第5話

「やぁ」


なんでいるんだ.....

てか挨拶されちまった、どうする、無視する訳にはいかないよな。


「あ、あぁ....」


返事を聞いた彼女は、少し笑みを浮かべてこちらに近づく。


「せっかくだし、一緒に帰らないか?」


まさかの提案だった。

いや、仲が悪いわけではないから別におかしくはないんだが....


「あ、あぁ....」


さっきからあぁしか言えてない俺はどうなんだ。

頭がショートしたまま、再び歩き出す。



無言の時間が続く。

なんだか気まずい。

気まずいが、なんだか心地いい。

変な気持ちだ。

思えば、こうやって一緒に歩くのは久しぶりだ。


「.....久しぶりだね、こうやって一緒に帰るの」


「そ、そうだな....」


どうやら彼女も同じ気持ちだったみたいだ。

なんか恥ずかしい。

歩くペースはいつもより遅い。

ちゃんと歩けてるか不安になる。

とりあえず、なんか話題を....


「今日は....」


「ん?」


「今日は....部活無かったのか? 」


「あぁいや、あったんだが、思ったより早く終わったんだ」


「そうなんだな.....えっと....おつかれ」


「ありがとう」


彼女の笑顔が眩しすぎる。

直視できねぇ。

絶対今俺の顔はりんご並に赤い。


「悟は、何をしていたんだい?」


「俺は....図書室で本を読んでたんだ」


「そっか.....本好きだったからね」


「まぁ....な」


ちゃんと話せてる....のか??

いくら好きな相手とはいえ、話していた時間は葵が1番長いはずなのに。

言葉が上手く出てこない。

周りには今は誰もいない。

同じクラスの人がいたら、間違いなく変な視線が集まってた。


お互い無言の時間続く。

ふと、彼女の顔を横目に見る。

やっぱ綺麗だよな....

背も高いし、姿勢もいい。

カッコイイし、誰よりも綺麗だ。

そして、いつの間にか家に着く。

体感では長いようで短い。

実際には10分も満たない時間。

それだけ隣で歩いただけなのに、心臓は全力で走ったあとよりも激しく動いている。


「またね、悟」


「あぁ、また....」


葵が視線を外してくれない。

まだ何かあるのか....

もしかして、なんか失礼なこと言っちまったか?


「名前」


「え?」


「名前....また呼んでくれないか?」


名前.....あ、そういえば一回も呼んでない。

確かに、ちょっと失礼だったかもしれない。


「すまん」


「いやいいんだ、またね、悟」


「あぁ、またな....葵」


葵は嬉しそうに笑った。

やめろ、そんな顔するな好きになっちゃうだろ。

いやもう好きなんだけど。


「悟.....」


今度は何だ、めっちゃドキドキしてるんだ、早く家に入りたい。


「.....どうした?」


「また....たまにでいいんだ....時間が合ったら、一緒に帰ろう」


それは学校からってことか?

好きな相手からのお誘いだから、こちらとしてら踊りたいほど嬉しい。

だが.....本当にいいのだろうか....

心無い言葉が彼女に向けられるんじゃないか....

自意識過剰だと思われるかもしれないが、どうしても不安が拭えない。

こんな綺麗事をペラペラと並べたが、本当は自分でも分かっていた。

ただ自分が傷つくのが怖くて逃げたんだ。

そんな俺に、なんでそこまで優しくしてくれるんだ....葵。


「時間が合えば....な」


曖昧な返事でも彼女はまた嬉しそうに笑った。

そしてお互いに背を向けて、互いの家に帰っていった。



止まっていた時間が再び動き出した。





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