第9話

「葵、おつかれ〜」


「はい、お疲れ様です」


高校二年になり、今日から普段通りの生活に戻る。

流石の先輩たちも疲れが顔に出ている。

ここ最近、先輩たちの気合いが凄い。

私たちが通う高校のバスケ部は結構強いし、7年前には全国にも行っている。

だがここ数年、県大会で惜しくも敗退している。

それもあってか、今年こそはという想いが強いのだろう。

去年負けたのも本当に悔しかった、私も得点はできたけど、チームが負けてしまっては意味が無い。

先輩たちと....このチームで全国に行きたい。

だから、練習は欠かさない。


できれば、悟にも私がバスケをやってる姿を見てもらいたい。

中二の頃までは、たまに見に来てくれていた。

そこからは、見に来てもらえてない。

今年は....というか、今年からは見て欲しい。

見てくれたら、多分10倍は頑張れるから。


もう日は沈んでいて、ハードな練習がこれからも続くことを予感させる。

昨日、時間が合えば一緒に帰ろうと言ったものの、この感じだと時間なんて合わない。

心の中で、少し溜息をこぼす。

暗い道を歩いて、家に着く。

玄関を開けようとした時だった。


「あっ」


声に出てしまった、悟がいる。

昨日から幸運が続いている!

聞いてみると、どうやらコンビニに行くようだ。

ハードな練習だったことに感謝する!

とりあえず悟を引き留めて、私服に着替えよう。


服を選んでいると、恵と選んだ白い服が目に止まる。

ワンピース着てみようかな....

いや、今回はやめよう。

せっかく着るなら、ちゃんとしたデートの時に....

って私は何考えているんだよ!

悟を待たせているんだ、早く着替えていこう。


少し服選びに時間が掛かったけど、悟は待っててくれた。

昨日とは違って、もう日が沈んだ道のり。

行き先はコンビニ

少しだけ悟と悪いことをしてるみたいで、ちょっと楽しい。


「結構遅くまで部活やってたんだな」


「あぁ、先輩たちも気合入ってるからね」


「ふーん....遅くまでお疲れ様だな」


その言葉で疲れが吹き飛んでいくようだ。

こういう悟ちょっとした気遣いが、私はたまらなく好きだ。

態度は素っ気ないけれど、実はとても優しい。

そんな所も含めて。

コンビニまではあっという間だった。

アイスを買いに来たということだから、私のお気に入りをオススメした。

じゃあそれにしようと、悟は即断した。

どうやらどれでも良かったみたいだ。

悟はそれを持って、会計に向かう。

私は悟に言われて外で待つ。


━━━━━「もう暗いし、流石にこの時間に女の子一人で帰らせる訳にもいかないよな」━━━━━


ほんと....そういうとこずるいな。

てっきり、先に帰ってていいって言われるかと思ったし、実際そう言うつもりだったんだろう。

どうせそれも、親に心配されないようにと思ってのことだろう。

悟はそういうことは口には出さないのに、たまにストレートなことを言ってくる。

ほんとずるい....昔はストレートに言われてもなんともなかったのに。

もう自覚してしまったんだ、私の恋心にはダメージが大きい。


会計を済ませた悟が出てくる。

あとは帰るだけ。

このままこの時間が続けばいいのに....

話したいことは山ほどあるのに。

....今日までは運が良かったけど、これからは分からない。

何か口実.....あ!


「悟」


「ん?」


「今年、委員会は何にするんだ?」


そう!委員会!

基本は二人でやるもの!

一緒の委員会に入ればいいんだ!


「図書委員にしようと思ってる」


図書委員か、悟らしいな。

よし、私も図書委員にしよ。

何するかあんまり分かってないけど、そこは悟に手とり足とり教えてもらおう。

キラキラ妄想で楽しんでいると、あることを思い出した。

あの女の子....男の人も一緒だったとはいえ、少し気になる。

ちょっと聞いてみよう。

好きな人とか言われたら、かなり凹む....



ちょっと気持ちが沈みかけたけど、どうやら杞憂だった。

一緒にいた男の子と付き合っているようだった。

ホッと胸を撫で下ろす。


「あの二人には色々振り回されてんだから」


そう言う悟はどこか楽しそうで


「まったく....困った二人だよ」


どこか儚げだった。

多分自分でどんな顔してるのか悟は分かってない。

どういう気持ちなんだろう....

やっぱり付き合ってるとはいえ、好きなんだろうか....

勝手に想像して勝手に凹んで、聞かなければ良かったと思ってる。

何も確定してないのに。

悟はあの子とは何も無いって言ってるからそれで納得するしかない....


「そうだ」


何か閃いたように、コンビニ袋に手を入れる。


「.....え?これ」


さっき買ったアイス。


「二つ買ってたんだ、一つやるよ」


だとしたら、この一つは悟が自分で食べるために....


「悟は?」


「俺はあんまり腹減ってないからいらない、それに」


でも...と言おうとしたが、悟は続ける


「好きなんだろ?そのアイス」


確かに私のお気に入りだけど....


「だからあげるよ」


さっきまで凹んでた気持ちが嘘かのように、気持ちが晴れていく。

さっきの感情を読み取られたのか....だとしたら悟は相当な策士だし、私は見事に術中にハマってる。

でも、それでもいい、今は君の優しさに溺れていたい....


「ありがとう」


もう好きって言ってしまおうか....

いや、まだダメだ。

まだ君には言いたいことも、聞きたいことも沢山ある。

そして、君としっかり向き合いたい。

だからまだ我慢する。

だけど、絶対に逃さない。

誰にも渡さない。


「じゃあまた、悟」


「あぁ、またな」


最後は名前で呼んでくれなかったのが少し残念だけど、今日のアイスはきっと格別に美味しい。

今日はきっと良い夢を見れる。

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