第19話 看病 3

「ごめんねーアリシアちゃん! 1日中圭太の看病させちゃって!」

「いえ、大丈夫でしたから」


 夕方になると、母さんが慰安旅行を途中で切り上げて帰ってきてくれた。


 母さんにも悪いことをしてしまったが、途中で帰ってきてくれたのは嬉しい。


「医者、行ってないんよね? 別に行っても良かったのに」

「……まぁ、今日で快復しきらなかったら行くよ」

 

 曽我部さんが帰ったあと、夜勤のない母さんがお粥を作ってくれた。


 日和に夕飯を任せることが多い母さんだけど、別に料理下手ではなかったりする。


 それこそ夜勤がない日は普通に作る。


 母さんのお粥はオーソドックスな卵粥だった。


 味は味噌ベースで、母さんが作ってくれるお粥はいつもコレ。


 旨いから好きだ。


「にしても、やっぱりアリシアちゃんもええ子やんなぁ。アンタやっぱ2人とも娶らなあかんね」


 母さんがアホなことを言っている一方で、お粥を平らげた僕は部屋へと戻った。


 そのときだった。


「――ちょっといいかしら?」


 隣の窓から声を掛けてきたのは、部屋着姿の日和である。


「どうかしたか?」

「ちょっと渡したいモノがあるのよ」


 ……渡したいモノ?


「コレよ」


 こっちに移動してきた日和がそう言って渡してきたのは、レジュメのコピー。


 書かれている内容は、綺麗にまとめられた授業の板書。


 それが数枚分。


 だから僕はハッとする。


「まさかお前……今朝看病から手を引いて大人しく学校行ったのって……」

「ええそうよ、板書をまとめてくれる友達なんて圭太には居ないじゃない。だから1時間目は間に合わなかったけど、それ以降の授業は全部まとめてきてあげたわ。じゃないと圭太が困ると思ったから」

「うわ、サンキュー……」

 

 僕はレジュメを受け取りながら感激した。


 授業の遅れはこれでなんとでもなる。


「いやマジでありがとな日和。恩に着るよ」

「ふ、ふん、別にいいってことよ……それよりあなたなんだか臭くない?」

「え……あ、まぁ……汗掻きながら寝てたし」

「……お風呂はひとまず入らない方がいいんでしょうし、そういうことなら今夜は私がひとまず身体を拭いてあげるわ」

「え、いいって別に……」

「遠慮しないの」


 そう言うと日和は、僕の部屋から廊下へと出て行き、階下に向かった。

 あらーヒヨちゃん! という母さんの声が聞こえてくる。


 それから少しして、日和がお湯入りの洗面器とタオルを持って戻ってきた。


「さあ脱ぎなさい圭太。そのくっさい身体を拭いてあげるわ」

「なんで臭い身体を拭きたがるんだよ……別にいいって言ってんのにさ」

「な、なんだっていいじゃない! とにかく脱ぎなさいよほらほらっ」

「あ、おい、自分で脱げるって……」


 日和がスウェットを脱がそうとしてくるが、僕は結局抵抗しなかった。

 レジュメのお礼って言ったら変だが、今夜はとりあえず日和の好きにさせておこうと思ったからだ。


 そんなこんなで日和から丁寧に身体を拭かれ、今宵は爽快な気分で眠りに就くことが出来た。


「――よし、36,7℃」


 そして、翌朝は平熱と呼べるゾーンまで体温が下がってくれていた。


「学校行けそう?」

「ああバッチリだ」


 隣の窓から様子を窺っていた日和にそう言い返すと、「なら良かったわ」と朗らかに微笑んでくれる。


 今回は日和もそうだけど、曽我部さんにも助けられっぱなしだった。


 2人には何かお礼をしないといけないかもしれない。

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