第12話

なんやかんやあって、図書室で葵と萩原と三人で一緒になった。

まぁ俺は課題しにきたんだけど。


「坂村くん、分かんないとこがあったら教えるよ!」


「あぁ、助かるよ....手が空いた時で大丈夫だからな」


「うん!」


まさかこんな状況になるとはな。

不真面目なのはいただけないが、葵と同じ場所に居れるんだ、そこには感謝しよう浅田。

俺は課題に取り掛かる。


「じゃあ佐倉さん、多分図書委員初めてだよね」


「......」


「あれ?佐倉さん?」


「あ、あぁ、すまない...初めてだ」


葵がボーっとしてるなんて珍しいな。

部活も忙しいだろうに、こんなに振り回されて大変だな。


「僕去年も図書委員だったから、仕事教えるね」


「うん、助かるよ、ありがとう」


「まずはね....」


いつものようにクールに答える葵。

萩原が本を貸し出す時の手順を教え、葵がうんうんと頷く。

そしてその他の事も。


「意外とやることが多いんだな」


「そうなんだよねぇ、去年は坂村くんと一緒だったんだけど二人で頑張ってたんだよ、坂村くんは初日から仕事テキパキやってくれるからすごく助かったんだ!」


「そ、そうか」


俺が居るところでそういうのはやめてくれ、照れるから。

ちらりと葵もこちらを見る。

....恥ずかしい。


「じゃあ最後は....本棚にある本の整理だね!」


「うん」


二人は本の整理にとりかかった。

本を五十音順、もしくは作者別、ジャンル別に並べる作業、たまにバラバラで並べてある時があるから、そういう時がめんどくさい。

萩原は去年もやってたからか、仕事が早い。

葵もうんうんと頷きながら、一生懸命やっている。

仕事してるところも様になってんな。

課題を進めながら、二人を盗み見る。

すると、本棚が倒れようとしていた。


「萩原!葵!」


二人は大声で呼ばれて驚いたのか、目を大きく開いている。

早めに気づいたのが幸いしたか、本棚が倒れる前に二人を腕を引いて回避することが出来た。

バタン!と大きな音を立てて本棚が倒れる。



「2人とも!怪我は!?」


「い、いや....ぼ、僕は大丈夫....」


「葵は!?」


「私も....大丈夫....」


よ....


「....よかったぁ....マジでビビったぁ.....心臓止まるかと思った」


「ごめんね、僕の不注意で....ありがとう坂村くん」


「萩原はなんも悪くないだろ?気にしなくていい」


急なことで葵の表情は固まったままだった。

そりゃびっくりするよな。


「あ....ありがとう....悟」


「あぁ大丈夫だ、気にしなくていい、とにかく怪我がなくてよかった....」


まじでほんと良かった。

一緒に居られて嬉しいとか思ってたが、良いことばかりじゃないな。

浅田のせいだな。うん。


「とりあえず、片付けるか」


その後は本棚を起こして、三人で片付けた。


「ごめんね、勉強してる時に」


「謝らなくて大丈夫だ、もうほぼ終わってるしな」


「そういえば坂村くん、委員何にしたの?」


「あぁ、美化委員だよ」


「そうなんだ、僕てっきり図書委員になるんだと思ってたよ」


「俺もそのつもりだったんだが、やりたい人が多くてくじ引きで決まったんだよ」


ほんと、ツイてねぇな。


「....今からでも変えるのは...無理かな」


静かになってた葵が聞く。


「どうだろう.....僕たちも顔合わせ終わっちゃったしね、さすがに今からは変えられないんじゃないかな〜」


だよねぇ、俺も変えられるなら変わりたいけど、そもそもやりたい人俺だけじゃなかったしな。

俺がなれるとは限らん。


「図書委員じゃなくても、去年と同じように俺は図書室に通うことになるだろうし、あんま変わんないけどな」


「ははっ!じゃあ僕が居る時は手伝ってもらおうかな!」


この人もしかして浅田のこと忘れてない?


「一応浅田がいるだろ?」


「あっ」


あって言ったよこの人、完全に忘れてたよね。


「ふふ....ふふふ....」


隣で葵が静かに笑う。


「なになに?どうしたの?」


「いや....仲良いんだな、二人とも」


ん〜、確かに悪くはないとは思うがな。


「そりゃそうだよ!だって僕と坂村くんは友達だから!」


「え?」


思わず口に出る。


「え?違うの?」


萩原が不安な顔になる。


「あ、いや、違うんだ....」


「違う!?」


「いやいや、そうじゃなくて....」


友達....良いのか?

萩原みたいな良い奴と....


「....ゼロではないけど....あんまり友達居なかったから....俺なんかと....」


「え?そうなの?それに俺なんかってやめてよ、凄く良い人なのに」


「いや....そうでもないさ」


すると萩原は優しい表情で、俺に向かう。


「ううん、君は凄く優しいよ。だから....これからも坂村くんの友達で居たいんだ、ダメかな?」


胸の奥がジンとなる....

やば、ちょっと泣きそう....

恥ずかしくなって顔を逸らしてしまった。


「じゃ....じゃあ....友達で....」


「うん!これからも友達だよ!」


友達.....やっぱ今年度の俺ツイてるかも。


「....良かったね....悟」


その声は耳には届かなかったが、葵も優しい顔をして笑っていた。

本棚の片付けが感動的に終わり、初日の委員会は終わりを告げた。


「じゃあ僕は田宮さんと待ち合わせしてるから!」


「あぁ、またな、田宮にもよろしくな」


「うん!またね!」


手を振りながら萩原は田宮の元へ向かった。


「じゃあ、私は部活に行くよ」


「あぁ、頑張れ」


何歩か歩いて、立ち止まり、こちらに振り返る。


「ん?どうした?あおっ!」


急に走り出して、俺の手を握ってきた。

え?え?え?え?

なになになになに?


「悟」


「は、はい!」


「.....もう1回言って」


え?何を?


「えっと....どれのことだ?」


「頑張れって....」


あ、あぁ....なんだそれか....別にいいけど、手を握らなくてもいいじゃん。

おかげでめっちゃドキドキしてんだが。


「が、頑張れ」


更に強く手を握りしめる


「いぃたたたた!!」


「あ!ごめん!」


何とか力を緩めてくれた。

マジで助かった。

別の意味でドキドキしてしまった。


「い、いや、良いんだ、大丈夫....」


「ありがとう....いつもより三倍は頑張れる気がする....」


んな大袈裟な。


「さっきも助けてくれてありがとう....やっぱり悟は私のヒーローだ....かっこよかったよ」


だから大袈裟だって。

てかもう頭ショート寸前....何考えてんだ葵....

ホントやめて告白してしまいそうになる....

でも多分、葵は恋愛的な意味ではなく、純粋に言ってるんだろうな。

俺別に何もやってないんだけど....

過大評価にも程がある....俺なんか....底辺の人間だぞ....


「じゃあ、私は行くよ」


さっきまでの行動はなんだったのか、いつものクールな葵に戻っていた。

手をヒラヒラと振り、部活に向かった。

俺は頭真っ白になり、トボトボと家に帰った。

その後のことはあんまり記憶にない。

ただ葵の手の感触が残っていて、心の熱気は冷めることは無かった。


浅田は部活が終わったあと、葵に呼び出され叱られたらしい。

まぁ自業自得だよな。

次の日、浅田が何故か俺を睨んできた。

.....ほんとになんで?



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