第21話

今日から球技大会が始まる。

俺が参加するのはバスケットボール。

まぁ多分試合には出ない。

今日一日中スポーツ三昧ということで、授業は無い。

だから今日は全員制服ではなく、体操服だ。

授業が無いのは嬉しいが、俺の居場所も今日は無い。


「よっしゃぁ!今日は頑張ろうぜ!」


「おーー!!!」


教室内で大きなガッツポーズを掲げる。

熱いなぁ、ほんと熱い男たちだよ。

俺もつられて熱くなりそうだ。

本当に楽しみにしてたんだろうなこの日を。


「葵!今日サッカー見に来ないか?」


「サッカーか、時間があったら見に行こうか」


「よっしゃ!応援してくれよ!」


あの勇気は尊敬するな。

俺にはあんな風に行動できない。

まぁ悪い方向に行ってる時もあるが、あの行動力は本当に凄いと思う。


「ひゅー!お熱いな二人とも!いつからそんなに仲良くなったんだ??」


陽キャの悪ノリが始まった。

ほんとあのキャラじゃないとできないノリだよな。


「なっ、よせよ!」


「はは、浅田くんとは委員会が一緒だからね。そこでよく話すんだよ」


「ほほう、これは次の展開まで秒読みなんじゃないかぁ?」


ニヤニヤしながら浅田の友達であろう人物がちゃちゃを入れる。


「浅田くんとはただの友達だよ」


おっと、これはクリティカルヒットじゃないか?

俺だったらもうここから飛び降りたい気分になるね。


「いい加減にしとけよ、葵も困ってんだろ?ごめんな!」


「いいよ、気にしていない」


「ちょっと浅田達!あんま葵を困らせないでよ!そろそろ行こうか葵」


女子生徒が来てくれたおかげで収束した。

このタイミングは本当に英雄だな、浅田にとっても。

俺も行くか。

体育館に行くと、もう既にバレーとバスケの会場は整っていた。

来ている生徒はボールを着いてウォーミングアップしているようだった。

もしもの時のために俺も少しボール触っとくか。

俺たちの試合は1試合目。

その次に葵たちの試合がある。

確かサッカーの方も1試合目からうちのクラスが試合をする。

バスケは、葵の練習に付き合ったことがあるから一応知識はある。できるかは別として。

とりあえずフリースローラインから一本。


「ほいっ」


....入った、今日はもしかしたら運が良い日かもしれない。

すると後ろから葵が近づいてきたのが見えた。


「悟がバスケって久しぶりだね」


「葵の練習に付き合ってた時以来だからな」


「試合には出るのかい?」


「さぁ....みんな俺より運動神経良いし、バスケ部も居るし、俺の出番はないと思うぞ」


「そうかな....悟は上手いから出番あると思うよ」


俺が?バスケを?

ないない、なんなら練習で葵にボコボコにされた記憶しかない。


「私、試合見てるからな」


「サッカーは見に行かなくていいのか?」


「サッカーは....時間ができたら」


多分行く気ないなこの子。

まぁあんまりサッカー詳しくないみたいだし、見ても面白く感じないかもな。

とりあえず浅田、どんまい。


「私の試合も見てね、悟」


「あぁ、上の階で見てるぞ」


結果は分かりきってるけど。


「ほ、本当か!?」


「試合が終わればやる事ないしな」


「.....絶対勝つから見ててくれ」


気合い入ってんな、葵は意外と負けず嫌いなところがあるから当然と言えば当然か。

球技大会とはいえ、葵の試合してるところを見るのは久しぶりかもしれない。


「じゃあ、俺そろそろ集合だから」


「悟」


「うん?」


「頑張れ」


「....試合に出れたらな」


去年の球技大会も試合に出れなかったからなぁ。

でも頑張れと言われるのは少し嬉しい。


球技大会バスケットボール男子の部。

バスケ部が多い、一組と五組はシード。

三組と六組が一回戦で戦い、勝った方が一組。

四組と二組が戦い勝った方が五組。

トーナメント方式で戦う。


「じゃあ、ここ勝って次に繋げようぜ!」


バスケ部は特に気合いが入ってる。

俺がここに居るの申し訳なくなってくる。

なので俺はベンチに座っておきます。


試合開始の笛が鳴る。

試合は前後半10分で行われる。

まぁ流石に4Qまでやるのは時間が足りないか。

最初にボールを持ったのはうちのクラス。

電光石火という言葉がよく似合う攻撃であっさりと先制。

相手も負けじと攻撃を成功させる。

バスケは試合の展開が早くて頭が回る。

そして展開が早いまま試合は進み、あっという間に前半が終わった。

こちらが先手を取ったが、相手にリードを許してしまっていた。

六組 14-11 三組

レベル高いな、この試合。


「やべぇ、めっちゃ疲れる」


試合に出てた人は肩で息をしている。

ずっと走りっぱなしだったもんな、凄いわこの人たち。


「どうする、リードされちまった」


「メンバー変えるか?」


運動神経が良い人が多いとはいえ、このチームにいるバスケ部は一人だけ。

深見隼人(ふかみはやと)

自然とその一人がチームの指揮を担うことになってる。


「ん〜、そうだな....このまま負ける気はないが、負けても後悔しないやり方を選ぼう、坂村」


「.....ん?」


「後半出ないか?」


え!?

