第20話藍ちゃん

バレーの練習試合が終わって半月後、修了式が終わって夏休みを迎える。郷子と温也が吹奏楽の部活を終えて帰ろうとすると、体育館の陰にバレー部女子の3年生のA子に呼び出されている藍を見かける。藍は浮かない顔をしていて、何か言われている様子。

その時、郷子と温也は何か藍の様子が変だと感じたため、藍に

「藍ちゃんお待たせ。さぁ帰ろうか」

と声をかけて、藍をA子から引き離す。

「藍ちゃん、今日はバレー部どうやった?」

と温也が声をかけるが、何か口ごもって

「う、うんまぁまぁだったよ」

などと言う。郷子が

「藍ちゃん、なんか、ちょっといつもと違うけど何かあった?」

と声をかけてみても

「別に…。何もないよ。さぁ、今日もちょっとこまちゃんの顔見て帰ってもいい?」

というので、温也は

「あぁ、別にかまへんけど。何かあったんなら、俺ら力になるから、ちゃんと言ってや」

「温也君ありがとう…。でも、本当に何でもないから」

「まぁ、それならいいんやけどな」

やがて温也の家に到着。小町が

「にゃ~」

といいながら玄関にとことこと走ってくる。藍が

「こまちゃんただいまぁ~。かわいいねぇ。おぉよしよし」

頭をなでながら、小町のおやつのチュールを食べさせて、しばらくしてから藍は帰る。

藍が帰って、郷子も自分の家に帰った。温也はどうしても今日の藍のいつもに比べて暗く沈んだ顔を見て、どうしても気になったので、郷子に

「今から郷子の家に行ってもいいか?今日の藍ちゃんの様子、なんか変じゃなかった?何か暗い顔してたように思うけど」

とライン電話を掛けると

「あっくんもやっぱりそう思う?何があったんじゃろうね。じゃあ今からくる?玄関空けるから、入って」

「わかった。着替えたらすぐに行くわ」

そうして、温也は郷子の家に向かった。

「すいません。少しお邪魔します」

そう言って、温也は郷子の部屋に入った。

「帰り、3年生から何か言われてたみたいやけど、なんやったんやろう?」

「うーん。何があったんかねぇ?今はクラスが違うから、ずっと藍ちゃんのこと見てるわけじゃないんじゃけど、何か言われて、どうしようっていうようなことになったんかねぇ?」

「藍ちゃんのラインアドレスわかる?」

「あぁ、これなんやけど、藍ちゃんに聞いて何かあっても何も言わないことがあるんよね」

「そうなんやぁ。何かあったら言ってくれたらいいんやけどなぁ」

「ちょっとライン送ってみるか」

「そうやねぇ。私たちが心配してるっよっていうことだけでも伝えておこうね」

「藍ちゃん、今日は本当に何もなかったん?私、小学校1年の時から、藍ちゃんとずっと一緒に過ごしてきて、藍ちゃんが困ったときとか、悩んでる時のこともよく知ってるからわかるんやけど、今日の藍ちゃんの顔、悩みがある時の顔やったよ。何かあったら、私たちに言ってね」

郷子はそうラインを送って、温也も

「藍ちゃん大丈夫?しんどい時は俺たちに話して。逆に俺たちが悩んでるときは助けてもらいたいから。何か悩みがあるんやったら、いつでも相談に乗るよ」

そうラインを送った。その日の夜遅くに藍から返信があって、

「大丈夫。ちょっとこのところ練習が大変やったから疲れただけや~。また明日ガッコで会おうねぇ」

そう言ったことが書かれていた。


その夜、藍はA子から言われたことが頭の中で再生されていた

「あんたさぁ、この前の練習試合とか、紅白戦でちょっとうまくいったからって、調子に乗ってんじゃないわよ。なんであんたが正セッターで、私がサブセッターなのよ。先生が藍にセッターをやらせてみようと思うって言われたときに、あんたがやめますって言ってれば、私が引退するまで正セッターやったのに。なんであんたに正セッターのレギュラー取られんといけんのんよ」

そう言われていたのである。

「でも、私は先生に新しいポジションもやってみんかって言われて、自分を成長させるいいチャンスだと思ったから、、やってみようと思っただけです。それに先輩が引退した後のセッターのポジションもしっかり決めておかないと、来年困ることになるし…」

「うるさい。あんたがセッターをやめれば、私はずっと正セッターのポジションを引退するまで保てたのよ。あんたが私やめますって言えばいいのよ」

「私、やめるつもりはありませんから。私もセッターとして頑張ろうって思って、この2か月、一生懸命自分なりに頑張ってきた。それを今になってやめろって言われてもやめませんから」

「ほんとう、あんた先輩にたてつこうって言うの?あんたはおとなしく控えでずっと過ごしてたらいいのよ。マジでむかつくんやけど。可愛げのない。後輩やったら、先輩に花道を飾らせてあげようっていう気はないの?腹立つわ~」

