第30話

ゴールデンウィークが終わった朝。

何かの間違いで一日だけ休みが伸びないだろうか。

そんなことを考える日が二週間続いた。

もう土日を跨いでるのに。

まぁそんな都合のいい間違いなんて起こるはずもなく、太陽は強く光っていた。

そろそろ暑くなりだす。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい〜」


家を出て、いつもの学校までの道を進む。

ゴールデンウィークまで少し多かった人通りも、今は少ない。

皆それぞれの生活に戻っていったのだろう。

そんな俺も普通の学校生活に戻っている。

校門を通ると、あちこちから部活の声が聞こえる。

ほとんどの部活が朝練をしているようだ。


「おはよ〜」


「おはよぉ」


いつものように挨拶が飛び交う教室で静かに過ごしていると、朝練をやっていた生徒が教室に入ってくる。

当然その中には葵の姿もある。

もう大会も近いから、どこもより一層気合が入っている。

前まではまだ余裕がある時間に教室に来ていたが、今はギリギリまでやっているのだろう。

今年は俺も葵の試合を見に行くつもりだ。

俺に出来ることなんて応援くらいしかないが、葵が全国に行く姿を見届けたい。


「おはよう、坂村」


声を掛けてきたのは深見だった。


「おはよう、朝早くからおつかれだな」


「もう大会も近いからな」


深見は男子バスケ部。

うちの高校の体育館はほんとに大きい。

体育館でやる部活は三つ。

男子バスケ部、女子バレー部、女子バスケ部。

この三つの部活ができるように広く大きく出来ている。

部活が強い高校だからできることだろうな。


「隣のコートだからよく見かけるんだが、最近佐倉の気合が凄いんだよ」


「へぇ....まぁ全国に行きたいって言ってるしな」


「それはそうなんだろうけど....そういえば坂村は試合見に来るのか?佐倉と仲良いんだろ?」


なぜそれを知っているんだと思ったが、葵と幼なじみというのは自分から言わないだけで、別に隠してる事では無い。


「そのつもりだ」


「ほう.....なるほど、それでか」


「....なんだよ」


「いやいや別にな....どうせなら俺の応援も来てくれよ」


「時間が合えばな」


「ははっ!楽しみにしてるぜ!」


そう言って爽やかに自分の席に向かっていった。

イケメンというのはあんな感じのやつのことを言うんだろうな。

羨ましいやつだ。

ホームルームのチャイムが鳴り、先生が教室に入ってくる。

今日は確か委員会活動日。

ゴールデンウィーク明けは、長い間掃除ができなかったから相当汚れていて大変だった。

めんどくさい事が待ってると時間は早い。

あっという間に放課後が来てしまった。


「やっほ〜!坂村くん!」


またまた久しぶりな声を聞く。

明石谷さんの声だ。


「休み明けだから大変だろうけど、よろしく」


「あれ?今日話し合いだって聞いたけど」


え、何も聞いてない。

他の委員会は違うのか?


