第7話

学校に着いて、教室に入る。

既に何人かは来ている。

やれ昨日の映画が面白かっただの、やれ今日の放課後どこかに遊びに行こうだの、会話に花を咲かせていた。

ちなみに俺は、当然一人で読書だ。

なぜなら、全く馴染めていないから!

ていうかこのクラス始動したの昨日じゃん、始業式昨日だったじゃん。

なんでそんなに仲良いんだよ。

見苦しいが、俺も知り合いが居ないこともないんだ。

去年同じクラスに居た人が2人。

同じ読書好きということで、話が合ったんだ。

まぁ今年はクラス別れてしまったし、今年どこのクラスなのかも分かってないけど....


「おはよう」


「あ!葵〜!」


「おはよ〜葵」


少しだけ教室の熱気が上がる。

朝練を終えて来たのだろう。

放課後も練習してるのに、朝早くから凄いもんだ。

それは葵だけじゃなく、他の部活で頑張ってる全員に言える。

俺にはちょっと無理だ。


ホームルームのチャイムが鳴り授業がそろそろ始まる。


「数学だったか」


数学は割と得意な教科。

だが二年にもなるとレベルもそれなりに上がるだろうし、ついて行けるかね。

ちょっと不安だが、まぁなんとかなるだろ。







なんとかなる気がしない。

マジか、結構難しいな。

ま、まぁテストはまだ先だし、復習を繰り返すしかないか。

だが、この調子だと他の教科も危ないかもしれない。

早速課題も出されたし、面倒臭いがちょっと助かる。

これは....


「放課後図書室に通うことになりそうだな....」


いや図書室に行くのは割といつも通りなんだけど...

違うのは読書の時間ではなく、勉強のために行くということだ。

読書の時間は削りたくないが、仕方ない。

赤点三昧になるよりよっぽどマシだ。



というわけで、放課後。

思った通り、どの教科も結構難しくなっていた。

予定通り、図書室に行こう。


荷物をまとめて足早に図書室に向かう。

本を読みたくなる気持ちを抑えて、俺は教科書を開き、課題に手をつける。

すると、図書室の入口が開く。


「あ!坂村くん!」


「萩原くん」


「もう〜呼び捨てで良いって言ってるのに。今日も図書室来てるんだね!」


「あぁすまん、慣れなくて」


「じゃあ今日から呼び捨て禁止!」


萩原夏樹(はぎわらなつき)

去年同じクラスだった、読書仲間。

目立たないが少し中性的な容姿をしており、性格は温厚な男。

ちなみにめっちゃ頭が良い。


「クラスが離れちゃって悲しくなってたところだったんだよね〜」


「ちなみに何してたの?」


「復習を少し」


「復習?あ、ほんとだ。珍しいね、読書してないなんて」


「ちょっと授業聞いてると、レベルが思った以上に上がってて」


「わかる〜、難しくなったよね」


「と言っても、萩原く....萩原は問題無さそうだけどな」


「余裕ではないけど、まぁなんとか....」


少し苦笑いを浮かべながら言う。

ほんと羨ましい。


「今日は1人か?」


「うん!田宮さんは友達と喋ってたよ!後で図書室に迎えに来るって」


「そうなのか、友達多いもんな」


「うん、田宮さんは凄くいい人だから」


ニコニコ笑いながら、誇らしげに言う。

田宮唯(たみやゆい)

去年同じクラスだった、萩原を通じて仲良くなった女子生徒。

友達も多く、よく遊びに行っている。

それの2倍くらいの頻度で萩原と遊んでる。

と聞いている。

読書も好きみたいだが、俺と萩原ほど読んではいないみたいだ。


「なんか嬉しそうだな」


「うん!田宮さんと付き合ってるなんて夢みたいだよ」


そう、田宮唯と萩原夏樹は付き合っている。

もうそれはそれはお互いにゾッコンのラブラブカップルだ。

ブラックコーヒーが甘く感じてしまうほどに。

まぁ付き合う前からもう既に付き合ってんじゃないかってくらいに仲良かったし、お互いに好きあってたが、本人達はお互いの気持ちに気づかず、両片思いの形になっていた。

それでも2人は不安だったようで、少し相談を受けていた。


「ほんと、坂村くんには感謝してもしきれないよ」


「....俺は何もしてないさ」


本当に何もしていない、ただ話しを聞いて答えていただけ。

というか、多分相談しなくても2人は付き合っていた。

それほど仲が良かったから。


「なんかお礼したい」


「いやいや、もう本貰ってるし」


「足りないくらいだよ、何か無い??」


「何かって言われても....」


本を貰えただけでも、かなり物欲は満たされてるんだよな。

でもこうなった萩原は引いてくれない。

少し悩んで、思いついた。


「じゃあ」


「うん!なになに?」


「テスト前の勉強、分からないところが出てきたら教えて欲しい」


「うん!テスト前と言わず、いつでも頼ってよ!」


この分け隔てなく優しくできるところに、田宮さんも惚れたんだろう。

2人が仲良くしているところを見ると、少しとはいえ相談を受けた身としてはやはり嬉しい。


「あぁ、助かる」


そんな会話を続けていると、再び図書室の入口が開いた。


「萩原さ〜ん」


「あ!田宮さん!こっちだよ!」


「すみません、遅くなってしまいました」


「ううん、気にしないで」


ホント仲睦まじいなこの2人。


「じゃあ、また今度ね!坂村くん!」


「あぁ、またな、萩原」


「....萩原?」


鋭く睨まれている、田宮さんに。

なぜ???


「いつの間に....呼び捨て....」


「え....だって、呼び捨て禁止って言われたから....」


「むむむむむ.....私より仲良くなってる!!」


「ムカつくので!私のことも呼び捨てしなさい!」


俺に指を差しながら言い放つ。

どういう嫉妬...???


「私より萩原くんと仲良くなってるのが気に入りません」


「えぇ.....」


ていうかこれ萩原にとっても嫉妬もんだろ...

俺変に嫌われたくないぞ....

あっめっちゃホッコリしてる〜


「いやでも、普通に萩原に呼び捨てしてもらった方が嬉しいだろ、なんでそんなに拘るんだ?」


「私は....あれです....祖母たちがお互いにさん付けで呼びあってたから....それに憧れて....さん付けで呼んでるんです」


.....何となく分かった、萩原との呼び方には憧れもあってさん付けで満足してるけど、俺と萩原の呼び方に関してはそうじゃないと。

嫉妬の仕方がちょっとズレてる気がするが....


「あぁ....まぁ分かったよ、田宮」


「ふふん、これで同列!いやむしろ!私は萩原さんとお付き合いしてるので、あなたより上!」


「なにと競ってんだよ....」


それなりに仲良くなってきたからか、なんかこの人の俺に対する扱いが雑になってきてる気がする。

いやまぁいいんだけどね?


「2人がまた仲良くなってくれて僕も嬉しいよ〜!」


うん、君は少し嫉妬というのを覚えなさい。


「じゃあ今度こそ、またね!」


「あぁ、またな」


萩原は笑顔で手を振り、田宮はちょっとドヤ顔しながら手を振っていた。

あれはあれで、お似合いなのかね。


「課題も終わってるし、俺も帰るか」


久しぶりの会話で柄にもなく心が浮ついている。

二人の仲睦まじい姿を、これからも見守っていければいいななんて思いながら、俺は二人の邪魔にならないタイミングで学校を出る。

今日の帰り道も、少し楽しいかもしれない。

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