そこへ、郷子と温也が通りかかって、声をかけてくれたのであった。

「チッ。私にたてついたこと後悔させてやるから、よく覚えておくんじゃね」

そう捨て台詞を吐いて、そのA子は帰っていった。


 そして、翌日、夏休みに入って午前中は部活という日が週末の金曜日まで入っていて、温也と郷子は吹奏楽の発表がもうすぐということで、練習を頑張っていた。藍もバレー部の練習を頑張っていたが、悪意のある集中攻撃を例のA子から受けていたのである。間近でボールを顔面目掛けて投げつけられたり、とてもボールを正確にトスできないところに落として、トスできなかったことを責めたり、嘲り笑ったり。このときは顧問が席を外していて、このときを狙って藍にこうした悪意のある行為をしていたのである。それが、顧問が用事を済ませて帰ってくると、何事もなく振舞っていたのであるが、藍は次第にバレーをするのが怖くなっていった。それから迎えた7月末、同じ体育館で練習をしている津留美が藍に声をかけた。

「藍ちゃん、練習お疲れ。バレーの練習どんな?って、どうしたん?腕が真っ赤に腫れてるやん。何があったん?」

「あぁ、これ?練習の時にボールの当たり所が悪くてね。私がもっと正確なトスを上げられるようになったらいいんやけど」

「顧問の先生は?」

「今席を外してる」

「ちょっとこれは保健室に行った方がいいんじゃない?」

「大丈夫。これくらいなんともないから」

「そうなん?それならいいんじゃけど」

そして、津留美と一緒に帰ろうとしたのであるが、藍の靴がなくなっていることに気が付いた。

「あれ?私の靴がない」

「あのさぁ、藍ちゃん、もし私の思い違いやったらごめんじゃけど、何かあったんじゃない?靴がなくなるってどういうことなん?何かされてるんじゃない?」

そこへ温也と郷子も部活を終えてでてきた。

「どうしたん?何かあったん?」

「藍の靴がなくなってるって」

「えぇ?なんでそうなってるん?藍ちゃん、何かされてるんなら正直に話して」

「そうや。俺らは藍ちゃんの味方やから」

すると、藍がしくしく泣きだした。

「ごめん心配かけて。実はね、7月初めに練習試合があって、それから私が正セッターに顧問の先生から指名されたの。それから、それまで正セッターを務めてきた3年生に目をつけられて、嫌がらせをされるようになったの。それに脅迫みたいなことまでされてて…。それで、今日はね。靴を隠されたんじゃろうと思う」

「そうかぁ…。あの、このことは顧問の先生も知ってるん?」

「多分知らないと思う。チクったらバレーが二度とできないようにしてやるって。そう言われてて…」

「それって脅迫みたいなのじゃなくて、脅迫やん」

「ほかの部員はどうしてるん?」

「ほかの部員たちも、3年生に脅されてるみたい」

「マジで終わってんな」

そう温也がつぶやく。しかし、ここであれこれ話してても、藍が帰れないので、皆で手分けして藍の靴を探して、30分ほどたって体育館裏の雑草が生い茂ったところから靴が見つかった。

「藍ちゃん。靴あったよ」

「これでとりあえず帰ることが出来るな」

「ありがとうみんな。心配かけてごめんね…」

「藍ちゃんが謝る必要ないし、謝ることじゃないから。ここまでされてるんなら、なんとしてもやめさせんとんな」

まずはバレー部の顧問に今日の出来事を伝えて、顧問がいなくなった時を見計らって、執拗なまでの嫌がらせをしているということ、そして、靴を隠されるという事態にまでなっているということを伝えて、それから、温也・郷子・津留美・藍の4人でどうするか話した。

「俺の親父がね、カスタマーハラスメント対策でICレコーダー持ってるんやけど、それで相手の言ってることを録音して、それから、俺と郷子と津留ちゃんのスマホのチャット機能を使って、俺らも通話が聴けるようにして、動かぬ証拠を突きつけてやらんと、収まらんのじゃないかなぁ」

「私、バドミントンの練習時間と少し被る時間があるから、帰るふりしてバレー部の様子見てみるわ」

「じゃあ、私たちはチャットで聴く耳立てておくね。それでいつでも出られるようにしておくわ」

「ありがとうみんな…。ありがとうね…」

「気にしないでいいの。藍ちゃんが悪いんじゃないから」

「いざとなれば、俺がしめ技かけてやるから」

「あれ?あっくん柔道やってたの?」

「昔ほんのちょっとかじった程度やけどね。でも一通りの技はかけられるぜ」

「へぇ?そうなん?」

「まあな。護身術としてオヤジが少し習っておきなさいって。俺たち、親が仕事でいない時間も結構あったからね。親がいない間に何かあったときに自分の体と泉を守れるようにって」

「そうなのねぇ」

そして、翌日。藍はバレーの練習に行く前に、温也の家に立ち寄って、カバンの中にICレコーダーを忍ばせて、スイッチをオンにして、録音を開始。学校に着いてユニフォームに着替えて、練習開始。津留美が

