第14話

「おつかれ葵〜、委員会何にしたの〜?」


「お疲れ恵、私は図書委員だよ」


「図書委員かぁ、ほんと委員会めんどくさいなぁ...でも今日ちょっと面白そうな人と話せたんだよねぇ」


いつにも増して恵の機嫌がいい。

相当面白い人なんだろう。


「気になる?葵」


「聞いてほしいんだろ?」


いつもなら特段気にしないが、ここまで話したがる恵も珍しい。


「ふふ、さっすが葵!あとで聞かせてあげる!」


先輩たちも続々と委員会を終えて集まってきた。

みんな委員会がめんどくさそうな顔をしている。


「先輩お疲れ様っす!」


「おつかれ恵、委員会ダルいね〜」


「葵もお疲れ様、バスケ頑張ってね」


「はい、ありがとうございます」


バレー部の先輩たちもカッコイイ人ばかりだ。

私もあんな風にカッコイイ先輩になりたい。

バスケ部と同様、バレー部もかなりの強豪として知られている。

去年も全国大会に出場していて、恵はベンチメンバーに選ばれている。


「そういえば図書委員って今日かららしいね」


「そうだよ、よく知ってるな」


「さっき唯ちゃんに聞いたんだよねぇ、あ、田宮唯ちゃんね」


そうか、四組って言ってたから、恵と同じクラスになるのか。

良いクラスだな、羨ましい。


「実は私、田宮さんとは図書委員で同じペアなんだ」


「えぇ!?そうなの〜?いいな〜」


「唯ちゃんは萩原くんと付き合ってるんだけどね、二人とも優しいからさ、二人が話してると雰囲気がポワポワしてるんだよ〜」


なんとなくわかる気がする....

まだ高校生なのに、熟年夫婦みたいというか....


「クラス一緒になって、連絡先交換しちゃった!」


自慢するかのように、電話を私の目の前に出す。

そこには確かに、ゆいちゃんと萩原くんで登録されている。

羨ましい....私も今度交換してもらおうかな....


「その萩原くんと、私のクラスメイトの浅田くんが今日の当番だよ」


「え?浅田?」


「うん....あれ、浅田くんのこと知らなかったか?」


確か同じ中学だって聞いてたんだが、記憶違いか?


「いや、浅田は知ってるよ?今日当番なの?」


まさか...嫌な予感がする。


「うん....どうかしたのか?」


「どうしたもこうしたも、さっき浅田部活に向かってたよ?」


嫌な予感が的中してしまった。

なんで、あんなに喜んでたのに。

初日からこれなんて....

萩原くんに迷惑がかかると思わなかったのか?


「あ....葵?」


「ごめん恵、私図書室行ってくる」


「う、うん....バスケ部の先輩には私から言っておくよ」


「ありがとう」


私は急いで図書室に向かう。

それより浅田くんを呼び戻すか?

いや、正直今は彼とは話したくない。

せめて穴埋めだけでもしないと。

走って図書室に向かい、ドアを思った以上に強く開けてしまった。

そんなに気にしていられなかった。

とにかく謝らないと。


「すまない!浅田くんが来ていないと聞いて!」


え?


「さ、さささ悟!?」


なんでここに!?

驚いていると、萩原くんが質問を投げた。


「あ、佐倉さんだ!なんで来てくれたの?」


「あ、あぁ....すまない、浅田くんが早速来てないみたいで、私が代わりに来ようかと思って」


まったく....なんで初日からこんな事に....


「そ、そんな!悪いよ!佐倉さんも部活あるんでしょ?」


「確かに部活はあるが....これも立派な私達に与えられた仕事なんだからちゃんとしなければいけない、それに君一人に仕事押し付けることになってしまうのは良くない」


だめだ、彼が優しいから会話が平行線になってしまう。

そうなることを察してか、悟が口を出す。


「まぁ、葵もこう言ってる事だし、今日くらいお言葉に甘えていいんじゃないか?」


渋々、萩原くんは承諾してくれた。

長居はしなくていいとは言ってくれたものの、途中で帰るつもりは無い。

そこからは萩原くんに教えて貰いながら、図書委員の仕事をこなしていった。

悟はどうやら今日出た課題をやってるみたいだ。

私は仕事をしながら、ちらりと盗み見る。

集中しているのか私たちの方には目もくれない。

萩原くんは悟と過ごした去年の話をしてくれた。

私が知らなかった、悟の時間の話。

悟はというと、恥ずかしくて顔を赤くしていた。

その姿に少しキュンときた。

さっきまで集中していてキリッとしていてカッコよかったのに、今は可愛い....

ダメだ、仕事に集中しなくては...


「萩原!葵!」


急に名前を呼ばれてビックリしてると視界に影ができる。

本棚の影だった。

急なことで足が動かない....

