第34話

清明高校 34-36 春海高校

第2Q終了時点で、春海高校リード。


「息付く暇も無いな」


「ほんと目まぐるしいね〜、見てるこっちも疲れちゃいそうだよ」


「萩原さん...私たち何もしてませんよ....」


「あはは....」


初戦からずっと見てるからか、俺たち三人は前よりバスケに詳しくなった。

萩原に関しては1試合目が面白くて、家に帰ってからわざわざ携帯でバスケの試合を見たらしい。

俺は元々バスケは見ていたからそれなりに知っていたが、まさか萩原がここまでハマるなんてな。


「お、始まるぞ」


第3Qの開始の笛が鳴る。


「点差自体はそこまで開いてないですが、無策だと厳しいまま....どうなりますかね」


清明ボールから始まる。

開始直後から、選手は激しく走り出す。

無理やり葵の1on1に持ち込む。

葵もその策に応えて、得点を決める。


清明高校 36-36 春海高校


同点に追いつく。


「ハーフコートからのスローイン、いきなり速攻をしかけてきたか」


確かに同点に追いついたが、速攻ができる場面でしか使えない。

少しでも行き詰まれば使うことができない。

それより気になるのは清明のディフェンス。


「どう守る...前半は狙われてるくらいに1on1を仕掛けられていたからな」


清明が出した答えは、マークチェンジ。

キャプテンの冬雪さんが名村のマーク。

桐谷のマークは葵に変わっていた。


「負担を減らすために変えてくるかなと思ったけど....これだと逆に負担増えないかな?」


「負担は大きいが、名村の相手をするよりマシ....ていうことなのかもしれない」


確かにあの名村という人のディフェンスは葵以外には手に負えないかもしれない。

というか、葵じゃなきゃここまで抑えられていない。

情報が少ないからだ。

高校から始めたという経歴で、一年生。

事前にある程度の情報はあっても、実際に対面しなければ分からないことなんていくらでもある。

けど、今葵と対峙しているのは去年も対戦している桐谷茜。

持っている情報は名村より多いからやりやすい。


「キャプテン!」


名村がボールを呼ぶが、葵は出させない。

桐谷は他の選手にボールを渡す。

そして決められ、またリードを奪われる。

そんな事コート上に居る選手たちがいちばん分かっていることだろう。

確かにやりやすいから多少の負担軽減になるかもしれない。

だが、この展開じゃ意味が無い。


「まだまだ!諦めるな!!」


「はい!!」


「葵!」


すかさず2人がディフェンスにつく。

素早いモーションでスリーポイントを放つ。

ボールはリングの中を綺麗に入っていく。


「よっし!!ナイス葵!!」


清明高校 39-38 春海高校。

清明高校逆転。

まだまだ終わらせないという気迫が目に見える。

だが春海高校、動じない。


「これが....前回王者の気概」


桐谷茜は葵がマークについているから下手に動けないが、その他は違う。

攻撃力自体は下がっているはずなのに、点は変わらず決まっていく。


「楓ナイスシュート!」


「あざっす!!」


清明高校 39-40 春海高校

リードが奪えない。

それでも、なんとかキャプテンの得点で食らいつく。

清明高校の再逆転。

会場内のボルテージもどんどん上がっていく。


「すげぇ!!瞬きするのも勿体ねぇよ!」


「どっちが勝つんだこれ!?!?」


春海高校の攻撃にようやく隙が生じる。

桐谷のパスを葵がカットする。


「フリー!そのまま決めろ!」


ドリブルで一気に持ち運ぶ葵に、名村が追いつく。

一瞬止まるが、葵は難なく抜いていく。

少しの足止めの間に桐谷も追いつくが、それも抜いてシュートを決めた。


「うぉぉぉ!!!2人抜き!!」


相手はまさに県内の絶対王者。

だが、葵もまた天才なのだ。


清明高校 43-40 春海高校


形勢逆転。

この試合初めてのスリーポイント以上のリード。

こんな展開なのに、春海高校は焦る様子を1ミリも見せない。

桐谷茜を中心にボールを回し、確実に差を縮める。


「すごいチームですね...流れがこちらに傾きかけてるのに全く動じない」


清明高校 43-42 春海高校


これだとどっちがリードしてるのかも分からない。

だが、清明高校も確実に差を広げる。


「冬雪ナイス!」


清明高校 45-42 春海高校

両チーム得点は決めるものの、差がこれ以上広まらないまま、時間だけが過ぎていった。

なんとか突き放したい清明と、あと少しのところを掴んで離さない春海。

どちらが精神的にキツいかなんて一目瞭然。

そんな時に清明高校にミスが生まれる。

そのまま桐谷が持ち込み得点を決めた。


清明高校 49-50 春海高校


「すまん!視野が狭かった!」


「大丈夫だ!切り替えて冬雪!」


差を広げたいという気持ちが焦りを生んだか。

司令塔、痛恨のパスミス。

せっかくのリードを守りきれないまま、第3Q残り3分。

この攻撃は確実に決めたいところ。

その焦りは大きなミスを呼ぶ。


「葵!無理するな!」


たまらず葵はキャプテンにボールを戻す。

春海高校のディフェンスは崩れない。


「凄いプレッシャーだね、これだと出すところが無い....」


ダブルチームで1人空いているはずなのに、その選手にパスを出そうにも全員が警戒を怠っていない。

パスを出そうものならすぐに奪われる。

出しどころに迷っていると、桐谷が腕を伸ばしボールを奪われた!


「しまった...!!戻れ!!」


桐谷はあっという間にゴール前で飛んでいる。

だが、葵もそのブロックに飛ぶ。


「佐倉さん!早い!!これなら止められます!!」


気合い全てをそのブロックに込めている。

....が

桐谷が体勢を変えた。

葵は勢いを止められず、桐谷に当たる。

そしてファウルを貰いながらシュートも決めた。


「プッシング!黒6番!!バスケットカウント!ワンスロー!!」


観客の歓声が響き渡る。


「さっきのやり返しだな!!さすが桐谷!!」


スーパープレイによって起こった大歓声。

だが、こちらとしては全く喜べない。


「バスケットカウント....さっき佐倉さんがやったのと同じだよね?」


「あ、あぁ、そうだぞ」


いや、それよりも


「それよりまずいですよ!佐倉さん、ファウル4つ目です!!」


あと1つファウルを貰ったら退場。

第3Qを少しと、第4Q丸々。

葵は思い切ったプレーが出来ない。

いや、もう下げられてもおかしくない。

ブザーが鳴り、選手交代を告げられた。


「佐倉さん....」


田宮が心配そうにベンチに下がる葵を見る。

キャプテンも何やら葵に声を掛けている。

第1Qからダブルチームを仕掛けられながらチームの得点ために走り回り、相性の悪い選手にディフェンス。

前半から続いた徹底的なエース潰しは大成功だった。


清明高校 49-53 春海高校


第3Q残り2分。

清明高校エース 佐倉葵 脱落。


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