それでも君の隣がいい

くらげ

第1話

小さい頃はそれなりに元気だったと思う、けど学年を上がるにつれて少しづつ自分を理解してきた。

自分は....坂村悟(さかむらさとる)はどこまでも平凡な人間だ。

友達は決して多くはなく、外で遊ぶことは減り、本を読むことが増えた。

次第に、一人の時間が増えた。

別に一人だからといって必ずしも平凡になる訳では無い。

1人でも非凡だと言われる人間は結構居ると思う。

じゃあ何をもって平凡なんだと思ったのか。

それには理由がある。


俺の幼馴染 佐倉葵(さくらあおい)

背が高く、昔から運動が得意で、今はバスケチームのエースを担っている。

誰にでも優しく接して、口数は少なくとも、彼女の周りには人が集まる。

要は人気者なのだ。

男子にも女子にもモテる。

俺が彼女に惚れるのも必然の事だったのかもしれない。

小さい頃は家が近いこともあってか、2人でよく遊んで回っていた。

けど、今は違う。


決して喧嘩をしたわけではない、仲が悪くなったわけでもない。

スポーツでも勉学でも力を発揮し、俺の隣に居た彼女は、俺よりもうずっと先に進んでいた。

そんな姿を見て、彼女に惚れて、幼馴染として鼻が高い気持ちだった。

その時に、いやでも自覚した。

俺とは別次元に居るんだと。


「なぁ悟、お前佐倉さんと幼馴染なんだよな?」


「いいよなぁ、佐倉さんと家も近いし、羨ましいよ」


決して悪気があった言葉ではなかったと思う。

けど、俺の心に深く刺さった。

お前は相応しくない。

そう言われているように聞こえた。

いつしか彼女の周りにいる人間の一人となり、いつしかその一人でも居られなくなった。


彼女は変わらず友人達と楽しそうに過ごしている。

むしろ周りは俺が居なくなってからより活気づいたような気がする。

俺が居なくても変わらない彼女の日常がそこにはあった。


これからも彼女を見る度に鼓動は早くなるし、好きな気持ちは大きくなるかもしれない。

恐らく俺はあの周りにいる人間の誰よりも彼女のことが好きだ。

だからこそ思うのだ。

彼女の隣には居られない。

それでも急に離れれば、彼女は間違いなく声をかける。

どう足掻いても俺と彼女は長い時間を共に過した幼馴染。

加えて、彼女は誰よりも優しい。

じゃなきゃ好きになっていない。

でも、周りにいる人間の中には、こんな俺よりも性格が良くて、かっこいいやつが何人も居る。

その人たちの方が彼女を幸せにできる。

彼女の幸せ以外、俺は望まない。

だから、俺の恋は諦めよう。


これが、俺の心の底からの言い訳だ。

そんな言い訳をしながら、少しづつ、誰にも悟らせないように彼女から距離を置いた。


そんな俺は高校で一年を過し、高校二年生に進級する。


俺が無理やり止めていた気持ちの歯車は、また動き出そうとしていた。


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