だめだ、せめて萩原くんだけでも。

すると、私の体が強い力で引っ張られる。

本棚はそのまま大きな音を立てて倒れた。

幸い私達に怪我はなかった。

悟に助けられたんだ。

あと少しのところで怪我をするところだった....そう考えると柄にもなく怖くてたまらなかった。

だけど、私たちに怪我がなくて安心した悟の顔を見ると私も安心できた。

その後は萩原くんと悟の会話を聞いて、温かい気持ちになっていた。

これが親友というものなのかもしれない。

昔の悟は私が一番知っている自信があるけど、今の悟はあまり知らないんだなと思い知って胸が痛くなるけど、これからまた知っていこうと覚悟ができた。

私は負けず嫌いだし、独占欲も強いんだ。

初日の活動が終わり、悟に頑張れと言われたので今日は5倍は頑張れる。



さて....浅田くんにはキツく言わないといけない。

とりあえず、浅田くんの後輩に部活が終わったあと私のところに来るように伝えてもらった。


「あ、佐倉〜!」


部活を終えた彼が私のところに走ってくる。

まるで何も知らないかのように。


「どうしたんだ?急に呼び出して」


「....本当に分からないのか?」


「えっ....俺なんか佐倉にしたかな」


違う、私じゃない。

本当に分かっていないんだ。

この人にとって今日決まったペアはなんなんだ。

大切な仲間なんじゃないのか。


「今日、委員会行ってないよね」


そう言うと、少しバツが悪い顔をした。


「あ、あぁ!ごめん!部活が忙しくてさ!」


部活より委員会優先。

他の学校は知らないが、少なくともこの高校はそういうルールだ。

委員会は勉強の一環で、学生の本分は勉強だ。

部活では無い。


「君の代わりに私が行ったんだ」


「え....まじで....??そ、それはマジでごめん!」


「私だけじゃない、君のペアである萩原くんも....最終的には悟にも迷惑がかかってしまったんだ」


あの二人は、特に迷惑だとか考えてないかもしれないが、私は許せなかった。


「い、今、悟って....坂村のことか?なんで名前で...知り合いだったのか...??」


この男は本当に私の話を聞いているんだろうか、こんなに他人に対して怒りが湧き上がるのは久々だ。


「な、なぁ、坂村と一体どういう関係で」


「そんなことは今はどうでもいい!!!」


周りに大きく声が響く。

帰る生徒たちの視線がこちらに向くが、そんなの気にならないくらい、私は怒っていた。

ふざけている、私と悟がどういう関係だろうが、今この話には何の関係もない。

そもそも浅田くんには関係ない。


「すまない、声を荒らげてしまって....とにかく今日のことは萩原くんに謝るんだ」


そう言うと彼は黙り込んでしまった。

プライドが邪魔して謝るのが嫌なのか、私に怒られるのが気に入らないのか。

それは分からない。

少しは自分の行動の責任を自覚するべきだ。


「話はそれだけだ」


そう言い残して私はその場を後にした。

彼は黙ったまま、その場に立っていた。


「あ、葵〜....」


恵だ。

嫌なものを彼女に見せてしまった。


「....ごめん、恵。君の友達に」


「え!?いやいや、いいんだよ!」


今回は浅田が悪いんだから、自業自得だと恵は言った。


「それにしても、あそこまで怒ってる葵初めて見たなぁ」


「あんまり怒りたくないんだが今回は流石に

.....」


「まぁね〜....初回からサボりは流石にないよね」


部活が忙しいのは分かる。

でも、その前にやらなきゃいけないことはある。

優先順位を間違えないで欲しい。

萩原くんの優しさにつけ込むようなことはしないで欲しい。


「そういえば、さっき悟って言ってたけど、坂村くんの事だよね?」


彼女も悟のことを知っているのか。

私の知らないところで接点あったのか?


「実は私の美化委員のペア、坂村くんなんだよね」


へぇ.....え!?


「そ、そうなのか?」


「そだよ〜、めちゃくちゃ面白かったんだからあの人」


部活前に言ってたのは、悟のことだったのか....

面白い....一体何があったんだ....

というかずるい....羨ましい...


「それにしても....そっか〜、坂村くんをね〜、ふ〜ん」


何やらニヤニヤしながら私を見てくる。

なんか、からかわれる気がする。


「な、なんだ?」


「ううん、葵が男の人を名前で呼ぶとこなんて初めて聞いたからさ〜、あれかな?深い関係なのかな?」


「な、なななななにを!?」


私は思わず狼狽えてしまう。

恵のニヤケ顔はさらに続く。


「いいからいいから、教えてごらんよ」


「か、彼とは幼なじみで....まだ何も....」


「ほう、まだ....ね」


しまった...!!

墓穴を掘ってしまった。


「いやぁ、まさかだったな〜!そっかぁ」


「た、田宮さんは....からかわずに聞いてくれたぞ....」


「あら!そうなの?.....じゃあ私でバランス取れてるじゃ〜ん!」


質問攻めされまいとしたが無理だった。

その後は根掘り葉掘り話を聞き出されてしまった...


「なるほどね〜」


私はもう頭はショート寸前で、顔は真っ赤になっている。


「も、もう満足したか?」


「ごめんって、でも聞けてよかったよ」


そう言って、私の正面に立つ。


「葵が抱えていた悩みの種は、それなんだね」


さっきまでのニヤケ顔は無くなり、ただ優しく笑っていた。


「でもちょっと妬けちゃうな」


「どうしてだい?」


「その悩みを最初に聞いたのが私じゃなくて、唯ちゃんなのがちょっと妬けちゃう」


それを聞いて私は少し後悔した。

言いたくなかったわけじゃない、恵にもいつか相談したいと思っていた。


「すまない....相談したいとは思っていたんだ....どう切り出したらいいのか」


「分かってるよ、葵」


私の言葉を遮るかのように、私の名前を呼ぶ。


「忘れないでね、葵の味方は唯ちゃんだけじゃない、私も葵の味方だから、いつでも頼っていいんだよ」


私は本当に良い友達を持った。

さっきまでの怒りはどこかへ飛んで行ってしまった。

私はどちらかと言うと頼られることの方が多かったから、人に頼るというのが苦手。

でも今は頼って欲しいと言ってくれる友達がいて、頼りたいと思える友達がいる。

私は幸せ者だよ、悟。

君が背中を押してくれたから、恵達に出会えたんだ。


「ありがとう、恵」


「うん!」


飛びきりの笑顔で返事をする。

その笑顔はとても眩しくて、幸せが充満していた。

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