はよそう。

いくら考えても予想の範囲は出ない。


「戻ろうか」


「うん」


そして、4人分のお茶を持って部屋に戻る。


「悪い、待たせたな」


「大丈夫だよ!お茶ありがとう!」


「ありがとうございます」


それから夕方になるまで、こまめに休憩を挟みながら勉強をした。

とても充実した時間だったと思う。

分からないところはちゃんと理解することが出来たし、今回のテストは自己最高を目指せるかもしれない。


「それでは、今日はお邪魔しました」


「またね!坂村くん!また一緒に勉強しよ!」


2人を見送り、俺と葵が家に残った。

親はまだ仕事から帰ってきていない。

家に男女2人きり、何も起きないはずもなく....

という展開にはならない。残念ながら。


「悟、少し付き合ってくれないか?」


「どっか行くのか?」


「うん、コンビニに」


勉強をこれだけ頑張ったんだ。

なにか甘いものでも欲しいと思っていたところだから丁度いい。


「分かった、いいぞ」


コンビニに行ったらそのまま帰るため、葵は荷物をまとめて、俺は財布だけを手に持って家を出る。

長時間勉強したおかげか、休日なのに学校帰りのような気分になっている。

日はまだ沈んでいない。

コンビニまで、テストの自信はどうだとか他愛のない話をして歩を進めた。

コンビニに着くと、少し見覚えのある人が居た。


「葵じゃないか、こんなところで会うなんて驚いたな」


「こんにちは、キャプテン」


真田冬雪さんだった。


「冬雪待たせた....あれ、佐倉」


「夏鈴さんもお疲れ様です」


夏鈴さん.....キャプテンは知ってるけどこの人はちょっと知らないぞ....

いや、試合見た時にこの人もコートに居たような.....


「あぁそうか、私とは昨日話したけど、夏鈴のことは知らないんだったな」


「山井夏鈴、よろしく」


「どうも」


なんかこの人怖くね?


「先輩達は勉強だったんですか?」


「あぁ、この近くで夏鈴と勉強してたんだ。葵達もか?」


「はい、そうです」


「なるほど....」


少し考えたあと、ニヤニヤしながらまた俺たちに顔を向ける。


「勉強終わりに、"2人きり"でお出かけデートか?」


デート....だったら良かったのにな。

でもこれは傍から見ればデートに見えるのか....やべ、頬が緩みそうだ。

気を引き締めよう。


「ふふ、長話したいところだが私たちも時間があるからもう行くよ、あとは2人で続きを楽しんでくれ」


「ちょっ、ちょっとキャプテン!」


「はははっ!」


すると少しだけ俺に近づき小声でつぶやく。


「....葵のこと泣かしたら許さないぞ?」


顔は笑っていたが、声は確かな警告の色が出ていた。


「....えぇ、その時は殴ってください」


まだそんな関係にはなってないが、葵の悲しくて泣いているところなんて見たくない。

葵が望むことなら.....なんでも叶えたい。

まぁそのためには俺が勇気出さないとな。

そして先輩たちはそのまま帰って行った。

それにしても、夏鈴さん?と2人で並んで歩いてるのを見てると.....なんか.....


「あの2人って付き合ってんのか?」


「え!?」


変な事聞いてしまった。

そりゃ驚くよな。

でも、あの二人の雰囲気見てると....なんとなく....そんな感じがする。


「付き合ってないと思うよ.....でも、そう見える?」


「なんとなくな」


「....もしそうだったらどう思う?」


どうって言われてもな....

他人の自由だし別に.....

まぁ周りの目にどう映っても保証はできないがな。


「本人が幸せなら、それでも良いと思うぞ」


キザなことを言うが、恋愛で幸せになる手段なんて人それぞれだ。

その手段が、たまたまそうだっただけ。

単純な話だ。


「幸せなら....確かに....そうだよな」


少し考えて、スッキリした表情になった。

もしかすると昼間に相談しようとしたのはあの二人のことだったのかもしれない。

スッキリしているようで良かった、俺何もしてないけど。

俺が考え込んでいると、暖かい何かが俺の手を包む。


「....,...なっ、なななな何してんだ葵!?」


「良いじゃないか、少しは」


「いやダメとかじゃなくて.....またなんでこんな.....」


「悟と手を繋ぐと幸せだからだ」


綺麗に笑った顔が目の前にある。

ほんとやめて、勘違いしちゃいそうになるから。

それからコンビニの入口まで手を繋いで、コンビニでアイスを買った。

そして、コンビニを出てからも手を繋いで歩いた。

その時なにか話しかけてくれた気がしたが、頭が回らず記憶はほとんど無かった。





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