第22話 日和は不安よな。圭太、動きます 2

 翌日の放課後。

 僕は近隣にある通称「西高」の校門前を訪れている。


 日和のストーカーを特定するためだ。


 事情を知った曽我部さんが「手伝いましょうか?」と言ってくれたけど、何か危ないことがあっても大変だからひとまず関わらないでもらった。


 なので予定通りに僕1人だ。

 

 早速聞き込みを始めている。


 日和から貰ったストーカーの画像を見せながら。


「あ――これ宇田川うだがわじゃん」


 すると最初に話しかけた男子グループがすぐに正体を教えてくれた。


「宇田川?」

「2年の宇田川光政みつまさってヤツ。なんでこいつ探してんの?」

「あ、えっと……」


 ストーカーではあれど、追い詰めすぎるつもりはない。

 逆上されても困るし、学校での評判はひとまず傷付けないでおきたい。

 評判下げるぞ? っていうのを脅す手札にしたいのもあるし。


「ちょっと色々あって」


 だからそんな風に誤魔化す。


「ふーん、まぁなんでもいいけど、会いに来たのか?」

「話せるなら話したいけど、居る?」


 さっさと脅してストーカーを終わらせたいのでそう訊ねる。

 すると彼らは顔を見合わせ、


「宇田川って帰宅部だよな?」

「もう居ねーかも」

「だろうな」


 とのことで、すでに下校済みのようだ。


 というか……もしかしたら今日も日和の畑仕事を監視している可能性があるのか……。


「分かった。ありがとう。恩に着るよ」


 名前を知れたのは大きな収穫なので、ひとまず僕は西高を離れた。


 自宅の方向に早足で歩きながら、スマホをイジって日和に通話をかける。


「もしもし、日和?」

『何よ圭太?』

「お前いま畑か?」

『ええ、そうだけど』

「そっちに例のストーカー居ないか?」

『……実は居るわ』

「やっぱりか……接触されてはいないんだよな?」

『ええ、周囲に父さんや母さんも居るから』

「向こうはお前が気付いてることに気付いてない感じか?」

『そうみたい』

「ならそのまま気付いてないフリしとけ。僕が問い詰めに行く」

『西高での聞き込みはどうなったの?』

「名前を知れた。だからそれも利用して脅す」

『分かったわ……じゃあ近くに来たら教えて。ストーカーの場所を伝えるから』

「頼んだ」


 そんなこんなで通話を終えたあとは、一旦自宅に立ち寄ってチャリで日和んちの畑周辺に移動した。


 それから日和ともう一度通話し、その手引きで――


「――宇田川だな?」


 近くの雑木林に潜んでいたそいつの背後を陣取った。


「……っ、な、なんだお前……!」


 宇田川はビクッと震え上がりながら僕を振り返ってくる。


 背丈は僕よりやや低めの、人類を陽キャと陰キャに区分しなきゃいけないなら間違いなく陰キャに区分される雰囲気の男子だ。……まあ僕が言えた義理じゃないけど。


「僕はお前が釘付けになってるあの女子の……彼氏だ」


 どの立場で釘を刺せばコイツにダメージが行くのか考えた結果、僕はそう言った。


「か、彼氏……っ?」

「そうだ。悪いことは言わないから手を引いてくれ。今ならまだお前の名誉を落とさないまま済ませてやれる」


 色々な意味を含んだ言葉を伝えてみる。


 すると宇田川は、


「か、彼氏ってホントかよ! お前みたいな陰キャくせえヤツ、畑の姫と釣り合ってねえだろ!」


 逆ギレしやがった……。


 しかも日和のことを畑の姫とか呼んでやがるし。

 名前を知らないからあだ名を付けた、ってことか。

 センスねえな。


 ともあれ……、


「ホントに彼氏さ」


 そう言い返す。


「だったら証拠を見せてみろよ! そしたら大人しく引いてやってもいい!」


 ちっ……めんどくせーこと抜かしやがって。


 ……でもいいだろう。


「分かった……じゃあここで待ってろ」


 宇田川に待機を命じてから、僕は作業中の日和のもとへ。


「なあ日和、ちょっと一緒にストーカーのもとに来てくれないか?」

「……どうして?」

「実はあいつにお前の彼氏を偽って接触したら証拠を見せろって言われてさ」

「え」

「とりあえずカノジョのフリをして欲しいんだ」

「か、カノジョのフリ……」

「一旦手を繋いであいつのもとに行くぞ」

「わ、分かったわ……それで撃退出来るなら安いものね」


 そんなわけで日和と手を繋いだ。

 いつ以来だろうこんなことをするのは。

 ガチで小学生のとき以来かもしれない。

 ちょっと気恥ずかしい。


「……手、土まみれでごめんなさい」


 宇田川のもとに移動する中、農作業中だったがゆえの汚れを日和が謝ってきた。

 もちろん僕は気にしなかった。


「くそっ……」


 そしてやがて、手を繋ぐ僕らと対峙した瞬間、宇田川が唇を噛み締め始めていた。


「ど、どうせそういう演技なんだろ……! それ以上のことは出来ないまがい物なんじゃないか……!?」


 鋭い意見だ。

 どう対応すべきか……そう考えていた矢先、


「ふん……うるさいのよストーカー野郎。あなたがそう言うならコレでどうかしら」


 そんな言葉と共に日和が――ちゅ、と僕の唇に唇を重ね合わせてきた。


 ――え。


「ウソだあぁぁぁぁぁぁあああああああああ……!!!!」


 悲痛な雄叫びを上げて、宇田川が涙目敗走し始めた一方で……、


「ふん……おととい来やがれ、って感じよね」


 僕から顔を離した日和が、そんな風に息巻いているのはいいとして……、


「お、お前……今……」


 僕は動揺している。

 しない方が難しい。


「ふ、ふん……カノジョの演技だもの……しょうがないじゃない……」


 僕には決して表情を見せないように顔を背けながら、日和はそそくさと立ち去り始めていく。


「じゃあ……私は作業に戻るわ。撃退、手伝ってくれてありがとう……」


 そんな言葉を言い残して。


 そして僕は、暫時この場を動くことが出来なかった。


 だってそれくらい、日和からのキスは衝撃的すぎた……。

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