第38話
バスケの練習が始まって、1時間。
いまいち集中できない。
理由は分かってる。
「よし!休憩に入ろう!」
キャプテンの掛け声で、一旦練習が止まる。
私も練習を中断し、水を飲む。
集中できない理由なんて1つだ。
悟のファンだって言ってた原田さん。
実際話してみると凄く素直で可愛い子だった。
.....やっぱりあんな感じの子の方が良いんだろうか。
「どうしたんだ?葵」
「キャプテン....」
「そういえばさっき居た坂村くん、結構優しそうな男だったじゃないか」
「悟は優しいですよ」
即答した私を見て少し驚くキャプテン。
だがすぐにいつもの大人びたキャプテンに戻った。
「ほんの少し話しただけだが、なんとなくわかったよ。葵が惚れるくらいだからな」
その言葉を言われて顔が熱くなる。
そんな私を見て少し笑う。
なんだか全部を見透かされてるような気分になる。
みんなよく私をカッコイイと言ってくれるが、カッコイイ女性というのは恐らくキャプテンのことを言うんじゃないかと思う。
口調は冷静で、それでも表情は表に出やすく柔らかい。
「....やっぱり男の子はあんな感じの子が好きなんでしょうか」
「どうだろうな...好みなんて人それぞれだから必ずしもそうとは言えないんじゃないか?少なくとも、坂村くんにそんな気があってあの子と一緒に居たようには見えなかったけどね」
悟もそんな関係では無いって言ってたけど、やっぱり不安だった。
悟のカッコイイ所は私しか知らないと慢心してしまっていたんだ。
「私は葵と坂村くんはお似合いだと思うよ、まだ彼とは仲良くないから全部がわかるわけじゃないけどね」
「そ...そうですかね....」
田宮さんも同じことを言ってくれた。
2人に言われるとなんだか自信になる。
「冬雪〜」
「ん?なんだ?夏鈴(かりん)」
山井 夏鈴(やまい かりん)先輩。
バスケ部の副キャプテン。
表情が私より表に出ることが少なく、口調も少し冷たい。
でも本人はそれを気にして治そうとしてるらしいが、中々上手くいかないらしい。
かなり悩んでいたみたいで、私に相談してきたくらいだ。
━━━━━「佐倉....私って怖い?」
「えっと....まぁ、少しだけ」
「そっか....佐倉は私と同じように表情筋が固いのに....どうやって友達作ったんだ?」━━━━━
正直最初は少しどころか、かなり怖いと思っていたが、全然そんなことは無かった。
すごく繊細で優しい先輩だった。
そして試合ではすごく頼りになる先輩だ。
「あ、ごめん話してる途中だった?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「それで、どうかしたのか?」
「部活が終わったら自主練に付き合ってくれない?」
「うん、いいよ」
「良かった、じゃあまた後で」
全国大会に向けて、先輩たちは気合十分という感じだ。
私も見習わなければ。
「.....少し葵が羨ましいよ」
ボソッと口にした言葉に驚きを隠せなかった。
「背が高くてスタイルも良くて、カッコイイからな」
「急にどうしたんですか?」
「いや....私も葵のようになれていたら....迷わずに動けるのかなと思ってね」
その顔は今まで見たことない、すごく切なそうな顔をしていた。
ていうか....もしかして先輩も誰か....
「どんな....人なんですか?」
「はは、ごめんちょっと顔に出てたか....言えないかな、多分叶わないし」
先輩でもそう思うことがあるんだと、妙に親近感を覚えてしまった。
「でも....その人の前だと良いとこ見せようって頑張れる。バスケも勉強も」
その気持ちは凄くわかる。
私も同じだから。
「いつか葵には話せる気がするよ、その時は聞いてくれ」
「はい、待ってますよ」
なんだか頼られてるみたいで嬉しくなる。
いつもお世話になりっぱなしの先輩の力になれる。
そしてまたキャプテンの掛け声で練習が再開し、日が暮れるまで練習は続いた。
「お疲れ様でした葵さん!」
1年生が水を持ってきてくれる。
少し幼く見える笑顔が可愛い。
「あぁ、ありがとう。先輩達にも水を頼む」
「はい!」
今年入ってきた1年生はみんな素直な子だ。
私もあれくらいニコニコできたら....と思いながらキャピキャピした自分を想像する。
....似合わないな。
やめておこう。
もう練習が終わって片付けも終了。
あとは身支度をして、帰るだけ。
「冬雪、始めよう」
「うん」
そういえばあの2人は残って練習すると言っていた。
━━━━━「....多分叶わないし」━━━━━
一体誰なんだろうか。
あの先輩が好きになる人。
柄にも無いことは分かっているが、すごく恋バナをしたい。
なんだか先輩とだったら何時間でも語り合えそうな気がする。
「あ!葵〜!」
「恵、おつかれ」
「今終わりでしょ?一緒に帰ろうよ!」
「あぁ、準備が終わったら外で待ってるよ」
「やったぁ!待っててね〜!」
そう言ってバレー部の片付けに戻っていった。
そしてもう一度先輩の方に顔を向ける。
....なんだかキャプテンすごい楽しそうに見える.....多分。
私のこういう勘はあまり信用ならないが....なんだかそう見える。
まさか.....いやいや、まさかね。
悟の事を考える日が多すぎて少し恋愛脳になってしまっているのだろう。
早く帰る準備を済ませて恵を待っていよう。
それから恵と合流して暗くなった帰り道を2人で歩く。
帰り道では悟との進展を根掘り葉掘り聞かれてまた頭がショートしてしまった。
水族館で手を繋いだこと、毎試合悟が見に来てくれたこと。
悟が泣きながら喜んでいたこと。
思い出すだけで幸せだった。
「はぁ、もう葵の惚気はお腹いっぱいだな〜。葵も勇気出したんだね〜」
「あぁ、ちょっと頑張ってみたよ」
「じゃあ今度はテスト勉強も一緒にやってみたら?」
そうだった、もう大会が終わったのだから次はテスト期間がやってくる。
悟と一緒に勉強....すごく良い。
でも、勉強に集中できるだろうか、そこが心配だ。
「分かんないとこがあったら坂村くんに教えてもらってさ。あ、でも葵も頭良いからそんな展開にはならないか」
「それは...でも誘ってみるよ」
「うんうん!頑張ってみて!」
また私は幸せな展開を想像しながら胸を高鳴らせる。
原田さんに対する不安なんてもうどこかに消えていってしまった。
でも、キャプテンの事は気がかりだ。
全国大会もあるし、あまり踏み込んだことは聞けない。
もし、本当にもしも、私の予感が当たっていたとすれば....
私で本当に力になれるだろうか....
こういう時、悟だったら.....どうするだろうか....
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます