第24話 これが引きこもり……?

「……ここかな」


 さて。

 尾張先生から託された『不登校クラスメイト・富樫リッカさんをどうにか説得して学校に来られるようにして欲しい』というミッション。

 それを実行に移すべく、この放課後富樫さんの家までやってきた。


 学区は僕んちと全然別。

 なので一旦家に帰ってからチャリで10分くらいの移動を挟んでいる。


 普通の一軒家。

 その軒先に進んで、


「よし……」


 意を決してインターホンを鳴らした。

 すると、


「…………」


 ……反応なし。


 ガレージに車が1台もないので、親は共働きで居なさそう。


 となると、家の中は富樫さんだけってことになる。


 つまり富樫さんが応じてくれないとどうしようもない。


 そして引きこもっている富樫さんが応じてくれる可能性なんてゼロに近いだろう。


 ううむ……尾張先生が為す術なく退散したのも頷ける。


 さて、どうするべきか……。


「……富樫さーん、同じクラスの東海林圭太って者なんだけど、学級委員長としてちょっと顔を見せに来たんだ。軽く話せないかな?」


 そんな風に呼びかけてみる。


 呼びかけつつ、2階の窓を眺める。


 どこが富樫さんの部屋か分からないけど、自室からこっそり僕を見ている可能性を考慮している。


 そこから取っかかりを得られるかもしれない。


「あ」


 そのときだった。


 今、右側の部屋のカーテンがほんの少しだけ揺れた。


 窓が閉じているから風じゃない。


 多分富樫さんだ。


「おーい富樫さん、少し話せないか? 僕は敵じゃないから安心して欲しい」


 中学時代のいじめが原因で引きこもりとのこと。


 なるべく穏やかに言葉を伝える。


「先生から学校来るように説得してくれって頼まれたんだけど、いきなり来たくないと思うし、まずは僕と話して欲しいんだ。僕っていう知人を作ってからなら、学校に多少なりとも来やすいと思うし」


 そんな風に呼びかけてみると、窓越しにノートがカンペみたいに出現した。


『帰って』


 そんなひと言だけが書かれている。


 ううむ……まぁそういう反応になっちゃうよな。


「そう言わずに、なんとか話してもらえない?」


『人が信用出来ない。同世代のヤツら嫌い』

 

 新たなカンペが出現。


 やっぱりそういう感じなんだな。


「富樫さんがそうなった理由は聞いてるよ。言っておくけど、僕はそういう連中とは違う。自分で言うのもなんだけど人畜無害だ」


『証拠は?』


「証拠は……どう示せばいいのか分からない」


『じゃあ会わない』


 くぅ……攻略するのは一筋縄じゃいかなそうだ。


 どうする……どうすれば……。


「――にゃーん」


 思い悩んでいたそのときだった。


 富樫さんちの玄関にはペット用の入り口があって、そこから1匹のキジトラが顔を出してきたことに気付く。


「……あれ?」


 そのキジトラを見て僕はハッとした。


 この子……尻尾にリボンを巻いてる……。


 見覚えがあるぞ……。


「お前……この前の土砂降りのときに川の中州で助けた子じゃないか?」

「にゃーん」


 僕の言葉なんて分かっているはずもないんだけど、キジトラは僕の言葉に呼応するように鳴きながら、僕のくるぶしあたりに身体をスリスリとこすりつけてきた。

 まるで助けてくれた人だと覚えているかのように。


 すると――


『人見知りのジャガーノートが懐いてるなんて、あなたジャガーノートに何したの……?』


 そんなカンペが窓に出現していた。


 ……ジャガーノートってひょっとしてこの子の名前?


 ネーミングセンスヤバい。


 ともあれ……取っかかりを得られたかもしれない。


「あのさ、この子、先日の大雨のときに川の中州に取り残されていたから僕が助けたんだよ。信じてもらえるか分からないけど、それを人畜無害の証拠にしてもらえないか?」


 チャンスがあるとすればここしかない。


 そんな思いで訊ねてみると――、


 ……。

 …………。

 ………………。


 ……カンペが出て来なくなった。


 くそ……相手にすることをやめられてしまったんだろうか。


 んー、まぁでも……しょうがないよな……。


 いきなり男子が会いに来て、そいつと会うのってハードル高いだろうし……。


 ま……日を改めて出直すしかないか。


「じゃあ富樫さん……今日は帰る。また来るよ」


 ――がちゃ。


 玄関の鍵が開けられる音がしたのは、僕が軒先から離れ始めた直後のことだった。


 え……? と思いながら僕は足を止めて振り返る。


 すると――


「――ま、待って……人見知りのジャガーノートが懐いてるなら、信じる……あなた、多分良い人……」


 そんな途切れ途切れの言葉と共に顔を出してきたのは――


「うお……」


 長い銀髪に碧眼、右目に眼帯、左腕に包帯をグルグル巻きにした、そこはかとなく厨二な雰囲気にあふれたスウェット姿の美少女であった。

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