第24話

熱狂渦巻く球技大会を終えてから、また一週間が経った。

たった一日のスポーツ行事、生徒たちもまだその一日を惜しんでいる。

かくいう俺もあの試合を思い出すと自然と頬が緩む。

あの瞬間は間違いなく俺も青春というものに酔っていた。

だから、結構心に来るんだよな。


あいつが決めていれば勝っていたのに。


全くもってその通りだからなぁ。

あの場面で俺が決めていれば間違いなく勝っていた。

深見達は俺と一緒にやれただけで良かったんだと言ってくれたが、それを見ていた周りは違う。


「坂村〜!」


深見が俺の名前を呼びながら走って向かってくる。


「おはよう」


あれから、少し話すようになった。

友達ではないと思う。


「あぁ、おはよう」


声を交わすだけで、周りは少しざわつく。


「あの人のせいで負けたのに、よくあんなに仲良くできるよね」


「恥ずかしくないのかな」


コソコソ言ってるつもりだろうが、結構聞こえてるからね。


「すまない、俺も何度も注意してるんだが」


「深見は悪くないだろ、あいつらが言ってることも事実だしな」


「坂村は....悔しくないのか?」


悔しい....試合に負けたことは悔しいが、恐らくそういう意味じゃないだろう。

良くも悪くも、こういうのに慣れてしまった。


「俺はただ、これ以上自分が傷付くのが怖いだけだよ」


紛れも無い本心だ。

少しでも言い返そうものなら、3倍くらいでまた返ってくるからな。

ほんと怖い。

一週間経って、少し興奮も冷めたからマシにはなってる。


「深見もあんまり言い返したりするな、疲れるだけだぞ」


もう少しすれば俺のことなんざ話題にも上がらなくなる。

それまでの辛抱だ。

教室に入ると、一瞬視線はこちらに向くが話題は他のこと。

収束は近い。

というのも、この教室に葵が居ることが大きい。

人の悪口陰口が嫌いな葵が、抑止力になっている。

だから教室内では目立ったことはできないし、話せない。

外に出れば別だけどな。


「そういえば葵、サッカー見に来てなかったろ?俺めっちゃ探したんだぜ〜?」


「申し訳ない、バスケの試合見ててね....」


「バスケ見てたのか?」


一瞬だけこちらを睨む。

俺は悪くないからな。


「うん、バスケの試合が思った以上に白熱していてね....目が離せなかったんだ、本当にすまない」


「いやいや、バスケ部だからそりゃ仕方ないさ!気にしない気にしない」


だからこっち睨むな。

なんなんだよ、好きなスポーツ見させてやれよ。

そんなに応援されたいならバスケやれば良かったじゃん。

するとまた友達から茶化しが入った。


「お前めちゃくちゃ気合い入ってたもんな、最後めっちゃ外してたけど」


「う、うるせぇ!」


「そうなのか....浅田くんも頑張ってたんだな」


「お、おう....」


「はは!お幸せに〜」


良いキャラしてんな〜。

俺の予想あいつめっちゃ良い奴。

喋ったことないけど。


「あ!おい待てよ!」


「トイレ行こうぜトイレ〜」


そして通り過ぎる時、小さな舌打ちが聞こえた。

てっきり呼び出されるかと思ったが、そんなことはなかった。

やっと無駄だと気付いたのか、それとも他に理由があるのか....

浅田達がトイレから帰ってきて、授業開始のチャイムがなる。

今日こそは平和に行きたいものだ。


なんとか今日の授業はなんの問題も無く終わりを迎えた。

ほんと良かった、何も無くて。

最近色々と振り回されたから、疲れが溜まってるのかもしれない。


そろそろゴールデンウィークが始まるし、しっかり休もう。

これだけ長い連休だ、何をしようか、なんて考えてみるが結局予定なんて埋まらない。

ゴールデンウィークが明ければ、また学校が始まって、それぞれの部活が最後の大会に向けて本腰を入れはじめる。

そしてテストがあって、夏休み。

去年と同じことの繰り返し。

去年と違うのは、葵が近くに居るってことだ。


こんなこと想像出来たか?

一度は距離を取るべきだと、あんな言葉の刃物で傷付きたくないから、葵が傷付いてるのを見たくないからと言い訳を並べて、気持ちに嘘をついて、それでもこれが最善だと決めつけていた。

俺は葵のことが好きだ、愛してると言っていい。

でも葵は俺に対してそう思ってるわけではない。

幼なじみだからいつも一緒なんて、そんなの漫画の出来事でしかない。

だから諦めていた、葵にはもっと良い人が居る。

周りに言われなくても、俺が1番よくわかっている。

なのに最近は近くに居ることが少し増えて、もう離れたくないと思ってしまっている。

そのおかげで、浅田の攻撃で大ダメージを食らった。

結局球技大会以降、葵とは全く話せていない。

この行事でまた人気が上がったのか、最近よく違うクラスの人からよく声をかけられてるのを見掛ける。


「すみません....」


「はい....?」


また別のクラスの人か?


「一年の原田蓮(はらだれん)です」


まさかの後輩の女子生徒、放課後とはいえ、よく二年の教室まで来れたな。

絶対怖かったろ。

葵に対して熱狂的なのは、1年生も同じってことか。


「えっと....葵ならいまそこに」


「いえ、私は....坂村さんって人が目当てです」


「...........」


.............


「..........ん?」


「だから、坂村さんが私のお目当てです....どこに居るか知りませんか?」


聞き間違いじゃなかった、聞き間違いであってくれよ。

どうしよう、今居ないって言おうかな。


「あぁ....それ俺....です....はい」


ていうか目当てなのに顔覚えてないのかよ、なんか悲しくなるわ。

分かるよ、俺地味だもんね。


「お、おぉ!!おぉぉぉ!!!」


なんかこの子の目怖いんだけど。

何する気だ?いじめ?

俺後輩にいじめの対象として見られてんの?


「あの!私と写真撮ってください!」


近くにいた同級生は全員目を丸くしていた。

当然の反応だ、俺が一番びっくりしている。


「球技大会でファンになりました!!」


全員が驚きのあまり顎が床につきそうな勢いで口が開く。

あぁ....帰りたい....

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