第2話
高校二年、4月。
新しく始まるクラス。
それぞれが緊張と興奮の気持ちを持って、友、あるいは想い人と同じクラスになれるか楽しみにしながら、クラス表を見る。
ちなみに俺は特に友達がいないので、誰が同じクラスでも変化は無い。
「やったぁ!私たち同じクラスだって!」
「今年もよろしくね!! 」
そんな声がどこからともなく聞こえてくる。
あぁ、青春してるなぁ。
俺もそういう友達が居れば少しはマシな性格になったのかね。
なんて思いながら、自分の名前が書かれてるクラス表を探す。
2年3組。
今年の新しいクラス。
俺の名前のすぐ近くに、彼女の名前もあった。
━━━━━ 佐倉葵
どうやら、今年は同じクラスのようだ。
去年はクラスが別れていたからあんまり高校での様子はその目で見れなかったが、それでもたまに目にする時は必ずと言っていいほど周りに人が集まっていた。
あの集団を教室で毎日見ることになるのか....
ちょっと顔色悪くなりそうだが、彼女と同じクラスなのは素直に嬉しい。
自分から離れていったのに、我ながらめんどくさい性格だと思う。
だが仕方ない、好きなもんは好きなんだから。
うんうん。
とりあえず教室に向かった。
「おはよ〜」
「おはよ〜!同じクラスでよかった!」
元気な挨拶が教室のあちこちから聞こえてくる。
無論、俺に対する挨拶では無い。
というか急に挨拶されても困る、絶対キョドる。
そして引かれるまでがセット。
自分の席を探して、とりあえず席に着く。
始業式までまだ時間があるから、本を読もうとバッグから本を取り出す。
すると、教室が少し沸き立つ。
「おはよ」
「あ!葵!おはよー!」
「おはよう!佐倉〜!一緒のクラスなのまじ嬉しい!」
「私も嬉しいよ」
佐倉さんが教室に入ってきた。
やっぱり人気者だ。
次第にクラスの男女が周りに集まりだした。
一年の時はクラスが違ったから、高校の教室内での感じは見たことが無かったが、よくよく思い返してみたら中学の時も似たような感じだったな。
「佐倉さんと同じクラスなんてまじラッキーだよなぁ」
「これから毎日あの人拝めるなんて、本当今年の運全部使った気がする」
周りにいない男子生徒が羨望の眼差しを彼女に向けながらそう言っていた。
すごいアイドルファンみたいなこと言ってんな。
大丈夫、まだ君の運は残っているよ。
口数自体は少ない、だが表情は穏やかで、どこまでも優しい性格を表している。
だからこそ、人を惹きつける。
そんな立場にあるから大変なこともあるだろうが、それを顔には出さない。
俺は好意とは関係なく、素直に凄いと思うし、尊敬している。
本を読みながら、そんなことを考えていると、始業式の始まりを知らせる放送が流れ、生徒たちが体育館に向けて歩き出す。
俺も本をバッグにしまい、体育館へ歩いていく。
校長先生の挨拶が終わり、始業式は無事に終了した。
それにしても校長先生の話ってなんで聞いてると眠くなるんだろう。
本当に不思議。
眠過ぎてあんまり話入って来てないんだよな。
ともかく、今日の予定は始業式のみ。
これから帰るもよし、部活があるものは部活に行く。
「葵〜今日部活?」
「あぁ、今日は部活だよ、新入生の勧誘についても色々話し合いたいって言ってたし」
「そっかぁ、一緒に遊びに行こうと思ってたんだけどなぁ」
「ごめんね、また機会があったら一緒に行こうか」
一年の頃から活躍は耳に入っていた。
一年生ながら大会ではチームで最多得点、まさにエース級の活躍。
バスケの才能はまさに天才の域だ。
そんなエースともなると、部活でも色々任されてることがあるんだろうなと、心の中で彼女を労う。
とりあえず俺はどうしようか、帰宅部だからこのまま帰っても問題はないんだが....
さっき読んでた本が中途半端なところで閉じちゃったし、図書室にでも行って少し読み進めるか。
そうと決まれば支度を済ませて図書室に行こう。
どうせ帰っても今日はやることは無いのだから。
学校での俺のベストプレイス。
図書室。
棚に使われている木の匂いと、並べられている本の匂いが混ざりあい、めぐられるページの音が静かに響くこの空間が俺はたまらなく好きだ。
そんなことを考えながら、ただ黙々と俺は本をを読み進めた。
読んで一枚めくり、また一枚。
..........
夢中になって読み進めてしまった。
てかもう読み終えた。
中々に面白い小説だった、どうやら俺は小説選びの才能があるみたいだ。
それでも読み終えてしまったら、少し喪失感がある。
「.....新しい本....買いに行かないとな....」
誰もいないこの空間で、そう呟く。
時間は午後2時。
そろそろ帰ろう。
本屋は今日は良いや、また休みの日にでも買いに行こう。
帰る途中、部活の音が聞こえた。
選手の掛け声、走る音。
きっと彼女の音もこの中に含まれているのだろう。
おっと、これはちょっと気持ち悪いかな。
引かれないうちにとっとと帰ろう。
冬は越えても、まだ少し肌寒い。
それでも夏は近づいてるから、少し暖かい風も吹いていた。
寒いのか暖かいのかよく分からない気温を肌で感じながら、俺は歩いていた。
家の近くの帰り道で近くなる足音が聞こえた。
「悟....」
胸が高鳴った....
ずっと長い時間近くで聞いていた声。
そんな声で名前を呼ばれ、振り向き、そこに立っていたのは
「やぁ」
佐倉葵だった。
なぜ声を掛けてくれたのか、いやそもそも部活じゃなかったのか、なんでここに居るのか。
色々な疑問が頭を駆け巡る。
彼女の顔はいつも通り、穏やかで優しさに溢れていた。
あぁ.....ダメだ.....
やっぱ好きだわ....
気持ちの再確認、俺の周りの時間はまだ止まったままだった
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