畏怖の刃

岸亜里沙

畏怖の刃

戦国一の刀剣収集家とも言われる織田信長。

その数、500振以上を所有していたそう。

信長の愛刀として『へしきり長谷部はせべ』や、『薬研藤四郎やげんとうしろう』といった名刀の名前をご存知の方は多いかと思う。

そんな数多くの名刀を所有していた信長が、一番怖れたとされる刀が岐阜県の小さな神社に今も封印されているそうだ。

その刀は、刀工とうこうも作刀された年代も不明とされ、一説には鬼が持っていた妖刀とか、天狗てんぐの首を跳ね呪われた刀とも言われるいわく付きの刀だそう。

刀身を抜いた際に断末魔に似たうなり声が聞こえたとか、深淵の闇夜で刃文はもんが稲光の如く、不気味に青白い閃光を発したなどの逸話もある。

そして何より、その刀の斬れ味の鋭さはどんな名刀よりも優れていたそう。

たった一太刀で、数人の首を斬り落とす事が可能なのではと言われる程の刀。一度試し斬りをした際、あまりの鋭利さに、若き日の信長でさえ手が震えたと神社の言い伝えに残されている。それ故「手が震えては、いくさにおいて役に立たん。このは、鉄砲よりも危険だ」と言い、その刀を神社に奉納したそうだ。

信長の旧臣きゅうしん太田おおた牛一ぎゅういちが信長の生涯をつづった『信長公記しんちょうこうき』にも、この刀の名は登場しない為、現在でもごく僅かな研究者しかこの刀の伝承を知らないそう。

ある研究者がこの刀を保有している神社に、何度も調査したい旨を伝えているそうだが、断られ続けていると聞いた事がある。

この名も無き伝説の刀が、日目ひのめを見る時が訪れるのだろうか。

私はその瞬間を心待ちにしている。

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畏怖の刃 岸亜里沙 @kishiarisa

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