第25話 家族以外の名前

「そ、粗茶だけど……」

「あ、うん……ありがとう」


 さて……僕は現在富樫さんちの中に居る。


 富樫家の愛猫ジャガーノートを助けたことで、富樫さんの信頼を得られたがゆえに。


 リビングに通されて、麦茶を出された。


 出してくれたのはもちろん富樫さん。


 リッカという名前がカナ表記で引っかかっていたけど、曽我部さんと同じで純日本人じゃないらしい。


 どっかとのハーフであるようで、長い銀髪に碧眼。


 それだけでも充分目立つ容姿なんだけど、右目に眼帯、左腕に包帯。


 そういう負傷をしているわけじゃなく……いわゆる厨二でいいんだろうか……?


「じゃ、ジャガーノートのこと……助けてくれてありがとう」


 食卓で向かい合って腰を下ろしている中、富樫さんがふとそう言ってきた。


「あ、うん、別に気にしなくて大丈夫。元気に飼い主のもとに戻ってて安心したよ」


 ジャガーノートは現状窓辺の日向でへそ天中。

 平和すぎる絵面だ。


「それはそうと、こちらこそありがとう。顔を合わせてくれて」

「あ、うん……ど、どういたしまして」


 僕がお礼を言うと、オドオドしながらではあるけど応じてくれた。


 コミュ力はまあギリギリなくはない感じだろうか。


「にしても……なんで眼帯と包帯してるの?」


 そこに切り込んでいいものか迷いつつ、しかし触れずにはいられない。


「そ、それは……か、身体の一部が隠れてると落ち着くから……」


 割と合理的。


「あとは単純にカッコいいから……」


 やっぱり厨二好きでもあるらしい。


「ところで富樫さん、いきなりだけど学校来られる?」

「む、無理……」

「だよな」


 そこはやはり時間を掛けて、になるのかもしれない。


「わ、笑わないの……?」


 不意にそう問われる。


「笑わないの、って何が?」

「わ、私のこと……こんなイタい格好してるのに……」


 ……自覚はあるのか。


「中3のとき……休日に外でゴスロリ眼帯で歩いてたら鉢合わせたクラスメイトに笑われて、そこから不登校……」

「あぁ……そうなんだ」

「私みたいな不細工が出過ぎた真似したらダメなんだって思い知って、もう二度と日の目を浴びない生活をするって心に決めたから、引きこもってる……」


 ……富樫さんが不細工なら世界には不細工しか居ないことになってしまう。


 色々と自分に自信がない人なんだな。


 褒めそやせば自信を漲らせることが出来るだろうか。


「あのさ富樫さん」

「……な、なに?」

「富樫さんは可愛いよ」

「!? ななななに言ってるの……っ。わわわわわ私のことが好きなの……っ?」


 うわ……褒めただけで好意を持たれていると勘違いされた。


 陰キャDT男子の反転バージョンだなこりゃ……。


「えっと……好きとか嫌いとかじゃなくて、可愛いから自信持って欲しい、ってことだよ」

「わ、私が可愛いなんてウソ……」

「ウソじゃないさ。ホントに可愛いから、いきなり学校来ても大丈夫だと思うけど」

「だ、だとしても、いきなりは無理……」

「なら、僕含めて知人を増やしてからなら来られるか?」


 ひとつのプランを思い浮かべながら訊ねる。

 すると富樫さんは、


「……な、なんでそんな必死に私を学校に連れて行こうとするの?」

 

 と疑問をぶつけてきた。


「しょ、東海林くんだっけ……あなたに何か得があるの?」

「あるよ。先生からのお願いだからコレは内申点を得るチャンスなんだ。特待生で大学に進みたい僕としては逃せない」


 包み隠さず伝える。

 その方が富樫さんみたいな警戒心の強い人間には好感を持たれる気がする。


「しょ、正直だね……」

「でも富樫さんと実際に会ってみて、引きこもってるのは勿体ない人材だって思い始めてる部分もあるよ」


 ビジュアルだけで言えば日和や曽我部さんに匹敵するのは間違いない。


 表に出さえすれば、何かしら輝けるところがあるはずなんだ。


「そ、そう言われても……外、怖いから……」

「仲間を増やせば大丈夫。僕が第一号になるよ」


 僕が考えているプランはそれだ。

 富樫さんの仲間を増やす。

 僕だけじゃなく、日和や曽我部さんも味方に引き込んで、だ。


 今週末に予定している曽我部さんちでのお泊まり勉強会に僕だけじゃなくて日和と富樫さんも呼べば、4人で親睦を深めることが出来る。

 そうすればきっと、富樫さんを学校に連れて行く土台を作れるはずだ。

 

 でも富樫さんからすれば、日和と曽我部さんに会うのもハードルが高いと思う。

 だから週末までにまずは僕と親睦を深めてもらう。

 そして僕という味方と一緒に日和&曽我部さんと会ってもらう。

 そういうプランで行こう。

 

 だからまずはとにもかくにも、僕自身が富樫さんと仲良くならないといけない。


「富樫さん、趣味はなに?」

「……え」

「仲間第一号として仲良くやりたいんだよ。よければ趣味、教えて欲しい」

「しゅ、趣味は……FPS」

「どういう系のヤツ?」

「ば、バトロワ……」

「じゃあ今夜一緒にやろうよ」

「い、一緒に……?」

「ああ。パーティー組んで、ボイチャ繋いでさ」

「……い、いいの? 私そんなに上手くないし、足引っ張るかも……」

「いいんだよ引っ張って」

「じゃ、じゃあ……やる……」

「OK。なら今はひとまずおいとまするから、夜に連絡取ろう。LINE交換しようか」


 そんなこんなで、LINEを交換した。


「か、家族以外の名前……リストに初めて増えた……」


 ……なんだか凄く悲しい言葉が聞こえてきた。


 くぅ……僕はなんだか全力でこの子の味方で居てあげたくなってきたぞ。


「じゃあ富樫さん、また夜に」

「う、うん……夜に」


 こうして、富樫さんとのファーストコンタクトは一応成功の部類で終わったのである。


 ……成功でいいよね?

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僕にカノジョが出来たその日から、僕の非モテを煽り散らかしてくる幼なじみの様子がおかしい 新原(あらばら) @siratakioisii

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