第20話 麦茶の暴威

「看病のお礼ですか? いえいえ、そんなの考えなくていいので勉強に時間を費やしてください」


 病欠明けの昼休み。

 学食でのランチ中に「何か看病のお礼をさせて欲しい」と申し出たら、曽我部さんにそう言い返されてしまった。


「そうね。私もお礼なんて不要だわ」


 しれっと一緒のテーブルに居る日和にもそう言われてしまう。


「ホントにいいのか2人とも」

「気持ちだけで充分というヤツですね。日和さんと同じ意見なのが少し癪ですけれど」

「ふん、別にいいじゃない。私もアリシアさんと同じ意見なのが癪に障るけれど、圭太に余計な気遣いをさせるよりはマシだわ」

「同感です」


 ……この2人、仲が悪いようで良いよな。


 なんにしても、そういうことならお言葉に甘えておこうかと思う。


 期末も近いし、そこで1位を取れなかったら先が思いやられる。


 だから2人に遠慮せず勉強あるのみだ。


   ※


 そんなこんなで迎えた放課後。


 今日は自宅に直帰して勉強開始。


 けど、僕一人だけじゃなくて曽我部さんも一緒だ。ニセ交際のリアリティーを高めるために、という名目でお邪魔されている。


 日和は畑仕事の手伝いがあるとかで一緒ではない。


「なあ、こうやって僕と勉強してて曽我部さんは楽しいのか?」


 休憩中にふと問いかけてみた。 

 僕は一度集中し始めると周りが見えなくなる。

 それは勉強においては利点だけど、誰かとの勉強会においては途端につまらないヤツになってしまう。

 無理してニセ交際のリアリティーを高める必要もない気がするし、楽しくないなら別にこうする必要はないと思っている。

 けれど、


「もちろん楽しいです」


 曽我部さんはにこやかにそう言ってくれた。


「気、使ってないか?」

「使ってませんよ。わたしは戦闘力5のゴミです」

「……そっちの気じゃない」


 急にドラゴボネタ挟まないで。


「母が好きなんです」

「あぁ……海外でも人気だもんな」

「ともあれ、わたしは東海林くんが黙って勉強していてもマイナスな印象はないですよ。むしろカッコいいなって思います。すごい集中力は誇るべきことです」


 褒められると照れ臭い……。


「逆に……わたしがこうして一緒に勉強しているのは邪魔じゃないですか?」

「とんでもないよ」


 曽我部さんの存在にはまだ若干緊張する部分がなくもない。

 けど、邪魔では絶対にない。

 むしろ良い刺激になってる。


「良かったです」


 曽我部さんがホッと胸を撫で下ろしながら、僕の用意した麦茶のコップに手を伸ばす。


 しかし、


「あ」


 掴んだ瞬間に手を滑らせたようで、中身を盛大にぶちまけてしまっていた。


「わわ……ごめんなさい……!」

「だ、大丈夫! とりあえずティッシュ!」

「ありがとうございます!」


 ボックスティッシュを手渡して対処してもらう。


 幸いにも卓上は無事。

 

 こぼした床もフローリングだから拭けば問題ない。

 

 しかし――


「……スカートずぶ濡れ?」

「ですね……やらかしました」


 曽我部さんは制服のスカートを大きく濡らしていた。

 麦茶とはいえ、そのままだとシミになるかもしれない。

 ので、


「……洗おうか?」


 と訊いてみた。


「あ、いえ、電気代もったいないですから」

「気にしてくれてありがたいけど、それくらいはさすがに大丈夫」

「……ホントですか?」

「ああ。けど乾くまで代わりに履くモノが欲しいよな。僕のハーフパンツでいい?」

「は、はい……じゃあすみませんけど、洗っていただけますと……」


 そう言って曽我部さんが立ち上がり、ファスナーを下ろして普通にスカートを脱いで白い清廉なおぱんつをあらわにさせたものだから僕はおったまげて目が点になってしまった。


「そ、曽我部さん……?」

「――あ」


 どうやら天然だったらしい。


「ご、ごめんなさいっ……!」

 

 曽我部さんはシュバッと内股になってしゃがみ込む。


「ほ、本当にすみません……! 粗末なモノを見せてしまって……!」

「い、いや結構なお手前で……!」


 混乱してて僕も変な対応になってる。


 というか曽我部さん、しゃがんだ方がマズいんですよ。

 むちっとした太ももの合間からもりっと膨らんだクロッチ部分が強調されているので……。


 ――……っと、そんなのは僕が目を逸らせば済む話だな……!


「じゃ、じゃあスカート一旦預かるよ……! 洗濯機回してくる……!」

「お、お願いしますね……!」


 動揺しながら顔を背けてスカートを預かり、僕は部屋をあとにした。


 ふぅ……ヤバいヤバい。


 平常心、平常心……。


 そんな風に自ら言い聞かせてスカートを洗濯機に入れて電源オン。


 それからまた何度か深呼吸を挟みつつ部屋に戻ろうとしたら――


「――あ、圭太、今日の野菜一旦ここに置いておくわよ」


 と、勝手口に日和が現れた。

 運動着姿で多少砂にまみれた格好。

 売り物にならない不格好な野菜を譲りに来たようだ。


「あぁ、助かるよ」

「今ってアリシアさん居るのよね?」

「居るけど、それが?」

「あ、えっと……実は圭太にちょっとお願いしたいことがあるのだけど、アリシアさんが居るならあとでいいわ。夜、話をさせてちょうだい」


 そう言って日和はまた畑仕事に戻っていった。


 ……日和が僕に頼み事は珍しいな。


 なんだろう、話って……。








――――――――

お知らせです。

こちらのお話、色々考えたい部分があるので更新速度を2日に1回ペースにさせていただきます。ご了承くださいませ。


追記:ペースが上記よりも乱れております。具体的なペースは出せませんが、ご了承ください。

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