第26話

「ふぅ....ようやく終わったな」


「ほんと....ようやくですよ」


空き教室の掃除が終了した。

埃もなく、荷物も整理した。

あの惨状を思い浮かべたら、よくここまで綺麗になったなと思う。


「まさかゴールデンウィーク前まで時間がかかるとは思ってなかったですよ」


「大変だったね〜」


この二人も最初の方から頑張ってくれているが、流石に疲れている様子。

まぁでもここまで変わると達成感もある。


「にしても備品じゃないものもありましたね、この箱のやつとか完全に私物ですよ」


もう昔のものだろう、教科書などもここに置いてあった。

それ以外にも何でここにあるってものが置かれていた。

名前はもう汚れで消えてしまっている。


「....なんか欲しいのあるか?」


この人少しでも押し付けようとしてるだろ。


「ありませんよ、こんな汚れたもの....」


「まぁそう言うなよ、この御守りとかどうだ?」


うわめっちゃ汚れてるよこの御守り、なんでこういうものまで放置してたんだよ、絶対バチあたってるぞ持ち主だった人。


「そんな縁起悪いことしませんよ」


「冗談だよ、とりあえずこの箱は私がどうにかする、三人はもう帰っていいぞ」


「お疲れ様でした〜」


「そうだ、もしこの部屋を使いたいなら私に一声かければ使えるぞ」


箱を持って先生は去っていった。


「はぁ....やっと終わった」


そういえばこの部屋使おうと思ってたんだよな。

いつも掃除に必死で聞こうとしていたことも忘れていた。


「うん....でも綺麗になったね!」


「明日からゴールデンウィークだから、その前に終わってよかった。終わってなかったら駆り出されてたかもしれないぞ」


「ゴールデンウィークといえば、私たち今度水族館に行くんですよ」


「へぇ.....良いじゃないか、楽しんでこいよ」


良いな水族館。

俺最後に行ったのいつだっけな。

優雅に泳ぐ魚を見て、はしゃいでた記憶がある。


「いや、坂村さんも来るんですよ?」


「は?なんで?」


「僕たちチケット4枚貰ったんだよね、坂村くんも行かない?」


「え、それ俺行っていいの?」


「うん!もちろん!」


でも4枚ってことは、確かに二人じゃ使い切れないか。

使用期限もあるだろうし。


「ありがたいが、あと一人どうするんだ?」


「坂村さんの知り合いを誘いましょうよ、佐倉さんとか」


葵をか....ハードル高いな....

それに部活も忙しいんじゃないかな。

まぁでも声は掛けてみるか。

無理だったら俺一人で行こう。


「分かった、ちょっと声掛けてみるよ」


「うん!ありがとう!分かったら連絡してね!日程もそっちに合わせるから!」


あ、そういえばこの二人の連絡先持ってるんだったな。

全然連絡しないから忘れてた。


「じゃあ、私たちはこれで」


「あぁ、またな」


そう言って二人は帰り、俺はいつものごとく二人の邪魔にならないタイミングで帰る。

にしても、葵にか....

声は掛けるにしてもまだ部活が終わるまで時間がある、どこかで時間潰すか。

図書室行くか。

担当の生徒はもう居ないから、本の貸出はできないが、俺はもう読む本は持っている。

この間買った本にはまだ手をつけていないから、読みに行こう。

そうして図書室で本を読み続け、もう部活は終了する時間になっていた。

一応連絡するか....


帰りながらちょっと話したいことがあるから、校門のとこで待ってる。


こんなもんで良いよな。

変に誤解もされないだろうし。

サッカー部は今日休みって喋ってるの聞こえたから浅田ももう居ない。

荷物をまとめて、図書室を出る。

なんか俺から一緒に帰ろうっていうのは、今振り返ると恥ずかしいな。


「悟〜!」


「おつかれ」


「うん....ありがとう」


明石谷さんも一緒かと思ったけど、葵一人で来たみたいだ。

まぁそれの方が都合がいいか。


「じゃ、帰るか」


「うん!」


さて、どう切り出そうか。

話すのは俺は下手だから、上手い切り出し方が思いつかない。

いやまぁ普通に誘えばいいんだろうが、ちょっと上手くいかないんだよ。

分かってくれ。


「そういえば悟、この前の女の子って」


この前の....あぁ、原田のことかな。

最近すれ違う度に挨拶されてる。

挨拶するのは良いことなんだが、恥ずかしいからちょっと大声で挨拶するのはやめてほしい。


「原田のことか?」


「うん....なんかファンって言ってただろ?」


「あぁ、言ってたな」


「....悟ちょっと鼻の下伸びてたよ」


え、そんなことは無い....はず。

確かにファンだと言われたのは嬉しかったが....


「そうでもないだろ」


「嘘だ、あの子可愛かったもんな」


いやぁ、可愛かった....のかね。

正直葵の容姿以外あんまり何も感じないというか.....

いやどんだけ惚れてんだ俺は、ちょっと気持ち悪くて引かれるレベルだぞこれ。


「そういう目で見てなかったから、あんまり分からん」


「....ほんとかな」


なんか怒ってる?

俺なんか変なこと言ったか?


「というか、あの子はその....」


「やっぱり何かあるんじゃないか」


「いやなんというか....」


腐女子っていうのは言っていいのか?

原田はオープンにしてるって言ってたが、そんなにホイホイ他人に言っていいものなのか。

.....でも葵だし、言っても大丈夫だろ。


「腐女子....なんだよ」


「.....え?」


さすがに予想外だったようで、目を丸くしていた。


「俺と深見、最近話すようになったろ?そういうのを見て色々....その....」


言いにくい....あの子も色々誤解されたくないだろうし。


「わ、分かった....悟、無理しなくていい」


気を使われた....なんかごめん。


「悪い子では無いんだが、あんまりそういうのに慣れなくてな.....ちょっと振り回されてるんだよ」


「そうなのか.....疑ってすまなかった」


何疑ってたのかは分からないが、なんか誤解してたのなら解けてよかった。


「でも...そうか、これはあんまり言わない方が良いか」


「そうしてくれ、本人はそういうのは別に隠してないし、むしろオープンにしてるって言っていたが....一応な」


思わぬ話題で少し焦ったが、この流れで誘うか。


「それでさ葵、ゴールデンウィークなんだが、空いてる日あるか?」


「ゴールデンウィーク?空いてる日は二日あるな....それがどうかしたのか?」


「萩原たちから貰ったものがあるんだ」


俺は貰った水族館のチケットを出す。


「一緒に行かないか?水族館」


葵はまた目が点になってる。

そりゃ俺から誘うなんて今まで無かったからな。


「.....いいのか?」


「葵以外に誘える人居ないんだよ」


自分で言ってて悲しくなる。

二人から葵の名前が出たんだし、別にいいだろ。


「....うん!行く!絶対行く!」


思った以上に喜んでくれたようで良かった。


「じゃあ、休みの日教えてくれるか?二人に連絡するから」


「あぁ....二人と一緒に遊ぶのは初めてだから、楽しみだな」


よほど楽しみなのだろう、さっきから笑顔が消えない。

普段のカッコ良さからのギャップが凄い。


「俺も楽しみだよ」


萩原に連絡して、水族館に行く日が決まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る