正気かこの男。


「え、でも....俺出ても足引っ張るかもだぞ」


「そんなの気にしないさ。せっかくの球技大会なんだ、楽しんでやろうぜ」


「そうだそうだ、俺もう疲れちまってるし出てくれると凄い助かるんだよ」


「失敗は俺たちがカバーするぞ!」


優しすぎない?この人達。

葵にも応援されてるし....

ちょっとやってみようかな。

相変わらず俺はチョロい。


「....分かった、頑張ってみる」


「よし!頑張ろう!」


ハーフタイムが終わり、後半が開始される。

俺どうしたらいいかなと悩んでたら、ボールが来た。

と、とりあえず、葵との練習を思い出せ。

できるか俺に....

いやもうここまで来たなら腹を括れ、坂村悟。


「坂村!こっちだ!」


深見が顔を出してくれた。

そのままパスを出すと決めてくれた。


「ナイスパス!」


「あ、あぁ」


良かったぁパスが通って。


14-13


これで相手の攻撃を凌いで、こっちが点を取れたら逆転。

相手は一気に突き放そうと、スリーポイントを狙ったが外れた。

よしこれで速攻を....でも俺走れない!


「深見!」


頼むそのまま行ってくれ!

みんな速すぎだろ、俺が遅すぎるだけか。


「坂村!」


えっ、俺!?

どうする、遅れてきたのが功を奏してか相手のマークは無い、つまり俺は完全ドフリー。


「打て!坂村!」


くそ、僅かな可能性に掛けて!

スリーポイント!

てか届くかこれ!?

頼む!入らなくてもいいからとりあえず届いてくれ!

ボールは綺麗にリングの中を通っていった。


「.....入った」


「よっしゃあ!ナイスシュート坂村!」


その後はアドレナリンが出過ぎたのか、記憶が曖昧だ。

曖昧な記憶の中では俺は何とかパスを出して、何とかシュートを打っていた。

外れてばかりだけど。

なんとか形になる程度の動きは出来ていたと思う。

次に鮮明に意識が戻った時には相手に逆転され、俺がシュートを外したところで試合に負けた。


「はぁ、はぁ、はぁ....」


終わった....てかやばい、俺外したよな....


「坂村!ナイスプレーだったぞ!」


「まさかここまでやるなんて思ってなかったぞ!」


結果は29-28で1回戦敗退。

俺が外してなければ逆転してたんだ、なのになんで


「どうして....」


「楽しかったからに決まってんだろ!ありがとな坂村!」


楽しい....そうか....楽しかったから....


「良い試合だったぞ〜!三組〜!」


負けたけど....これはこれで悪くない...かも。

あぁ...普段なんも思わない展開のはずなのに...めちゃくちゃ悔しいな。

でもそうだな


「俺も...楽しかった....ありがとう」


たまにはいいよな、こういう気持ちになっても。

そう言って他のメンバーを見ると皆同じ顔して


「おう!こちらこそ!」


笑っていた。


球技大会男子バスケットボールの部

三組 一回戦敗退。


次は確か、葵の試合だったよな。


「坂村くん!」


「萩原...田宮...見てたのか」


「うん!凄かったよほんとに!かっこよかった!」


なんか今日はよく褒められるな。

調子狂うぞ。


「良い試合でしたね、ここまで熱狂させる試合はそうそうないですよ」


「次は女子バスケ、田宮さん頑張ってね!」


「次ってことは、葵と当たるのか」


「えぇ、バスケ部のエースだろうが、友達だろうが、絶対に負けませんよ」


おぉ、これはまた....


「では、私は試合の準備に行きますね」


「頑張ってね〜!田宮さん!」


というか田宮も運動神経凄かったよな。

運動部入ってないのに。


「悟〜!」


「凄かったじゃないか!本当にカッコよかった!」


「疲れすぎてあんまり覚えてないけどな」


「今度は私が悟に見せる番だね」


「....次は田宮も相手に居るみたいだから、油断しないようにな」


「当然だ」


....今までは流れで言ってたけど、気持ちが昂ってる今なら...


「葵...」


「ん?なに?」


「その....葵がバスケやってる姿を見るの結構好きだから....頑張れよ....見てるから」


「うん!絶対勝つよ!」


そのままコートの中に走っていった。

周りからは黄色い歓声が飛び交う。

今日の主役は、佐倉葵だと叫んでいるかのようだった。

今日の俺の予定は終わった。

これからの時間は主役の応援に使おう。


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