第32話

全国高校バスケットボール大会。

全国数千を越える高校のバスケットボールの頂点を決める。

今はその地区大会。

全ての選手たちが3日間、この大会を目指して戦う。

泣いても笑っても、最後に勝ち残るのは一校のみ。


「凄い人の多さだねぇ」


「そりゃそうですよ、なんてったって....」


そしてその一校が....


「今日は決勝ですから」


この後決定する。


あれから教室以外で葵の顔を見ていない。

この大会にかける思いの大きさが分かる。

ベスト4まで勝ち上がれば、もう全国を経験している高校しか残らない。

うちの地区大会は激戦区だと聞いていたけどここまでなんで知らなかった。

四強以外の試合もレベルが高すぎる。

全部の試合を田宮と萩原と一緒に見ていたが、驚きの連続だった。

そしてそれは葵に対しても同じだ。


「今日どっちが勝つと思う?」


「やっぱ佐倉だろ!あんなすげえ選手が女子で出てくるなんて有り得ねぇよ!準決勝もすげぇ活躍だったし!去年より凄みあるぞ!」


通りすがりの人間からも葵の名前が出る。

中学二年の時点でもうこれ以上は無いだろってくらい注目されていたが....高校では更に知名度は上がったみたいだ。


「初戦から見てて思ったけど、佐倉さんって本当に凄い選手なんだね」


「はい、校内の人気は常に聞いていましたが、校外でもここまでなんて...私も思ってなかったです」


「中学の頃から凄い注目されてるのを見てたが、流石にこれは驚くな」


準決勝も一進一退の攻防だった。

全国レベル同士の試合は、一瞬の息をつく暇もない。

なんとか勝ち上がり、決勝まで駒を進めた。

今日が最後、この試合に勝てば全国。

だが....


「でも今日の相手は去年全国大会に出場した高校ですよね」


そう、決勝の相手は去年の全国出場校。

その全国大会でもベスト8まで行っている。

今の時点で、間違いなく県内最強だ。

そしてその中心に居るのが...


