第14話 演技ですよね?

「――いらっしゃ~い♪」


 数日ぶりにやってきた放課後の曽我部家。


 何度見ても(でけぇな……)ってなるお屋敷だ。


 そこにお邪魔した瞬間、


「ようこそ彼氏く~んっ♡」


 と、すらりとしたブロンド美人がお出迎え。


 間違いなく、この人が曽我部さんのお母さんだろう。


 プロテニスプレイヤーで、今はリフレッシュ期間で帰国中って話。


 雰囲気としてはのほほん寄り。


 日本語は普通にネイティブ並みのご様子だ。


 英語は話せる僕だけど、別にその必要はなさそう。


「はじめまして。曽我部さんとお付き合いさせていただいている東海林圭太です」


 さて、演技スタートだ。


「あら、ご丁寧にどうも。わたしはアリシアの母で、曽我部ジェシーって言います。はてさて、アリシアとはどこまで進んでるかな~? もうえっちしてたり?w」

「――ぶっ!!」


 いきなり赤裸々……!


「ま、ママ……そういうのはまだ全然ですから」

「あらそうなのアリシア」

 

 つまんないの、と言わんばかりに頬に手を当てるジェシーさん。

 僕の母さんもそうだけど、なんで母親って無遠慮にシモの話題を繰り出してくるの……。


「あっ、ケータくんヤッホー!」

 

 ひとまずリビングに通されると、そこにはヨナちゃんも居た。

 帰宅済みだったらしい。


 ブロンドヘアの3人に囲まれると、なんだか異国を来訪した気分になれる。


「ケータさん、頭いいんですってね?」

「あ、はい、一応」


 紅茶とお菓子を出されつつ、歓談タイムに移行する。


「お勉強を頑張っているのは、何か目的があるの?」

「えっと、僕の家……片親なので、母をいずれラクさせたくて。そのためには勉強を頑張って特待生になるなり、良い企業に就職するなりしないといけませんから」

「あら、とっても素晴らしい」


 ジェシーさんはにこやかに微笑んでくれた。


 僕はふたつの意味で嬉しく思う。


 ひとつは、単純に褒めてもらえたこと。


 もうひとつは、片親であることを下に見られなかったことだ。


「わたしもね、片親なの」

「あ……そうなんですか」

「うん。母が早くに病死して、父が男手ひとつで育ててくれてね。そんな父はテニスの先生で、色々と父の想いに報いるにはテニスプレイヤーになるしかない、って考えて死に物狂いで頑張って、なんとかそうなれたの」


 すごい。

 有言実行はやっぱりカッコいいよな。


「色々大変だと思うけど、頑張ってね。困ったことがあれば力になるから」

「はい、ありがとうございます」


 そんな感じで、面談は思ったよりもあっさり終了。


 ジェシーさん的には本当に顔合わせ程度で良かったようだ。


「ここがわたしの部屋です」


 その後、曽我部さんの部屋に招かれた。

 2人きりで過ごす時間を作るためだ。

 ニセ交際のリアリティーを高める目的で。


 ヨナちゃんが「わたしもまぜてー!」と言っていたけど、ジェシーさんに「お邪魔しちゃダメ~」と止められていた。


「ふぅ、なんとか誤魔化せましたね」


 曽我部さんがホッと胸を撫で下ろしていた。


 女の子らしい甘やかな部屋。


 白とピンクが目立つ内装。


 散らかった状況とは無縁そうな一室で、曽我部さんはローテーブル横のクッションに腰を下ろしていた。


「どうぞ、東海林くんもテキトーに座ってください」


 促され、僕はカーペットであぐらを掻く。

 すると、曽我部さんはなぜかわざわざ僕の隣に這い寄ってきた。


「ど、どうした?」

「ニセカノジョとして、今後イチャつく演技も公でしないといけなくなるかもしれませんから、とりあえず誰も見てないところで練習です」

「な、なるほど……」


 ……確かにそういう練習もしておくべきかもしれない。


 けど、近すぎない……?


「東海林くん、好きです」

「!?」


 くっつきながら猫なで声で何を……。


「クス。演技の練習ですよ?」


 そ、そうだよな……演技の練習だよな。

 本気なわけがない……。


「東海林くん好きです東海林くん好きです東海林くん好きです」


 洗脳でもするみたいに延々と囁いてくる。


 しかも身体の接触を強めながら。


 で、でもこれは曽我部さん自身が言っている通り、演技……。


 真に受ける必要はないんだ……。


「ふふ、好きですよ東海林くん♡」


 よりいっそう熱のこもった囁き。


 ヤバい……ほだされそう。


 けどこれは演技……!


「そ、曽我部さんっ、練習はここまでにしてぼちぼち勉強でも……!」

「ふふ、そうしましょうか」


 僕をもてあそぶように小さく微笑む曽我部さん。


 一応照れ臭そうに頬を染めているけど、どこか満足そう。


 ……曽我部さんはやっぱり、小悪魔なのかもしれない。

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