「藍ちゃん。練習頑張ってね。この後私は2階席から見ておくから。動画も撮っておくからね」

そう小声で声をかけて、藍も

「ありがとう。私も絶対に理不尽なことに負けないから」

「じゃあ、私行くね」

温也の家では、温也と郷子はチャット機能を起動させて、練習中の様子に聞き耳を立てていた。

やがて顧問が到着し、A子を呼び出した。

「A子ちょっとこっちにこい。ちょっと聞くけど、嘘言うなよ。お前、藍に何かやったのか?」

「私がですか?私は何もしてませんよ」

「本当じゃな?もし嘘が発覚した場合は、部活から除名するからな」

「だから私が何したって言うんですか?」

「じゃあ、お前が正セッターからサブになったのを腹いせに、嫌がらせをして、藍の靴を隠したっていう情報もあるんじゃけど、本当にお前は関わってないんやな」

「私を疑ってるんですか?私を疑うのであれば、証拠を出してくださいよ」

「まぁ、これから調べるけど、もしお前が関わっているってわかったら、それなりの覚悟はしとけよ」

それから部活が終わって、藍が帰ろうとすると、津留美から連絡が入った。

「今練習が終わってこれから帰るところ」

「じゃあ、俺らも突撃するとしますか」

学校の校門で待ち構えてた温也と郷子。やがて、A子が藍を捕まえて

「テメェー。チクりやがったなぁ…。どうなるかわからせてやるから」

「もうやめた方が身のためじゃないんですか?」

「テメェー。私に指図するって言うの?マジで腹が立つわ~。あんたになんで私がポジション奪われなければならないのよ。あんたが退部すればみんな丸く収まるんだよ。さっさとやめやがれ」

「でも、私は頑張ってセッターのポジションを獲得したので、やめるつもりはありません」

そこへ温也と郷子と津留美も合流。温也が

「ほほーん。こいつが噂の心優しい先輩かぁ…。ふーん」

「何よあんたたち」

「いやぁ。今日、あんたが藍ちゃんに対して言ったこと、すべて筒抜けなんだよなぁ」

スマホをちらつかせながら、温也がA子に言う。

「そうよ。私たち、全部聴いてたんですけどねぇ。あんたみたいなのが先輩なんて、私じゃったら本当嫌」

「後輩にポジション奪われたって、自分の実力がなかっただけなんじゃない?」

「それで、自分の実力のなさを棚に上げて、後輩にねちねちと嫌がらせ?マジで人としてどうなん?バカなんじゃないん?」

そこまで言われて逆ギレしだしたA子。

「あんたが素直にやめますって言えば、私はこんな屈辱を味合わずに済んだんだよ。全部お前のせいだろうが」

「あぁあ。まだ自分の立場って言うのが分かってないようですねぇ。じゃあ、ここらでサッサとかたをつけようじゃん」

「何する気?」

「後輩をここまで痛めつけるっていうからには、自分にはすごくい力があるって思っているようなんで、どうです?俺と勝負しませんかねぇ」

「勝負って何を?」

「いやぁ。俺、今は吹奏楽やってるんですけど、実は柔道の経験もあるんですよねぇ。寝技がいいですか?それとも投げ技がいいですか?それともしめ技がいいですか?どれでもお好きなものを選んでくださいな。まぁ、あんたみたいなチンピラに、柔道技仕掛けるのも、はっきり言ってもったいないですけどねぇ。さぁ、どうする?」

ここまで温也に凄まれて、さすがのA子も相当ビビったようで、何も言い返すこともできなくなっていった。それから、このチャットは顧問も参加していて、事の成り行きを見守っていた顧問もやってきて、顧問からもこっぴどく叱られて、バレー部も除名処分となり、その後はバレー部には平穏な日常が戻った。藍も正セッターのポジションを与えられ、全中に出るために練習を頑張っているところであった。

「藍ちゃんよかったね。本当藍ちゃんがどうなってしまうか、心配じゃった。元気になってくれてよかった」

そう郷子は涙を流しながら喜んでいた。温也も

「本当によかったよ。いじめって最低な奴がすることやからな」

津留美も

「何かあったら正直に話さんとだめよ。藍ちゃんはいつも自分が我慢すればいいって言うんじゃから。心配かけたくないって思わなくていいの」

そう言って笑いあった。そして顧問からは

「藍が辛い思いしてるのに気が付いてやれんで済まんかった。謝るわ」

「いいえ。私も嫌なことは嫌だって言えるようにならないといけないなって思いました。本当にみんなありがとうね。やっぱり持つべきものは親友やねぇ」

「じゃあ、今日は藍を助けてもらったお礼に、俺が焼肉ごちそうするか」

「ヤッタ。焼肉が食える~」

「もう。あっくんはしゃぎすぎ」

そうして笑いあえる日々が戻ってきた。そして、温也と郷子にとって大事なコンクールを迎えたのであった。





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