第25話

「場所移動しましょう!先輩!」


「あ、あぁ.....」


帰り支度を済ませた俺の腕を引っ張って、どこかへ連れていく。

この子は球技大会の俺を見てファンになったらしい.......

いや絶対誰かと間違ってんだろ。

普通こういうのって優勝したチームのメンバーがこうなるんじゃないの、うちのクラス優勝してないし、まずうちのクラスを見てたんだとしても他に居るだろ。

周りはまだ驚いている、そりゃそうだ、みんな俺の事こいつ誰だって感じでしか見た事無いだろ。

そんなやつが急に後輩にファンだと言われて写真撮ってとか言われて、驚かないはずがない。

明日隕石が降るって言われた方がまだ驚かない。


「ではここで!」


「....体育館だな」


「はい!」


満面の笑みで返事をして、バッグの中から携帯を取りだした。


「じゃあ近くに寄ってください!」


本当に撮るのかよ....


「あの、見切れてます」


「これが俺のベストポジション」


「そんなことありません!」


無理やり服を引っ張られて、更に近づく。

そしてパシャリと写真を撮った。

絶対変な顔になってる。


「うんうん、変な顔してますが良い写真ですね!」


正気かこいつ。

あと変な顔なってたのかよ、無理やり引っ張るからだぞ。

やっぱこの子嫌がらせで撮ったのか?


「えっと....原田....だったっけ?」


「はい!」


「撮られてから聞くのもなんだけど、これ罰ゲームだったりする?」


「罰ゲーム?いえ、違いますよ」


違った、なら単純に嫌がらせ?


「言ったじゃないですか、あなたのファンですって」


「俺ら優勝してないんだけど」


「優勝したからってファンになるとは限りませんよ」


「それにしたって、なんで俺なんだ?深見は?」


本当になぜ俺なんだ。

後半からしか出てないし、そんな目立った活躍もしていない。

体力も少ないから、疲れで途中の記憶も曖昧だし。

とてもじゃないが上出来な内容とは言えない。

そんな俺のどこにファンになる要素があるんだ。


「最初はあぁみんな上手いなぁって感じで見てたんです。それで気まぐれにベンチに目をやったら先輩がだるそうに座ってて、みんな頑張ってるのに一人だけ感じ悪くて、それ見て私この人の事苦手かもって思ったんですよ」


すごい言われようだな。

感じ悪かったのは否定しないけども。


「でも後半から出てきた坂村さんは凄かった、さっきまでだるそうに座ってたのに、一気に本気になったんですから、しかも普通にシュートは決めてアシストもしてて、心にビビビって来たんですよ」


「そんなに活躍してなかったと思うけどな」


「深見さん達もかっこよかったですし、友達もみんな深見さんがカッコイイって騒いでましたけど、私にとっては先輩が1番綺麗なプレーをしてました、だからファンになったんです」


....結構ガチで褒めてくれた。

とりあえず、嫌がらせじゃないってことが分かってよかった。


「まぁ最後外しちゃいましたけどね!負けた姿も絵になってましたよ!」


「おい、最後落とすくらいなら上げるなよ」


「ははは!先輩面白いですね!」


最後に関しては褒めてんのか貶してんのか。

それにしてもファン....か。

当然ながらそんな人は今まで一人も居なかったから、どんな気持ちでいればいいのか全く分からない。


「それと先輩」


「なんだ?もう一枚か?」


「あ、良いんですか?あとでお願いします!ですが聞きたいことはそれではなくてですね」


「ん?」


「深見さんとはどういった関係で?」


どういった.....話すようになったのも球技大会後だしな....知り合い?

クラスメイトだな


「ただのクラスメイト」


「なるほど.....私思うんですよ」


なんだろう、何か分かんないけど嫌な予感がする。

ここから先は聞かない方が良い気がする。


「二人はもっと近付いてもいいと!!思うんです!!」


「深見さんが優しく、そして強く押して!!先輩は嫌々言いながらも、抵抗せずにそれを受け止めるんです!!いやその逆も良い!!」


「私試合後の二人も見ていました、試合後お互いの健闘を称えあって、笑いながら話しているところを。そして思いました」


「この二人.....デキる!!」


何がとは聞かないでおこう。

ていうかそういう風に見てたのかよ、あの感動シーンを。


「ですが、安心してください。これは私の妄想の中だけで留めておきます。私の趣味などは関係なく、純粋にあなたは私の最推しなんです。坂村さんにも好きな人の一人や二人」


一人しか居ねぇよ。


「恋人の一人や二人いると思いますので」


一人も居ねぇよ、てかそれ二股じゃないか。


「なに俺ってそんなたらしに見えんの?」


「いえいえ、誠実な人だと思いますよ。例えの話です」


初対面の先輩にこんなこと暴露して良いのかよ。

警戒心とか無いのか?


「こういうの、俺に打ち明けて良かったのか?」


「大丈夫ですよ、私こういうのオープンなので。それに先輩には知っていて欲しいんです。ファンですから」


そういうものなのか....俺別に知りたくなかったんだけどな。


「あくまで私の趣味なので、先輩に押し付けることはしません、もちろん深見さん達にもです。私は妄想だけで捗りますので」


出来れば捗らないで欲しい。


「さぁ!もう一枚写真お願いします!」


そう言って、また同じように写真を撮って別れていった。

彼女は俗に言う腐女子というものだ。

人それぞれ趣味というものがある、好きなものも嫌いなものも人それぞれで違う。

人間という生物は、この世界に何十億人と居る。

だから、男同士の恋愛が好きだという人間が居てもなんら不思議では無い。

そういう目で見られるのは好きではないが、別に好みの否定まではしない。

というかできない。

彼女と俺は違う人間なのだから、そもそも否定や肯定というものはする必要が無い。

なのに、世の中ではそういうものが好きだというだけで懐疑的な目で見られることがある。

恐らく原田も例外では無い。

傷付いたこともあっただろう、でも彼女は折れなかった。

好きなものを曲げない強さは、俺には無いものだ。

そういうとこも含めて、俺はとんでもない後輩に目をつけられた。

そう思わずにはいられなかった。




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