第22話

「坂村!こっちだ!」


悟がバスケをやってるところをこうやって応援するのは初めてだ。

私の練習に付き合わせていた時は、いつも悟は私の目の前に居たから。

充分な練習ができるように、いつも真剣にやってくれていたっけ。

深見くんバスケ部の中でも人望があるから、悟もきっとやりやすいだろうな。

男女一緒のチームだったら、私もパス貰えたのに....

でもまた必死にやってる悟が見れるのは嬉しい。


悟のシュートが決まる。

一気に逆転した。


「....凄い」


綺麗なシュートフォーム、わざわざバスケの本を買って練習したらしい。

最初は全然できなかったけど、私の練習相手を何回もやってるとかなり上達した。

何年もブランクがあるから、どうなるか心配だったけど上手くいっている。

それからもパスを出し、自分で打てる時はしっかり決めていた。

肩で息をしながら、自分のシャツで汗を拭う。

周りの雰囲気にあてられたんだろう、汗に濡れた顔はいつになく真剣で、本気で勝ちに行く顔をしていた。


「やば....かっこよすぎ....」


思わず声が漏れた....近くには誰も居ない....

良かった....

息付く暇もない、瞬きすら許されないほどの接戦。

まさに開幕戦に相応しい名勝負。


そして、最後のシュート


ガコンとリングにボールは弾かれる。

試合は1点差で三組の敗退....でも....


「もうお腹いっぱいだな....」


これ以上あんな悟を見ていたら心がもたない。

最後外れたのは残念だけど、最後の最後までかっこよかった。

悟もメンバーに声を掛けられて、すごくスッキリした顔をしている。

やっぱり応援していてよかった。

サッカーを見れなかったことを、あとで浅田くんに謝らないといけないな。

きっと彼も頑張っていただろうから。


私の応援は、少しでも悟の力になれていただろうか....

私はいつも応援されてばかりで、彼に頑張れと言われるだけで力が漲ってくる。

だから今回は私が....と思っていた。

いや....力になれていなくてもいい、あの顔を見れただけでも、私は満足だ。

悟がコートから帰ってきた。

私はまだ気持ちが昂ったまま、彼に声をかける。


「悟〜!」


「凄かったじゃないか!本当にカッコよかった!」


さっき思っていたことを全部言いたいけど、名勝負を見れた満足感と感動で上手く言葉にできない。


「疲れすぎてあんまり覚えてないけどな」


少し苦笑いを浮かべる。

次は私の番だ。


「今度は私が悟に見せる番だね」


「....次は田宮も相手に居るみたいだから、油断しないようにな」


田宮さんが....運動部に入ってないのにかなり運動神経が良いと噂の....

今でも部活勧誘が彼女の元に来ているなんて話も聞いたことがある。

そんな彼女と....試合で勝負。


「当然だ」


「葵...」


ふと名前を呼ばれた。

彼から呼び止められるのは、久々な気がする。


「ん?なに?」


「その....葵がバスケやってる姿を見るの結構好きだから....頑張れよ....見てるから」


中二の大会が終わったあとから、体育館で自主練をするようになり、次第に悟と練習する回数は減っていった。

負けて必死になっていたとはいえ、悟に悪いことしてしまったと今でも後悔している。

でも悟は、むしろ俺なんかとするより自分のレベルに合った練習をした方がいい、成長した葵を次の大会で見せてくれよと言ってくれた。

思えばこの時からだったかな、悟と距離が空いたのは....

嫌われたんだと思って、自分の気持ちに嘘をついて、勇気を出せずにいた。

だけど、あの帰り道で勇気を出して、名前を呼んで良かったとこの瞬間思った。

悟はいつだって私が欲しい言葉をくれる。

不器用ながら、私に伝えてくれる。

その姿が愛おしくて、大好きでたまらない。

だから、必ず勝つ。


「うん!絶対勝つよ!」」


ただの学校行事なのに、まるで大きな大会にでも出てるような気分だ。

でも、その時はその時で応援してもらう。

絶対に見に来てもらう。

これから私が出る全てのバスケの試合で、悟が見過ごした私のバスケを全部見せる。

あの空白の時間を全て塗りつぶす。


私をこれだけ釘付けにしたんだ、彼も少しは私に釘付けになってくれないとな。

じゃないと、割に合わない。

私ばかりドキドキするのは不公平だ。


━━━━━「その....葵がバスケやってる姿を見るの結構好きだから....頑張れよ....見てるから」━━━━━


あぁ、頑張るよ。

君のために。


「佐倉さん、今日はよろしくお願いします」


「田宮さん...あぁ、こちらこそ」


「好きな人に熱狂的に応援されると力が湧いてきますよね」


「全くその通りだ」


「佐倉さんに勝てると思うほどおごってはいませんが、萩原さんに応援されているんです、そう簡単には負けません」


「私も悟に頑張れと言われたんだ、今日は倍以上の力が出せるよ」


惚気なのか宣戦布告なのかよく分からないやり取りをする。


「私の彼氏の応援は世界一です」


「私の悟も負けていないぞ」


試合開始の笛は間もなく吹かれる。

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