第23話

「どっちが勝つかな〜」


「さぁ...どうだろうな」


そう言いながら思った。

葵が負けるところを想像できないと。

これがバスケットボールの公式試合ならば話は変わってくるが、相手はバスケをやったことが無い人も含まれる、ただの同い年の女子チーム。

あくまで学校行事である球技大会で公式試合と同じような力を出さないとは思うが、それでも負けるとは思えない。


試合開始の笛が鳴る。


まずは田宮がボールを持つ。


「おぉ!田宮さん頑張れ!」


萩原は隣で大きな声を出して応援している。

一人、また一人かわしてシュートを決める。

先制は4組。


「ナイス田宮!」


運動神経が凄いとは聞いていたが、ここまでなんてな....


「ふふ、凄いでしょ田宮さん」


やべ、顔に出てた。

ちょっと失礼だったかもしれない。


「うん」


「いつも可愛いけど、こういう時はカッコイイんだよ」


確かに、あれはカッコイイな。

普段柔らかい空気を纏ってる田宮からは考えられない。

次は自分の番だと、葵がボールを持つ。

黄色い歓声がまた響く。

田宮とは違った攻めを見せる。

味方にパスを出して、そしてまた貰い。

スリーポイントを決めてみせた。

三組の逆転。


「おぉ....あんなに簡単そうに」


「....葵も凄いやつだからな」


「うん....これがバスケ部のエースなんだね」


前半は点の取り合いで折り返す。

19-17で四組リード。

葵は味方を使いながら、得点を重ね。

田宮は味方からパスを貰いながら、得点を重ねていた。

しかも三組が負けている。

こういう展開になるとは正直予想していなかった。


「凄い試合だな....ここまで接戦になるなんて」


「うん!みんな凄い!」


ハーフタイムが終わり、後半戦。

それぞれが作戦を立てて、この試合をなんとか勝とうとする。

当然のことだ。

勝負は時の運と言うように、強い人が居るから勝つわけではない。

その時に勝ったチームが強い。

たとえ不恰好でも、勝てれば官軍。

試合とはそういうものだ。

だが....


「.....こんな試合になるなんて....」


今この試合に居る、葵は違う。

葵の実力は、それすらも容易く踏み越える。

36-22で三組勝利。

格が違う、その言葉すらも生ぬるい。

そう思えるほど、この試合の葵は圧倒的だった。

残酷とも思える試合展開だったが、どの相手でも油断しない葵のプレーはかっこよかった。

俺が好きな葵だった。

周りからは大きな歓声が上がる。

俺たちはただ拍手して立っているだけだった。


「田宮さーん!お疲れ様!」


「萩原さん、すみません応援してくれたのに」


「ううん!最後まで頑張ったよ!負けちゃったのは残念だけど田宮さんのかっこいい所見れたからうれしい!」


こういう時って俺声掛けていいのかな。

萩原に行こうと言われてここに居るけど....俺一応葵と同じクラスだし、なんも言わない方がいいよね。


「そんなに気を使わなくていいですよ、坂村さん」


苦笑いして、そう言ってきた。


「めちゃくちゃ悔しいですけど、ちょっと本気の佐倉さんを引き出せただけでも私としては満足です」


確かに、どの立場でモノ言ってんだと思われるだろうが、本当によく食らいついていた。

前半リードしていたのも素直に驚いた。


「じゃあ、これからは佐倉さんの応援しないといけませんね!」


強いなこの人。

めげない。

まぁ最初に言ったように、これは行事だからな。

特に勝ったからといって成績が上がるわけではない。


「うん!そうだね!このまま優勝してもらわないと!」


昨日の敵は何とやら。

まぁ昨日というかさっきまで敵だったんだけど。

葵もきっと心強いだろう。

噂をすれば


「あ!佐倉さんお疲れ様!」


「萩原くんも見ててくれたんだね、ありがとう」


どちらかというと田宮の応援だけどね。


「完敗ですよ、佐倉さん、まさかここまでなんて思ってませんでした....けど、結構ヒヤヒヤしたんじゃないですか?」


「試合には勝ったけど、田宮さんのプレーは終始鬼気迫るものがあった。言う通り、常に気が抜けなかったよ」


「次は負けません、佐倉さん、必ずリベンジします」


「あぁ、私も負けない」


そう言って、笑い合いながら握手を交わす二人。

なんかこの二人めっちゃ仲良くなってない?

こんな仲良かったっけ?


「おつかれ、葵....マジかっこよかった」


久しぶりに見たからかな、本当に目を奪われた。

あんなにカッコイイとこ出来れば俺だけが見ていたい。

なんてのはちょっとキモいか。


「ありがとう、悟」


本当に嬉しそうに笑っている。

カッコイイとこも好きだけど、やっぱり笑ってる顔が1番好きだ。


「私たちに勝ったんですから、絶対優勝してくださいね!」


「もちろんだ」


するとまた笛が鳴っていた。

それはバスケではなく、バレーコートから。


「そういえば、私たちの女子バレーは明石谷さんが出てましたね」


あ〜そういえばバレー部って言ってたっけ。

バレーコートの方に目を向けると、丁度明石谷さんがスパイクを決めていた。


「やったー!勝ったー!」


どうやら今の一点で勝利したようだ。

あの時俺が想像した通り、腕がもげそうだ。


「恵も本気だな」


「そういえば仲良いんだっけ?」


萩原が訪ねる。


「うん、去年同じクラスで、同じ体育館競技の部活だから自然と一緒に居る時間が増えたんだ」


へぇあの人同じクラスだったんだ。

そんな人が今年委員会で俺とペアになり。

葵は俺と同じクラスだった萩原と田宮と同じ委員になり....

不思議な繋がり方だな。

この女子三人とも強いし。

類は友を呼ぶってこういうことを言うのかな。


「どうかしたかい?悟」


「いや....なんでもない」


案外相性バッチリな三人かもな。

三人を見てそう思った。

その後、バスケ女子は三組が勢いそのままに優勝。

バレー女子は四組が優勝。

サッカーは六組が優勝、ちなみに三組は準優勝だ。

バスケ男子はシードに行っていた一組が優勝していた。

これにて全ての競技が終わり。

今年の球技大会は終了した。


そして次の日には、バスケ男子の三組は坂村悟が外したから負けたという、全くその通りの事実で何とも言い返しようがない陰口を言われるようになりました。


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