「確かに佐倉葵も凄いが、相手にも桐谷茜(きりやあかね)が居るからな!俺は桐谷を押すぜ!」


桐谷茜、県内最強高のエースでキャプテン。

去年からエースとして活躍し、今年は自身最後の大会。

葵達と同様、この大会にかけるものは大きいだろう。


「大丈夫でしょうか...」


「俺たちが不安になったって仕方ない、葵達は本気で勝ちに行ってるんだ、応援するしかないさ」


葵ならきっとやれる。

最後まで諦めずにやってくれる。


「そうだね!僕たちは一生懸命応援しよう!」


会場内に入るともう観客は大勢居た。

選手たちはもう既にアップを始めていた。

その中には葵の姿も。

選手たち全員の表情はやはり緊張で硬くなっているように見える。


「これで決まるんだよねぇ...わぁなんか僕たちまで緊張しちゃうよ!」


「萩原さん、それ一昨日も昨日も言ってましたよ....」


「えへへ....」


観客の騒がしさとは裏腹に、選手たちはアップを静かに終えた。

いつの間にか観客席は埋まっており、席に座れていない人は立ったまま観戦しようとしている。


「只今より、全国高校バスケットボール大会 地区予選大会の決勝戦を行います」


場内に響くアナウンスで拍手が響き渡る。


「スターティングメンバーは整列してください」


整列しているスターティングメンバーは全員ユニフォーム姿になっている。

試合開始はもう間もなくだ。


「...始まるね」


「あぁ....」


緊張がこちらまで伝わってくる。

選手たちの気迫は相当なものだ。

主審が声高らかに宣言する。


「これより!清明高校 対 春海(はるみ)高校の試合を始める!礼!」


「よろしくお願いします!!」


選手たちの大きな声と礼で、再び拍手が巻き起こる。

そしてそのままフォーメーションに着く。

主審がボールを上に放り試合が開始した。

まずボールを持ったのは清明高校。


「葵!」


そのまま葵にボールは回る。

だが、攻められない。


「ダブルチーム....そう簡単にパスもシュートもさせてくれないですよね」


少し攻めあぐねていると、味方が顔を出す。


「葵!こっち!」


「先輩!」


それからパスを早く回していても、中々守備が崩れない。


「凄い守備だね....これどうしたら....あっ!」


パスをカットされた。

一瞬の隙だった。

そしてそのまま桐谷がゴール下まで持っていき決めた。先制は春海高校。

得点が決まったことで歓声が上がる。


「切り替えていこう!まだ始まったばかりだ!」


キャプテンナンバーの選手が清明高校の選手に声をかける。

葵にはダブルチームでベッタリとディフェンスがついている。

清明高校もワンプレーで少し攻め方を変えた。

葵中心ではなく、キャプテンを中心に得点を決めていった。

だが....


「茜!」


スリーポイントが決まった。

清明高校 7-11 春海高校。

中々流れをこちらに持ってこれていない。

むしろ....


「流れを持っていかれかけてるな」


「はい、佐倉さんが居るからなんとか追いすがってはいますが....」


差が縮まらない。

だが、それを大人しく見ている葵ではない。


「先輩!」


「っ!佐倉!」


葵にボールが渡る。

そしてすぐに二人が駆け寄るが、間に合わない。

葵はそのままシュートモーションに入った。

スリーポイントシュートが決まる。


清明高校 10-11 春海高校


「ナイス葵!!」


「はい!」


チーム初のスリーポイント。


「この一本は大きいですね」


「これで少しでも流れが来れば....」


第1Q残り4分。

一点差に詰め寄る。

相手も負けずに、桐谷だけじゃなく周りの選手も決めていく。


「桐谷さん!こっちです!」


桐谷からパスを貰った選手が初速の速いドライブで切り込んでいく。

マークが切り替わって、慌てて止めようと葵が手を伸ばしたが、主審の笛がなる。


「プッシング!黒6番!」


葵のファウルだ。


「どんまいどんまい!!まだ第1Qだから無理しなくていいぞ!」


「はい!すみません!」


まだ慌てる場面じゃない。

流れを持ち込めるかどうかの瀬戸際で、これは痛い。


「これは痛いが....あの選手の切り込みめちゃくちゃ速かったな」


「はい、あんな急速に来たら誰もがぶつかるかもしれません」


桐谷の事を先輩と言っていたってことは、葵と同い年か一年生。

それからも攻防は続き、第1Q終了間際。

清明高校が相手のパスをカットする。


「おぉ!カウンターだ!!」


「葵!」


葵にボールが回る。

この日初めての1on1。

マークは桐谷。

両チームの絶対的中心選手同士。

永遠に感じる一秒の睨み合い。

葵が動く。


「いきなりスリー!?」


桐谷もブロックに動くが、次の瞬間には虚をつかれる。

シュートはフェイクだった。

ディフェンスの姿勢が崩れて、葵が切り込みそのままレイアップシュート。

だが桐谷もすぐに追いつく。

葵はそれすらも読んでいたのか、ブロックを掻い潜り、ほぼ後ろ向きでシュートを決めた。

それと同時にブザーがなる。

第1Q 19-19の同点。


「うぉぉぉ!!なんだ今の!!バケモンだろ佐倉!!!」


興奮気味に近くの観客達が叫ぶ。


「す、すごい動きだったね!!今の!!」


萩原もそれ以上に興奮していた。


「....相手も追いついてきたのに....それすらも掻い潜って」


「今のは天才以外の何物でもないな」


最後の攻撃は男子顔負けのプレーだった。

一番最初にスリーポイントを一発で決めたからこそ、今のフェイクにも引っ掛かる。

また入るかもしれないという一瞬の気の迷いも葵は逃さない。

これが全国レベル。

決勝戦に相応しい接戦の幕開けに観客は大きな歓声を上げた。

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