第33話

熱気が上昇し続ける決勝戦。

序盤こそリードされていたものの、最後のワンプレーでなんとか追いつき、第1Qは同点で終えた。

間もなく第2Qが始まる。


「次は相手ボールからの再開ですから、なんとか止めて逆転したいですね」


「うん....でも、相手もすごく強いよね」


こっちの不安をよそに、第2Q開始のブザーがなる。

まずボールを持ったのは桐谷。

マークに着いたのは清明高校キャプテン。

ドライブで抜こうとするが、なんとか食らいつく。

ディフェンスが固いのはこちらも同じだ。

それでも素早くパスを回され、得点を許す。


清明高校 19-21 春海高校


早速試合が動く。

こちらもキャプテンがボールを持ち運ぶ。

相変わらず葵にはマークが激しい。

他の選手にパスを回す。

そして選手それぞれが流動的に動き、1人選手がフリーになった。

その選手がスリーポイントを決める。


「ナイスシュート!冬雪(ふゆき)!」


キャプテンって冬雪って言うんだ。

全然知らなかった。

これだけ強いチームのキャプテンなんだから、もう少し知られても良いはずなんだがな。

何はともあれ、スリーポイントを決めたことで逆転だ。


清明高校 22-21 春海高校


「さぁここ1本止めるぞ!」


「はい!!」


第2Qも点の取り合いになることを予感させる。


「ここを止めて、決めることが出来たら流れはこっちのものです!」


試合展開が次から次へと変わりやすいバスケで流れを掴むというのは重要な意味を持つ。

素早くボールは回り、ある選手にボールが渡る。

さっき葵にファウルされた選手だ。

マークはまたもや葵。

さっきの対決で良いイメージを持ったのか、またドライブで強引に行こうとする。

葵もそう感じたのか少し身を引く。

それを見た相手はドライブの姿勢をやめて、一歩下がってシュートを打った。

葵のブロックが間に合わない。


「上手い」


そしてそのシュートも決まる。

またもや逆転。

それより驚いたのが、葵が負け続けているということ。

確かに攻撃が持ち味の選手だが、決してディフェンスが苦手では無い。

その葵がやられている。

葵も少し苦い表情をしているように見える。

流れが引き寄せられない。


「厳しい展開が続くな....」


「うん、でも佐倉さんたちも負けてないよ!」


すると、葵のダブルチームが解かれていた。

逆転したとはいえ、やはり1人フリーにさせておくのは得策じゃないと考えたか。


「葵!」


ディフェンスは力強くチャージをかけるが、ボールを持った葵は一気に加速する。

.....だが


「あっ!!」


葵が加速したところを、相手選手がファウルを貰いに来た。

審判が笛を吹く。


「オフェンスチャージング!!黒6番!」


「こんな止め方もあるんですね....こんなことされたら迂闊に抜けませんよ」


たとえ抜かれても、ファウルを貰いに近づく。

流れをなんとしても掴みたい時にダブルチームを解かれた、千載一遇のチャンス。

一つ一つのプレーが罠だった。


「どんまい葵!私も気付けなかった!ごめん!」


「っ....大丈夫です!」


このプレーを一回で成功したのは痛い。

チーム全体に、特に葵の脳内にしつこくこびりつく。

それだけでプレーの幅は狭くなる。

徹底したエース潰し。

その上、相手の攻撃も威力を増していく。


「ナイス茜!!」


エースを中心に得点を重ねていく。


清明高校 27-36 春海高校


第2Q残り2分。

清明高校もそれでも食らいつこうとする。

キャプテンからボールを受けた先輩がスリーポイントを決めた。


「ナイスシュート!」


「なんとか頑張ってるけど...佐倉さん大丈夫かな?」


ただでさえストレスが溜まるディフェンスをされながらも、得点を奪うために走り回っている。

そして守備ではあの高速ドリブラーの相手。

目に見えて疲労が見えるわけじゃないが、それでも負担は大きい。

第2Q残りわずか、これが終わればインターバルで少し休める。


「あと少し....踏ん張ってくれ....葵....」


思わず声に出して祈る。

1on1。

葵は相手のドライブに完璧に反応したが、汗で足を滑らせて、相手選手を押す形でぶつかる。


「プッシング!!黒6番!」


無情にも審判の笛が鳴る。


「大丈夫か!?葵!」


「すみません、汗で滑りました」


「ここ止めて差を少しでも縮めよう!切り替えて!」


「はい!」


残り30秒。

再び葵が1on1に持ち込まれる。

狙われてると思われても仕方ないほどに一辺倒だ。

守備の負担だけでも減らしたいところだが、それを許さない。

その心配は必要ないと言わんばかりに、再び葵は完璧な守備を見せる。

攻撃の体勢が崩れたところを逃さずにボールを奪う。


「カウンター!!」


「葵!」


ここで差を縮めるために、スリーポイントを放つ。

相手のブロックも速い。

慌てて飛んだからか前のめりになって、葵とぶつかる。

そして


「プッシング!白5番!バスケットカウントワンスロー!」


起死回生の4点プレイ。

観客のボルテージが更に上がる。


「うおぉぉぉぉ!!!凄いぞ!!」


そしてフリースローを決めて、前半終了。


清明高校 34-36 春海高校


「ファウル貰いながらスリーポイントシュート、中々見ないプレーだな」


「はい...ここまで徹底的にマークされてるのにあの思い切った攻撃姿勢。凄い精神力ですよ」


「これぞエースって感じだよね」


相手の作戦はおそらく成功している。

試合を見る限り、葵の疲労は両チームの中で1番溜まっているだろう。

だが、それでも葵を完全に止めることができていない。

証拠に、清明高校のスコアの3分の1は葵の得点だ。

いや、ここまで徹底的にマークしているからここまで抑えられていると言った方が正しいか。

それよりも予想外だったのは。


「春海の7番凄いな!あの佐倉とほぼ互角にやりあってるぞ!しかもまだ一年!」


「高校から始めたって聞いたが、ありゃとんでもない天才だな...名前は確か、名村楓(なむらかえで)」


葵ともう何度も対峙している選手。

ここまでの対戦成績はほぼ互角。


「高校から初めてこれか....凄い選手が出てきたな」


「うん、しかもこの決勝のスタメン起用に応えてる」


桐谷茜だけに注目してしまっていたが、思わぬ伏兵が出てきた。

清明は葵以外も確かに凄いが、それでもどうしても見劣りしてしまう。


「なにか手を打たないと....差は広まる一方だぞ....」


前半を終えて早くもピンチ。

清明高校悲願の全国出場までの道のりはまだ遠い。

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