第11話 猛攻
※side:アリシア※
「実はなんらかの事情ありきの――ウソ交際なんじゃないの?」
「そ、それは……」
日和から圭太との交際を疑われたアリシアは、どう返事をすべきか迷っていた。
(ど、どうしましょうか……)
アリシアが圭太とニセ交際を行っている理由はふたつ。
ひとつは、幼い頃から抱き続けてきた好意の密かなる発露。
そしてもうひとつは『学業に集中するための男子除け』である。
(……なので、ニセ交際が日和さんにバレるのは好ましいことではありません……真相を知っている人が増えれば、更なる拡散に繋がって男子除けの効果が薄まりかねませんから)
しかしだ。
そうであるからといって、日和の追求を躱すのはどこか不誠実感があるのではないか、という考えが、アリシアの良心をぐらつかせている。
(日和さんを騙しているのは……正直心苦しい部分があります)
恐らく圭太のことが好きな日和。
そんな彼女のチャンスを奪っている部分が特に胸を張れない。
幼なじみという立場を十全に活かしてこれなかった日和が悪いんだからそこは気にしなくていい、と言われればそうなのだが、アリシアは善性寄りの性格である。
きちんと告白したわけでもないのに圭太の隣を独占する図々しさ、を保持し続けられるほど、彼女は傲慢ではないのだ。
(だからせめて……日和さんにだけは明かしていいのかもしれません)
だが、
(一方で……ここであっさり真相を明かしてしまえば、東海林くんが日和さんを欺くために使ってきた労力を徒労にしてしまうことになります)
それもまた良心の呵責に触れることだ。
(東海林くんの今日までの労力を無駄にしない、かつ日和さんとフェアになれるアイデア……何かないでしょうか)
アリシアは考える。
考えに考え抜く。
その末にひとつ――思い付くことがあった。
「日和さん……わたしと圭太くんはウソの交際なんかじゃありません」
そしてひとまずそう告げた。
ウソをつき続けることで圭太の労力を徒労にしないのがまず第一。
その上で、日和とフェアになるために告げるべき言葉がある。
「ですが一方で……わたしは圭太くんのような素敵な男子を独り占めにしていることを申し訳なく思っています」
「へ?」
「ですから、圭太くんが別の誰かに狙われるようなことがあっても……許容するかもしれません」
というのが、即興で思い付いた苦肉の策であった。
本当に許容するかどうかで言えばしないが(そもそもニセカノジョなのでそんな権限は存在しないのだが)、そう言っておけば一応日和にもチャンスを与えたことにはなる。
譲歩出来るのはここまでと言えよう。
「ふ、ふーーーーーーーーーーーーーーーん、そうなのね……」
日和は目に見えてソワソワし始めていた。
日和からすれば天啓じみた返事だったのだろう。
(……これで一応、日和さんとはフェアに、東海林くんの労力を徒労にはせずに、済んだはずです)
問題があるとすれば、日和による圭太への攻勢が増すかもしれないこと、だろうか。
(ま……そこはわたしが負けじとアピールすればいいだけですし)
高校まで恋仲に発展してこなかった幼なじみなんかに負けるつもりはない。
(とにかく、これまでと変わらずにやったりましょう)
ふんす、とアリシアは一層気合いが入る思いなのだった。
ちなみに圭太は今なお集中状態である。
※side:圭太※
「――はー美味しかった♪」
夜。
今日はスナックに出ない母さんが、曽我部さんお手製の夕飯にまったりと舌鼓を打ち終わったところだ。
ニセ交際のリアリティーを高めるための、曽我部さんによる料理上手アピール。
それはご覧の通り上手く行ったわけだ。
曽我部さんが自腹で食材を買ってきて、オーソドックスな肉じゃがや鮭のバターホイル焼きを作ってくれたりした。
僕も白メシと一緒に味わったけど滅茶苦茶旨かった。
日和もさっきまで一緒に食べていて「ぐぬぬ……美味しい……けど負けないわ」と謎の対抗心を燃やしながら一旦帰宅している。
「こりゃヒヨちゃんとの比べ合いは甲乙付けがたいわぁ。もう圭太アレせなあかんのとちゃうん?」
「アレって?」
「そらもうアレよ」
「主語を言え主語を」
「どっちも
「アホか」
親の離婚を見て「結婚ってクソだな」と思った僕はそもそも誰も娶るつもりはない。
生涯独身で良い。
その方が悠々自適に違いない。
無駄に負債を抱える必要はないんだ。
そう、負債だ。
結婚は負債。
子供も負債。
……僕が居なければ、母さんはもっとラクに生きられるんじゃないか、って思うことがある。
だから僕は、僕自身を反面教師にして負債を抱えない人生を送りたい。
さてと……曽我部さんの夕飯アピールが上手く行ったから、ニセ交際のリアリティーを高める活動は今日はもう終了でいいはずだ。
夜の勉強タイムを始める前にひとっ風呂浴びてくるか。
「あ――お風呂ですか?」
リビングの隅に畳まれた洗濯物から着替えやバスタオルを回収していると、母さんと並んで皿洗い中の曽我部さんがそう訊ねてきた。
「ほれアリシアちゃん、カノジョなんだし一緒に入ってきたら?w」
「あのなぁ母さん……そういうこと言わなくていいから」
ニセ交際なんだからそこまではやらない。
曽我部さんだってそんなのはさすがに御免被りたいはずだし。
「わたし、一緒に入ってみたいです」
ほらな、入りたくな……………………………………What?
「おーアリシアちゃんグイグイ行くねぇw」
「ふふ、よろしいですよね? ――カノジョなんですから」
そう語りかけてくる笑顔はお淑やかなんだけど……なんだろう、言い知れぬ圧力がある……。
「……ま、マジで言ってるのか?」
「マジです。お皿洗いを済ませてから行くので、お先にどうぞ」
……ニセ交際のリアリティーを高めるため、なんだろうけど、幾らなんでも頑張り過ぎじゃない?
でもここで断ったら母さんに怪しまれるかもしれないし……くっ、受け入れるしかないか……。
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