「そうなのか、まぁそれなら今日はまだ楽か」


「お前ら〜席に着け〜、もう知ってる人も居るだろうが今日は少し話し合って欲しいことがある」


今日話し合うこと。

それは、もう大会も近いということで部活動に所属する人は部活を優先しても良いとのこと。

その場合ペアはどうするのか、二人で話し合えとのことだった。

まぁ俺の答えなんて決まってるけど。


「部活優先はこの時期助かっちゃうなぁ、でも坂村くんはどうするの?」


「前言っていたように、俺は一人でやるよ、一人でもできる場所を選んでいたから」


やはり屋上を選んでおいてよかった。

体育館裏を選んでいたら、大変なんてものじゃなかっただろう。


「ん〜そっかぁ、なんかごめんね?手伝える時は手伝うから!」


大会も近いんだから仕方ないのに、しっかり謝ってくれる。

気にしなくていいのに。

それに今更他の誰かと一緒に掃除なんてできない。

気まずすぎて。


「ありがとう、大会頑張ってくれ」


「うん!勝つよ!」


この前の球技大会でも凄かったから、レギュラーなのかもしれない。

あのスパイクを思い出し、少し身震いする。


「じゃあ今日は解散、部活に行くものはそちらに行っていいぞ」


「じゃあね!坂村くん!」


「あぁ」


さて、俺はこれから屋上に向かおう。

掃除するかしないかは今日は任せるとのことだが、期間が空いたら汚れが結構キツくなるかもしれないから今のうちに少しでもやっておこう。


「居た居た!坂村くん!ちょっと良い?」


萩原が走って向かってきた。

どうやら俺を探していたみたいだ。


「どうした?」


「ちょっと頼みたいことがあるんだけど、良いかな?」


特に断る理由は無いので、話は聞いてみよう。

聞いてみると、図書委員の話し合いでも俺たち美化委員と同じことを話し合っていた。

そこで問題になったのが、二人とも部活に所属している葵と浅田のペア。

どちらかが残るのならまだしも、二人とも居ないのはどうしようもない。

他で手分けして補おうとしているということだった。


「それで、頼みたいことってのは?」


「図書委員の仕事を大会が終わるまで手伝って欲しいんだよね....佐倉さんは委員会は委員会でやるべきだって言ってたんだけどね...大会頑張って欲しいから僕らの方は大丈夫だって言ってるんだけど」


まぁそうなるわな。

にしても、どこまで真面目なんだ葵は。

こういう時くらいしっかり専念してもいいってのに。

結局、余裕がある時は短い時間でも顔を出すということで葵は折れたらしい。


「他の委員に所属してる人間でもいいのか?」


「うん!アテがあるなら誰でもいいって言ってた!」


やるのは別にいいんだが。

図書委員となると二人一組....相手によるな。


「もう一人は誰にするんだ?」


「僕と田宮さんが交互にやろうかという話にはなってるんだけど、他に頼める人が居ればその人でもいいよ!」


居ないんだよそんな人。

かと言って二人の負担が増すのもなぁ。

.....そういえば原田が居た。

だが一年に頼むのもなんかダメな気がする。


「分かった、曜日だけ教えてくれ」


萩原の頼み事だ、できれば断りたくない。

活動曜日を教えてもらった。


「ありがとう!!もし頼めそうな人が居たら声掛けといてね!」


「じゃあまたね!」


「あぁ、またな」


図書委員の仕事か。

まぁ俺は慣れてるから良いけど....

原田はやったことないよな、それにあの子にも委員会があるだろうしやっぱり声掛けとくのやめとくか。


「....屋上はやっぱ今度でいいや」


めんどくさくなってしまった。


「帰ろ....原田には気が向いたら声を掛けとくか」


「何をです?」


「図書委員の件で少しな.....ん?」


「お久しぶりな感じですね!先輩」


こいついつからここに居たんだ。


「居たんなら声掛けてくれよ....」


「へへ、すみません驚かせたかったので」


本当に心臓に悪い

俺怖いの苦手だからほんとに頼む。


「それで、私に何かあったんですか?」


どうする....

もう聞かれてしまったんだし、素直に頼むか。


「図書委員の人手が足りないみたいでな、アテがあるなら声掛けてくれって言われてんだ....俺もさっき図書委員の友達に頼まれた」


「ほほう、図書委員ですか....私やった事ないですけど大丈夫ですかね?」


「原田の委員会は何も無いのか?」


「私は体育委員ですから、基本放課後に活動することはありません!」


体育委員か、へぇ....全然イメージ湧かない。

いやまぁ体育委員だから運動できる人なんてただの偏見でしかないんだがな。


「他でもない先輩からの頼み事ですから、私に断る理由なんてありませんよ」


「....悪いな、多分手分けしてやることになるからそこまで負担は掛からない....加勢してほしい時は連絡を入れる」


「了解です!」


敬礼ポーズをして、すんなり了承してくれた。

なんか一年生に仕事を頼むって気が引けるんだよな。


ここまで部活に本気になれる環境があるんだ。

葵にはぜひ頑張ってもらって、全国に行ってもらおう。

楽しみにしてるぞ、葵。

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