第29話

ゴールデンウィーク最終日。

少し残った課題を今日は終わらせる。

高校生になったら課題は少なくなるみたいな話を聞いたが全然そんなことなかった。

むしろ中学の頃より多くなってる気がする。

俺は部活やってないから毎日コツコツできた。

今も机と向かい合っている。

なのに


「はぁぁぁぁぁぁ」


あの時繋いだ手の感触がまだ残ってる気がする。

何故あんな急に....

思い出すだけで心臓が苦しくなる。

昔は確かによく繋いでたけど、今は色々と違うから普通に恥ずかしい。

嬉しいのは嬉しいんだが。

勉強に没頭しようとしても、幸せな記憶が邪魔をする。


「....集中できん」


あと少しで終わりそうなのに、中々進まない。

これは非常に困る。

こういう時本を読めばマシになるかと思ったが、今手をつけてない小説は恋愛モノ。

そんなものを読んでしまえば、ますます課題は進まない。

全く厄介なことをしてくれた。

もしかして俺が葵のこと好きなのに気付いてからかってる....??

いや、葵はそんな性格悪いことはしない。

本当に昔のように手を繋ぎたかったんだろう。


「仕方ない、ボチボチでも進めよう」


進めておけば終わりは近づく。

手を止める訳にはいかない、本当にあと少しなんだから。

すると、携帯が鳴る。

表示された名前は萩原だった。

これはこれは珍しい。


「もしもし」


「坂村くん!やっほー!」


電話越しでも元気なのが分かる。


「どうしたんだ?萩原から電話なんて珍しい」


「ううん、ちょっと暇だったからさ〜」


暇ということは課題は終わったということだろう。

クラスが別だから、そもそも課題が出てたかも分かんないけど。


「あ、もしかして忙しかった?」


忙しいのは俺の感情だけ。


「少し課題が残ってたからそれを終わらせてるところだ」


「そっか〜、なんか分かんないとことかある?」


「分かんないってほどじゃないが....少し不安なところがあるんだ」


「どれどれ?」


俺は不安なところの写真を撮り、萩原に送った。


「うん!この解き方で合ってるよ!」


「良かった、ありがとう」


結局図書室には人が居ない時しか行けていないから、不安なところは萩原に聞けず、そのままになっていた。

全く予想外のタイミングだったが、助かった。

そこからはこの前の水族館が楽しかったとか、テスト勉強一緒にやりたいとか、そういう話をした。


「楽しかった!僕そろそろお昼ご飯食べてくるよ!」


「あぁ、またな」


そうして電話が切れた。

同性との電話なんて家族以外だと手で数えられるくらいの回数しかない。

他愛もない話だったが楽しかった。

今度は勇気を出して俺から電話してみようかな。

少し集中できる頭になったので、再び課題を進める。

すると、また電話がなる。

今度は田宮からだった。

これはまた珍しい。


「もしもし」


「こんにちは坂村さん、暇ですよね」


うん、まぁ確かにいつも暇そうにしてるけど、決めつけないでくれるかな?傷付くよ?


