第21話 日和は不安よな。圭太、動きます

「で、話ってなんだよ?」


 夜。

 曽我部さんが帰宅したあと、僕の部屋に日和が訪れている。


 何かお願いがあるって話だったけど、さて、それは一体なんだろうか。


「実は……他校の男子に纏わり付かれているから、どうにかするのを手伝ってもらいたくて……」

「……纏わり付かれって……ストーカー? マジで?」

「マジよ」


 日和はやれやれと言いたげにため息ひとつ。


「いつから見られていたのか分からないけど、それに気付いたのは今日の畑仕事を手伝っていたときよ……ふと視線を感じてその方向に目を向けたら、西高の生徒っぽい男子が私をジッと見ていたの……」


 ……まぁ、日和は黙っていれば文句なしの美少女だ。

 それを分かっていないヤツが見てくれだけで判断して付きまとうこともあるんだろうな。


「今日初めてそいつに気付いたのか?」

「ええ……でも多分昨日今日やられ始めたんだとは思うの。ずっと気付かなかったとは思えなくて」

「今はどうだ? 家の周りに居たりとか」

「注意深く帰ってきたから、家の場所がバレてるとかはないと思う」

「まぁ、畑と家は離れてるしな」


 日和の家と畑はチャリで数分の距離で、日和はチャリ移動。

 ストーカーが徒歩移動なら尾行は無理だったろうし、そいつもチャリ移動だったとしても、注意深く帰ってきた日和にバレずに追跡するのは多分難しいだろう。

 だから家の場所はバレていないと考えてよさそうだ。

 今窓の外を見ても、実際不審な奴はいない。


「気持ちが悪いわ……」


 日和は多少か細い声で言った。


「……どうすればいいのかしら」

「ちなみにどういうヤツだったんだ? 容姿とかそういうのは」

「そいつをどうにか撮れた画像があるわ……」


 日和はスマホをイジってギャラリー内の1枚を見せてきた。


「結構がっつり写ってるな」


 西高の制服を着ている男子生徒。


 顔は多少ピントが合っていないものの、知ってるヤツが見たら特定出来るレベルの解像度だと思う。


「ここまでのヒントがあるなら、しっかり本人を特定して脅すのはアリかもな」

「ストーカーを続けるようなら画像をバラ撒くぞ、って?」

「それもひとつの手だし、他にもやりようはあると思う」


 なんにしてもまずはコイツの特定から始めるべきだ。


「明日の放課後、西高で聞き込みしてみる。ストーカーを無駄に刺激したくないからお前は来なくていい」

「待って……わざわざ時間を割いてくれるの?」

「頼られたらそりゃあな。それに西高なら別に遠くないし。けど」

「……けど?」

「タダ働きするつもりはない。何か差し出せるモノを差し出してくれ」

「……お金?」

「余裕があるならそれでもいいし、ないならモノとかでもいい」


 そう告げると、日和は少し考える素振りを見せたのち、


「じゃあ……水でもすくうみたいに両手を広げてみて」

「……こうか?」

 

 物乞いするホームレスみたいに手のひらを合わせてみた。


 そしてさも当然のようにゆさっ、どさっ、と僕の手のひらに日和が恥ずかしそうに胸を置いてきたものだから僕は目を見開いてしまった。


「お、おまっ……何して……!」

「お、お小遣いは少ないから差し出せないのよ……これで勘弁して……」


 部屋着のキャミソール越しではありつつ、見事な曲線を描くその膨らみが僕の手のひらにずっしり重みをもたらしている。

 なんだこれ……すごい……。

 ……身体張りやがったなぁ、コイツ。


「お、お前な……身体で払うとか他では絶対するなよ?」

「あ、当たり前でしょ……圭太にしかしないわよこんなこと……」

「……そうか」

「それより、代価はこれでいい……?」

「おう……この重みに応えてやるよ」


 勉強の時間が多少削れるものの、日和の問題を放っておけばストーカーが日和んちにたどり着いて隣家の僕んちに無断で入り込んで観察場所として使われたりする可能性もゼロじゃない。


 日和のために、僕自身のために、この問題はさっさと片付けないといけない。

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