第4話
高校一年、11月。
私は話しかけるきっかけが掴めずに居た。
クラスの教室が近いから、大丈夫だと思っていたけど、彼の姿が見当たらない。
何回か彼の教室の前を通る時に、それとなく姿を確認することはできたのだが、なんの用事で話しかければいいのか分からなかった。
とある休日。
今日の部活は昼までだった。
「またね〜葵」
「はい、お疲れ様です」
手をヒラヒラと振りながら先輩と挨拶を交わし、私もそろそろ顔を洗って帰ろうとしたとき。
「葵〜!」
「ん、恵か、どうかしたのかい?」
「ねね、今日もう終わりでしょ?この前言った服見に行かない?」
「あぁ、そうだな、行こうか」
「やったぁ!私らも終わりだから後で合流しよ!」
色々と悩みすぎてる。
気分転換に友達と遊びに行くことにした。
「恵、行こうか」
「お〜!」
ショッピングモールに服を見に行く。
私はオシャレ自体は好きなのだが、そこまで詳しくない。
だから恵とここに来るときはいつも服選びを手伝ってもらっている。
たまに暴走して着せ替え人形にさせられる時があるのだが....それはまた別のお話。
「あ、これ葵に似合うんじゃない?ほら!」
白を基調とした、可愛らしいワンピースだった。
「こ、これはさすがにハードルが....」
「そうかなぁ、葵は背が高くてスタイル良いから似合うと思ったんだけど」
「私らしくない....と思うよ」
背が高いのはそうだと思うが、私は可愛くないと思っている。
よくいえばクール系、悪くいえば女の子っぽくない。
こういう服装に憧れはあるが、自分に似合うとは思えなかった。
「えぇ?らしくないかぁ、葵は可愛いと思うけど」
「....そうかな、憧れはあるんだが....そういう服を着てる自分があまり想像できないんだ」
「うーーん、まぁ確かに葵いつもカッコイイ感じだもんねぇ、でもさ」
続けて、飛びっきりの笑顔で私に言う。
「憧れてるだけじゃなくて、実際にその姿になってみようよ!きっと似合うよ!」
この裏表が無い笑顔を見ると、着てみようという気持ちになれる。
私は案外チョロいのかもしれない。
「じゃ、じゃあ....着てみよう....かな」
「うんうん!着てみて!」
そんな感じで一通り服を着てみては、また選びを繰り返していき、最終的にいつものカッコいい服と、最初のワンピースも買ってみた。
恵も似合っていると言ってくれたから、きっと大丈夫。
悟に見せてみようかな....
ってなんでここで悟が出てくるんだ!
「いやぁ、楽しかった〜」
「私も楽しかったよ」
「それにしても葵のスタイルの良さにはいつも驚かされるなぁ、そのワンピースだってきっと男の子がみたらメロメロだよ〜」
「そ、そんなことはないよ...」
メロメロ.....
悟も....こういうの好きかな
って!違う違う!
と心の中で首を振ると、彼女がそれにと言葉を続ける。
「なんか最近悩んでるっぽかったから、良い気分転換になったかな?」
心配してくれたんだ。
ほんとに敵わないな。
「すまない、心配してくれてたんだな....ありがとう恵、凄く楽しかったよ」
「も、もう!照れ臭いなぁ!友達なんだから当たり前じゃん!」
「でもさ、無理に話せとは言わないけど....いつか話せる時が来たら、いつでも相談に乗るからね」
「あぁ、頼りにしてるよ」
「あ、私トイレ行ってくる!葵は待ってて!」
顔を赤くしながら、たったとトイレに走っていく。
私は本当に良い友達を持った。
いつか恵に相談出来たらいいな。
すると近くの本屋に、懐かしい顔があった。
.....悟だ....
なぜここに....
そういえば本が好きだったのか。
近くには誰もいない。
今なら話しかけられるか?
でも、彼も買い物に来てるのなら邪魔する訳にはいかないか。
そんな葛藤をしてると、彼の近くに男女が近づいた。
何やら楽しげに話してる。
友達....だろうか。
男の方はともかく、あの女の人は....
もしかして....彼女....??
