第15話

今年は小学校時代から今までの中で、一番濃い始まり方だったと思う。

特別嫌な気分になってるわけではないが、疲れが溜まる。

特に昨日は最悪だった。

委員会は図書委員になれなかったし、浅田がサボったおかげで色々大変な目にあったし....

そんな空間でも葵が居たから、まぁ悪くなかったと思ってしまう。

今日からは平穏で、いつもと同じような教室の朝。

だと思ってたんだが


何故か俺は浅田に睨まれている。


なんでだ、俺あいつと喋ったことないから特に何もやってないと思うんだが....

心当たりがあるとすれば昨日のことか?

いや尚更俺あんまり関係ないだろ。

だって図書委員じゃないし。

それともただ単に目つきが悪いだけとか?


「席に着け〜」


モヤモヤしてると先生が入ってきた。

ホームルームの時間が来たらしい。

同時に、痛いほどに向けられた視線は一旦途切れる。

ありがとう、先生


「今日は特に連絡することは無いんだが....浅田」


「はい」


「今回のことは大目に見てやる、次は気をつけろよ」


「.....はい」


どうやら昨日の事は先生の耳にも届いていたようだ。

怒鳴られなかっただけ、まだマシなのかもしれない。

大事な初日からサボられてしまっては、担任の立場が無いからな。

部活に行きたい気持ちは分からんでもない、俺は部活所属してないけど。


「お前らから何か連絡することはあるか〜?」


少し怒気を含んだ声は出ておらず、もういつものだるそうな先生に戻っている。

先生って大変だなと見てて思った。


「無いならホームルームは終わりな、それじゃ授業頑張れよ〜」


そう言って、先生は教室を出ていった。

それぞれの机から教科書を出す音が聞こえる。

準備が終わったものから再び雑談が始まった。

すると、また痛い視線が向けられる。

この人気付かれてないと思ってんのか?

そんなに見られると普通に気付くぞ。

俺が敏感なだけか?

こちらに近付き、何かと思って少し身構える。

俺にしか聞こえない大きさで


「.....チッ」


舌打ちしてきた。

なぜ!?

そしてそのまま教室を出る。

友達もその後をついていった。

目つきが悪いだけということを願っていたが、どうやらそうではないみたいだ。

あれは完全に俺に対して敵意のようなものを持ってる。

面倒事になりそうな予感がする....


そしてそれから放課後になるまで、度々視線は向けられていた。

なに俺の事そんなに好きなの?

休み時間なのに全然休めなかったし。

とりあえずあの人が教室出る前に俺も図書室行こ。


「おい 、ちょっと来い」


呼び止められた....

どこ連れてかれるんだ。

あまり生徒が近づかない倉庫のようなとこに連れてかれた。


「お前さ....佐倉のなんなの?」


何って.....え、なに?


「何って言われても....クラスメイトだろ」


幼なじみというのは伏せておく。

なんか言ったらいけない気がしたから。


「じゃあいいや、どうやったのかは知らねぇが、ただのクラスメイトなら点数稼ぎやめてくんね?」


こいつは一体何を言ってるんだ。

いや...この目....

長らく向けられていなかったから、忘れていた。

中学時代、葵の近くに居た時からずっと感じていた。

嫉妬と怒りがドロドロに混ざった暗い目だ。


「せっかく近づけるチャンスだったのによ」


こいつはサボったことなんて何も気にしていない。

浅田にとって、委員会はただ葵に近付くきっかけであり、道具でしかないのだ。

この思惑のせいで、萩原のような真面目な生徒が割を食う。

少し考えれば分かることだが、青春というものは人を盲目にさせる。

浅田の学生生活において些細な出来事に過ぎない。

だが浅田の感覚は恐らく正しい。

いちいち気にしてしまっていては3年間という時間はあまりに長く感じてしまう。

だから俺も気にしないようにしていた。

だけどこいつの目はそれを許さない。

目は口ほどに物を言うとはよく言ったものだ。


「地味で目立たない、なんの取り柄もないくせに、お前....邪魔なんだよ」


目だけでなく口でもそれを言ってきたか。

久しぶりに言われた。

中学生の時もずっと同じ目で見られ、同じ言葉を吐かれた。

お前は邪魔だ、お前は相応しくない。

こいつのようにわざわざ人目につかないところに俺を連れていき、似たようなことを言ったやつが何人も居た。

気にしないようにしていても、刃物は容赦なくこちらに向かっている。

このままでは葵に影響しかねない、彼女の心にも傷が付く。


「お前に、佐倉の隣は相応しくない」


だから俺は逃げた。

その目から、言葉から、そして葵から。


「話はそれだけだ、じゃあな」


そう言い残して、浅田は去っていった。

相応しくないのは逃げた俺が1番知っている。

なぜなら俺が葵の事を1番近くで見ていたのだから。

この3日間で、短い時間でも葵と過ごす時間が出来たから、心に隙ができたか。


「はぁ....最悪な気分だ」


誰に届くはずもない声で溜め息をこぼす。

最悪な一日の閉幕だった。


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