第13話

今日は最高の目覚めだった。

朝練の調子も良かった。

楽しみなことがあると、つい調子に乗ってしまう。

それが今日は良い方向に行ってくれている。


「葵〜今日調子良いね」


「はい!ありがとうございます!」


「お、おぉ....なんか元気も凄いね...いつになく...なんか変なの食べた?」


少し引かれてしまった....

だが、それでも浮ついてしまう。

なぜなら今日は、委員会決めがあるから!


「じゃあ、委員会決めるぞ〜」


遂に来た、この時が。

私は....


「ねね、葵はもう決めたの?」


「あぁ、もう決まっている」


私は図書委員になる。

私の行く先に迷いなんてなかった。

図書委員 佐倉葵。

これで、悟と一緒の委員だ。

と思っていた.....


「ん〜、図書委員多いな〜、お前らちゃんと真面目に選んでんのか〜?」


何故こうなった....

悟以外に、5人の男子が名前を書いている.....

いや何の委員にするかはみんなの自由だから、私からはなんとも言えないのだが....

図書委員ってそんなに人気だったのか...?

とはいえ、これはどうやって決まるのだろうか。


「そうか〜、じゃあ私があみだくじやるから、当たったやつが図書委員になれ」


あみだくじか。

頼む、悟来てくれ!

ここ最近運がいいんだ、頼む!

心の中で必死に祈る。


「決まったぞ〜、浅田、お前がやれ」


祈りは届かず....惨敗した。

だが、こればかりは仕方ない....

幸運もそう何日も続かないということだ....


「よっしゃ〜!」


浅田くんは元気で明るいし、私とも気さくに話しかけてくれて仲良くしてくれるのは凄くありがたいんだが、授業中の態度などを見てるとあまり良い印象はない....

でも喜んでるみたいだし、きっと真面目にやってくれると信じてる。


授業も全て終え、これから委員会の顔合わせ。

ちょっと憂鬱....

いや、こんなんだと、浅田くんにも、ほかの人たちに失礼だ。

しっかり頑張ろう。


「全員集まってるな、ここに居るのが図書委員のメンバーだ、しっかり顔覚えとけよ」


図書委員担当の先生が言う。


「それじゃ、例年通り活動は2人1組のペアでやってもらう、同じクラスの人と組んでも構わないんだが、せっかくだし今年は別のクラスのやつと組んでもらうか」


別のクラス....浅田くんとじゃないってことか。

良い印象はあまりないとはいえ、少しでも気心知れた相手とやりたかったんだけど。


「じゃあくじびきだと時間かかるから俺が決めるぞ、一と二組、三と四組、五と六組で組んでくれ」


隣のクラスか....真面目な人だと良いな。


「あなた達が三組ですか?」


「あぁ、そうだよ」


あれ...この二人どこかで...


「良かった、私は田宮唯です」


「僕は萩原夏樹です!」


そうだ、あの時見かけた、悟と仲のいい二人組。

色々と聞きたいが、委員会に私情を持ち込むわけにはいかない。

悟と仲が良いんだから、きっと真面目な二人に違いない。


「あぁ、こちらこそよろしく。私は佐倉葵です」


「俺は浅田透(あさだとおる)」


2人1組って言ってたから...2つに別れないといけないのか。


「どうする?」


「ん〜じゃあ僕は浅田くんと組もうかな!」


「じゃあ私は佐倉さんと」


迷いなく別れたな...

私情は持ち込まず、かと言って異性とも組まない。

頭の良い二人だ。

言われるがままに私たちは二組に別れ、萩原くんと浅田くんは離れた席に移動した。


「改めてよろしくお願いしますね、佐倉さん」


ぺこりと頭を下げられる。

しっかりしてるな、この子。


「あぁ、こちらこそ」


私も思わず頭を下げる。

こういうの気にした方がいいのかな、向こうにとっては初対面なんだし。


「良かったのかい?」


「何がです?」


「その、私と組んで」


「ええ、大丈夫ですよ。第一印象で全て決めるのは良くないですが、実はあのタイプ苦手なんです」


はっきり言うなぁこの子。

なるほど、それが分かってたから萩原くんも少し離れた所に行ったのか。


「あ、すみません、クラスメイトなのに」


「いやいや、いいんだ、私に口出しする権利は無いからね」


「ありがとうございます....これでもう特に決めることはありませんね....活動の割り振りは先生が決めるみたいですから、ちなみに今日から普通に活動を始めると聞きましたよ」


「今日からなのか....」


流石にそれは予想外だった....


「佐倉さんは三組ということは...坂村くんと一緒ということですよね」


まさか彼女からその名前が出るとは思ってなかった。


「あぁ、そうだよ....今年から同じクラスになったんだ、それがどうかしたのかい?」


「いえ、去年坂村くんは図書委員にだったので、てっきり今年も図書委員になると思っていたので」


あぁ、そういうことか。


「萩原さんが今年も一緒にやりたいって張り切ってて」


少し苦笑いを浮かべ、楽しそうに言う。

そんなこと聞くと、ちょっと気の毒に思ってしまう。


「実は私と萩原さんは付き合ってるんですけど、付き合う前の私たちは2人とも勇気が出なくて、その際彼は背中を押してくれたんです....私たちが付き合えてるのは、彼のおかげでもあるんです」


言葉で悟に対して感謝を述べながら、視線を萩原くんに向けて、愛おしそうに見つめながら懐かしむ。

彼女は本当に萩原くんのことが好きなのだろと分かった。


「彼のことだから、それを言っても俺は何もしていないって言うだろうけどね」


本当に彼らしい...

素直じゃないところも。

田宮さんが何かニヤニヤして私を見ていた。


「な、なんだい?」


「いえ....坂村さんのこと、大好きなんだなって」


瞬間、顔が真っ赤に染まるのが分かった。

言い訳しようにも言葉が出ない。


「な、なんで....」


「分かりますよ....だって私が萩原さんを想ってる時と同じ顔をしているから」


何も言い返せなかった。

でも彼女の表情はからかいもあるが、優しさも含まれているように見えた。


「今は深くは聞きません、これから何度も一緒に仕事することになりますし、あなたの事はこれから知っていきます」


「力になれることも、もしかしたらあるかもしれません。恋愛に関しては私が少し先輩みたいなので」


ふふっと笑いながら言ってきた。

やっぱりからかってるだけだろうか...


「はは、じゃあその時は....頼らせてもらおうかな」


「えぇ、待っていますよ」


そして、今日の顔合わせは終わった。

初日の活動は、萩原くんと浅田くんで決まった。

浅田くんはかなり面倒くさそうな顔をしていたが、多分大丈夫だろう。


「じゃあ、私は部活に行くよ」


「はい、頑張ってくださいね」


どこまでも上品な子だった。

それでも親しみやすい、彼女に好かれる萩原くんもきっと良い人なんだろう。

悟と一緒の委員になれなかったのは残念だけど、それでも良い出会いがあった。

どうやら私の幸運は続いているようだ。




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