「まぁ....課題はしているけどな」


せめてもの抵抗だ、課題をしていると答えた。

そう、決して何もしていない訳では無いのだ。


「坂村さんならすぐ終わりますね、ちょっと話しましょうよ」


これは信頼というものなのか、それともただ雑に扱われているのかどっちだろうか。


「この前の水族館、萩原さんたら凄く目をキラキラさせてすごく可愛かったんですよ!」


かれこれ10分ほどだろうか、ずっと惚気を聞かされている。

話をしましょうって言ってきたのに、俺からの話は相槌だけで終わっている。

いやでも相槌しかすることないよね。


「本当に幸せな空間でしたよ....」


惚気が止まらないなと思っていたが、俺は俺で葵と一緒に回った時間は恐らく俺のゴールデンウィーク史上最高の至福の時間だった。

なので、あまり人の事は言えない。


「そういえば、佐倉さんと手を繋いでましたよね?」


またこの人はあまり思い出したくないことを思い出させてきたな。


「何か進展があったんですか?」


「進展ってなんだよ....昔はよく手繋いで遊んでたから、その時のように繋ぎたかったって言ってたぞ」


おかげで俺の心臓はボロボロだけどな。

鼓動が早くなりすぎて。


「ふーん......」


何か言いたいことがありそうな感じだが、俺はあえて聞かない。

まぁ最近俺の扱いが雑だなとは思うが、田宮が優しいのは変わりない。

俺が答えにくいと思っていることは深く聞いてくることはないし、口出しもしない。

そういう所はすごい助かる。


「萩原さんとも電話したい....」


話がまた急激に変わった。

この人はどこまで振り回す気なのだろうか。

別にいいけど。


「さっき俺と電話してたから、今したら出るんじゃないか?」


「は?」


え、なに?怖い。


「電話....してたんですか?」


「あ、あぁ....さっきな.....」


「ズルい....ズルいです!!私も電話してきます!あなたには負けませんから!!」


そしてブツリと電話が切れた。

田宮はどこか俺の事をライバル視している感じがする。

葵に対してそんな素振りを見せていないから、多分独占欲丸出しにしているのは俺だけ....

なぜだ....もしかして俺は嫌われている??

いやでも水族館は田宮からも誘われていたし....嫌ってはない....のか??

話を聞いてるだけの事がほとんどだった田宮との電話。

課題はもう終わってしまった。

悶々としていたから、ずっと話してくれて助かった。

惚気話ばかりだったというか全部惚気話だったけど。

二人がこれからも仲睦まじくやっていけそうで良かった。


さて、完全に暇になってしまった。

昼ご飯にするか、あんまりお腹空いていないけど。

すると、またまた電話が鳴る。

今度は誰だ....

葵だった。


「.....もしもし」


「もしもし、忙しかった?悟」


この時間に掛けてきたってことは部活は休みだったのか。


「課題をやってたんだが全部終わって、たった今暇になったとこだ」


「そうか....ちょっと話さないか?」


葵と電話をするのは久しぶりだ。

というより、電話をする必要が無い。

理由は単純、家が近いから。

だからこうやって電話するのも、なんだか新鮮な気分だ。


「良いけど、あんまり面白い話はないぞ」


「ふふ...大丈夫だ、私も無い」


特に話すことは決まっていない、ただ思いついたことを話すだけ。

さっきの二人との電話もそうだったのに、葵とだと全部が特別な事のように思えてしまう。

電話を繋いで気付けば15分。

無言は少し多いが、やはり心地良い。


「水族館楽しかったな、できればまた行きたい」


「チケット取れたら良いんじゃないか?」


「そうだね....その時はまた一緒に行かないか?」


「....時間が合えばな」


こう言ってるが、多分その時が来たら俺は行くことになる。

人混みは好きではないが、また葵と一緒に居れる時間を過ごせるのなら構わない。


「今日は部活休みだったのか?」


「うん、ゴールデンウィーク最終日だから休みになってるんだ。おかげで今日は課題三昧だよ」


「大変だな....電話してて大丈夫か?」


「あぁ、この電話が終わったらまた課題に取り掛かる」


とは言うが、葵もどちらかというとコツコツとやっていくタイプだ。

しかも頭良いからスラスラと終わっていく。

運動系なのに、頭も良いなんてほんと羨ましい。


「でも流石に疲れてしまったね....悟が応援してくれたらまだ頑張れるかも」


「なんだそりゃ....まぁ頑張れよ」


「悟はもう終わったから高みの見物といったところか?」


「部活をやっていない人間の特権だな」


「ははっ」


かれこれ30分くらい話してしまっている。

流石に課題の邪魔になるのも良くないと思っていたところ


「じゃあ、私は課題を再開するよ。ありがとう話してくれて」


「気にするな、俺も話せて良かったよ。課題頑張れよ」


「あぁ....悟のおかげで頑張れるよ。また学校でな」


そう言って電話は終了した。

本当に気付いたら30分経っていた。

少し前の俺なら、こんな事想像も出来なかっただろうな。

でも、もう引き返す気は無い。

どこかで勇気を出さなきゃいけない。

萩原や田宮のように。


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