ズキリと心が痛くなるのを感じた。
まだそうと決まった訳ではないのに、気持ちが沈んでいったのが分かった。
なぜ、こんなに胸が痛いんだろう。
そんなこと考えてると、ふと悟の顔がこちらに向く。
私は咄嗟に隠れてしまった。
再び顔を出すと、もう3人は居なくなっていた。
友達が出来てるのは良いことのはずなのに。
でも、話しかける勇気が少し減ってしまった....
だめだ、恵もそろそろ帰ってくる、気持ちを元に戻さないと。
「おまたせ〜!葵!」
「あぁ、行こうか」
それから恵と少し買い物をして、帰路に着いた。
━━━━━「あ!坂村くん!」
「ん?あ、萩原くんと田宮さん」
「こんにちは!」
「どうも、相変わらず仲良いな2人とも」
「そ、そんな!」
「お似合い夫婦だなんて!」
「いやそこまで言ってねぇよ」
「何読んでるんですか?」
「あぁ、小説だよ、この前のは読んでしまったから新しいのを買いに来たんだ、2人も同じか?」
「うん!2人で見に来たんだ!ねね、なにかオススメない?」
「そうだな、ちょっと探してみるか....ん??」
「どうしたんですか?」
「....いや、なんでもない」
(今....葵が見えたような....いや、気のせいだな) ━━━━━
家に帰り自分の部屋に戻って、私はベッドの上で顔を埋めていた。
「はぁぁ」
大きな溜め息をこぼす。
友達が出来たのはいい、それはいいんだ....だが.....
「あの女の子.....可愛かったな.....」
もう悟の優しさは....私だけが知るものじゃなくなったんだな....
「いやいや、もとから悟はみんなに優しいだろ....確かにちょっと友達少ないなとは思ってたけど....」
ふと、部屋の窓から外を見る。
目線の先にあるのは、悟の部屋。
カーテンは常に閉まっているから、部屋の様子が覗けたことはない。
気付いたら、私の近くから居なくなっていた。
部屋はこんなに近くにあるのに....
この際あの二人との関係がどうなのかはなんでもいい、なんでもよくないけど。
「.....悟....」
誰に届くはずもない、小さな声で彼の名前を呼ぶ。
私はただ、なにかしてしまったのなら謝りたい....
それだけなんだ....
そんなことを悩みながら、高校一年の生活は終わりを迎えた。
終わってしまった.....
けど!まだ高校生活は残ってる。
次こそは、次こそは!
新たな決意を胸に、クラス表を見る。
2年3組....
すぐ近くには、彼の名前を見つけた....
同じクラスだ.....
やったぁぁぁぁぁぁ!!!!!
これはまたとないチャンス!
必ずものにしてみせる!!!
今日は始業式だけだから、もしかすると!もしかすると!!
「あ、葵〜」
「ん?どうしたんだい?」
「今日の部活なんだけど、新入生勧誘について話し合いたいことがあるから、そのつもりでいてね〜」
話し合い.....
はっ!!!てことは少し帰るのが遅くなる!!!
「う、うん、分かった」
「じゃあ確かに伝えたよ〜、また後でね〜」
始業式が終わり、重い足取りで部活に向かう。
だが仕方ない、部活には集中しなくては。
練習とミーティングが終わり、想像以上に早く予定が終了した。
たまには、私から恵を帰りに誘おうとしたが、バレー部はまだ終わっていない。
なので、一人で帰ることにした。
今日こそはチャンスだと思ったんだけどな....
もう悟も帰ってしまってるだろうし....
悲観的になりながら帰っていると、思わぬ幸運が舞い降りた。
家の近くの帰り道で、彼の姿を見つけた。
今度こそ周りには誰にもいない。
鼓動が早くなる、今までにないくらい緊張しているのを自覚する。
鼓動が彼に聞こえないように必死に抑えて、彼の名を呼ぶ。
「......悟....」
ゆっくりと彼が顔をこちらに向ける。
太陽の光と重なって、彼の顔がよく見えない。
僅かに見えるその表情は少し驚いているようだった。
もうこの声は君に届いている。
久しぶりのように感じる、近くで彼の顔を見るのは。
胸の高鳴りは収まらない。
太陽の光が雲に隠れ、君の顔がはっきりと目に映る。
その時、自分の気持ちに気が付いた。
いや、もう既に分かっていたんだ。
この気持ち。
私は.....
「やぁ」
君のことが好きだ
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