第10話

なんか濃いような、濃くないような、そんな始まり方だな。

と言っても濃いのは学校の時間じゃなく、それ以外の時間なんだが。

まぁ学校以外の事に関しては幸運だから全然嬉しいんだけど。

その上授業も難しいし。

慣れるまでちょっと時間かかるだろうな。

それにしても....


「おはよ〜葵〜!うぉっととと!」


「おっと....」


「ひぇっ!葵!」


「大丈夫かい?」


転びそうになった女子生徒を、支える葵。

いや顔近っ!どんな少女漫画だよ。

葵は結構あんなとこあるよな、王子様みたいな感じのやつ。

支えられてるのが俺じゃなくて良かった、多分俺だったら失神してるわ。

ほら見ろ、あの女子生徒めっちゃ顔赤いぞ。

風の噂で聞いたが、俺たち二年の男子生徒は彼女居る生徒が例年より少ないらしい。

どこで集めた情報かは知らんがな。

でも、もし本当ならその原因のひとつは葵だと思うんだよね。

俺の勝手な推測だけど。


「お〜い、お前ら〜席に着け〜」


少しダルそうな声が教室に響く。

担任の先生の葉月(はづき)先生が入ってきた。

やる気なさそうな感じだが、意外と生徒の面倒見が良い女性教師。

というふうに聞いている。


「じゃあ、今から委員会決めるぞ〜」


はーいと返事が聞こえる。

今年も図書委員かな。

去年同様、図書室には毎日のように通うだろうし。

あんま人気の委員じゃないし、多分すんなり決まるだろ。


「じゃあ、委員会書いていくから、その下に自分の名前書いてくれ〜、まず女子から」


あちこちから、どれにするか友達と話し合う声が聞こえる。

今のところ図書委員の名前は聞こえない。

これなら、大丈夫だな。

俺以外の一人は抽選かなんかで決まるだろ。


「ねね、葵はもう決めたの?」


「あぁ、もう決めてる」


そういえば、昨日聞こうと思ったけどやめたんだよな。

即答したってことは元から決めてたのか。

葵はそう言いながら、黒板に自分の名前を書く。

図書委員にするのか、へぇ...... こりゃもう一枠は争いになるな。




はぁ!?!?!?

図書委員!?!?!?





嘘だろ、勘弁してくれよ。

すんなり決まると思ったのに。

なんで?去年図書委員だったとか?

いや、顔合わせの時に葵は居なかったから有り得ない。

その後は女子がそれぞれ名前を書いていった。

男子はと言うと、俺の予想通り図書委員に何人も名前を書いていく。

しかもめっちゃ陽キャの人達。

あの人たちが書くなら


「お前〜下心丸出しだろ〜」


とか言われながら笑い話にできるが。

俺みたいなのが書いたら。


「うわ...お前下心しかないじゃん....きも」


ってなること間違いなし。

しかもいじられることもない、ただ単にそう言う目で見られる。

つらすぎる!

うわぁ.....図書委員のとこ名前書きたくねぇ....

てか多分葵も学校じゃあの人たちとの方が仲良いみたいだし、俺よりやりやすいだろ。

普通に嫌だけどな!

まぁだがこうなっては仕方ない。

昨日図書委員になるって言ってしまったし、嘘ついたことになってしまうが、他のとこに書くか。

嘘つくことになってしまうが......





図書委員のとこに名前を書いてしまった....

やっぱり嘘つくのはよくないと俺は思うんだ。

だがちょっとだけ視線が痛かった。

無いとは思うが、問い詰められたら去年もやってたからと言える。

これで乗り切れるだろう。

だが、俺以外に5人の名前が書いてある。


「ん〜、図書委員多いな〜、お前らちゃんと真面目に選んでんのか〜?」


真面目で〜す!

と5人のうちの一人が元気に答える。

名前は確か.....浅田。


「そうか〜、じゃあ私があみだくじやるから、当たったやつが図書委員になれ」


ラッキー、俺目立たなくていい。

結果は....


「決まったぞ〜、浅田、お前がやれ」


「よっしゃ〜!」


あぁ、残念。

まぁ変に目をつけられるよりマシか。

とはいえ、どうすっか。

この中でやれそうなのは.....美化委員かな。

なんか面倒くさそうだが、体育委員とかよりやりやすいだろ。

というわけで、美化委員のとこに名前を書く。

美化委員は図書委員と違ってクラスで1人まで。

意外と俺にはお似合いかもしれん。

それぞれが名前を書いて、全部の委員が決まった。


「よ〜し決まったな、今日の放課後顔合わせがあるから、全員そのつもりで動けよ〜」


そう言って、朝のホームルームが終わった。

まぁ一人だし気楽に行こう。

葵の方をちらりと見ると、少し震えていた。

あれは....どういう感情なんだ。

浅田のことが嫌いなのか?

でもそんなに仲悪く見えないんだがな。

いやもう決まったものを気にしても仕方ない。

美化委員かぁ、多分めんどくさいよなぁ。



めんどうなことが控えてると、時間はすぐに過ぎるもので、もう放課後になってしまった。

委員会の顔合わせの時間。

場所はたしか.....第2会議室だったか。

ガラっとドアを開く。

もうほとんどが集まっていた。

適当な席に座っていいみたいだな。


「よ〜し、全員揃ってんな〜」


え、美化委員の先生も葉月先生なのか。

全然美化って感じじゃないのに。

いやむしろ逆....


「坂村〜、失礼なこと考えてんじゃないぞ〜、私はこう見えても綺麗好きなんだ」


んがっ、なんでバレた。

ていうか一気に視線が.....


「......すみません」


「分かればよろしい、じゃあ美化委員の活動について説明する、去年もやってる奴もチラホラ居るが黙って聞くように」


「と言ってもそんなに難しくない、各学年2人1組になり、それぞれ割り振られた場所を定期的に掃除するんだ、場所によっては草むしりも頼むことになる」


草むしりかぁ....汚れるの嫌だな。


「そうだな、めんどくさいから隣のクラスのやつと一組になれ。掃除箇所が記された敷地のプリントも渡すからどこがいいか二人で話し合って決めてくれ」


隣のクラス....てことは4組か。

えっと、どこにいるんだ?


「君が2年3組?」


「あ、はい、そうです」


「私は明石谷恵、よろしくね〜」


おぉ、女子生徒だけど、結構良い人そう。

怖い人じゃなくて良かった。


「俺は坂村悟、こちらこそよろしく」


「ふふ、良い人そうでよかった」


この人との出会いが、これからどんな影響を及ぼすか、俺はまだ知らない。

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