第21話和解

 藍と3年生のA子との確執のことで、顧問は後日A子を部室に呼び出して、なぜ藍を正セッターと指名したのか、話をすることにした。

「A子は、なんで俺が正セッターのポジションに藍を指名したのか、わかるか?」

「全然わからないですし、納得いってないです」

「そうかぁ。じゃあ、藍にあって、お前にないものって何かわかるか?」

「なんなんですか?私もそれなりに練習してきましたけど」

「確かにそれなりの成績は出してるよな。でも、練習試合とか紅白戦のスコアを見て、何か思うところはないか?」

「…。」

「わかってないかぁ。藍は、自分がアタックするとき、どんなボールやったらアタッカーがボールを撃ちやすいか、どこに誰がいて、自分が決めたアタッカーに対して、常にどこにトスを上げたらアタックやバックアタックが打ちやすいか、そう考えてボールをあげてる。他のメンバーからも「藍のボールは拾いやすい・アタックを撃ちやすい」って高い評価を受けている。それは常に藍が人間観察を怠ることなくやってるから。だから味方の選手の動きや相手チームの選手の動きをつぶさに見て、的確なボールをあげることが出来るし、ベンチに下がった後も、常に先輩後輩関係なく指示を出してる。それに引き換えお前はどうじゃ?ベンチに下がったら、指示を出すわけでもなく、ずーっと隣の奴と試合とか練習に関係ないことをしゃべってるよな。それって、試合に出てる時も身が入ってないってことじゃないんか?それが藍とお前のセッターとしての差でもあるし、評価につながってる。それで自分が正セッターのポジションを奪われたからって、お前が藍に執拗な嫌がらせをするって言うのは、チーム全体の士気にも響く。悔しかったら、藍からお前の実力で正セッターのポジションを奪い返してみろ。それには藍以上の努力が必要になってくるぞ」

「…。でも、私はもう戻れないんですよね?除名にするって」

「これはお前が藍に対してこれからどう出るかにかかってるんじゃないか?お前がやったこと、言ったことで生じた結果がこれじゃ。もう小さい子供じゃないんじゃから、自分で蒔いた種は自分で刈り取れ。それには何をしなければいけないか、よく考えて、明日またここにきて、お前の答えを聞かせてくれ。今日はもう帰っていい」

「私がしなければいけないこと…。それは何なんです?」

「それはお前が自分で答えを探して見つけるしかないんじゃないか?自分で言ったことで生じた結果・やったことで生じた結果には責任を果たせ」

「…。わかりました」

一方藍は、A子からの嫌がらせがなくなって、だいぶ落ち着いてバレー部の練習に参加することが出来ていた。その練習を終えて帰るとき、吹奏楽の練習が終わった温也と郷子と一緒になった。

「藍ちゃん、今日はバレーの練習どうやった?」

「今日も結構ハードな練習やったけど、楽しかったよ」

「そうかぁ。一時はどうなることか思ったけど、本当によかったなぁ」

「本当にありがとうね。皆に助けられました。そう言う吹奏楽の練習はどうなん?もうすぐ本番なんじゃろ?」

「そう、8月4日が本番やから、もうあと15日ほどでごわす」

「金賞とれたらいいね。この前バレーの練習試合観に来てくれたから、私も二人の応援しに観に行けたらな」

「周南市文化会館であるから、あさ8時前の新山口駅発車の電車に乗ったら間に合うと思うよ。俺たちは電車で徳山駅まで行って、そこからバスに乗って会場に行くから。藍ちゃんも一緒に行く?」

「うん。行く」

「じゃあ、コンクール当日の朝、7時に俺んち集合」

郷子と藍二人で

「ラジャリンコ~」

そう言って、藍と別れて二人で歩いて帰宅。

「藍ちゃん元気を取り戻せてよかったわ」

「ほんまやな。マジでバレーやめてしまうんじゃないかって思ったからな」

「自分の好きなことで嫌がらせ受けるって嫌よね。でも、藍ちゃんも全中の県予選に向けて頑張ってるみたいやし、このまま怪我とかなしで試合に臨んでほしいよね」

「そうそう。怪我したら、今までの頑張りが台無しになってしまうからな。俺たちもあともう少しで本番なんやから、体調崩したり、怪我したりせんように気をつけんとな」

「藍ちゃんたちは23日と24日が本番なんやろ?頑張れ。俺たちも吹奏楽の練習終わったら応援に行くから」

「うん。待ってるよ」

翌日、A子はまずは藍に対してに自分がやったことに対しての謝罪をしようと思っていたが、部活前に藍に会うことが出来ずに、吹奏楽の練習で登校した郷子と温也を見かけたので、何を言われても自分は言い返せないと腹をくくって、二人に声をかけた。

「あの~。ちょっと時間とってもらっていいかなぁ。この前からのことで謝ろうと思って。藍は今日はどうしたの?」

「あぁ、藍ちゃんなら皆より早く体育館に入って、自分一人でもできる練習してるぜ。今日も朝8時前には学校に行くって言ってたから、体育館にいるんじゃないか」

「それで、私たちに何のようなんですか?私たちもコンクール本番に向けて忙しいんですけど」

「あぁ、ごめん。藍に謝ろうと思うんじゃけど、なかなか本人を目の前にして一人で謝る勇気が出なくて…。あなたたちにも一緒に来てもらえたらって思ったんやけど…」

「は?俺たちが一緒について行って、それで藍ちゃんに対して謝罪するって、俺らはあんたの用心棒じゃねぇ。それに自分がやったことでこういう結果につながったんじゃん。自分でやったことなんやから、自分で始末するのが責任を取るってことなんじゃないん?俺らがついて行って、それであんたが謝っても、何の意味もねぇんじゃない?」

「自分がやったことでしょう?自分の口と態度で示すのが大事なんじゃないんですか?」

「私が謝って、藍に許してもらえるかどうか」

「それは自分がやったことに対して、精一杯誠意を示したかどうかじゃないんですかね?」

「そうかぁ…。自分の実力のなさを認めたくなくて、あんなことしてしまって、本当に申し訳ない…」

「俺たちに謝っても何の解決にもならんのじゃないですか?ここでうじうじ言ってる暇があったら、今も体育館で目前に迫った大会に向けて猛練習してる藍ちゃんのとこに行ったらどないですか?」

「私たちも、もう今はコンクールに向けた追い込みに入ってるんで、これで失礼します」

「あぁ、ごめんね。時間を取らせて」

そして、重い足取りで体育館に向かったA子。体育館の扉を開けると、まだだれも来ていない体育館で、一人トスを上げる練習をしている藍のところに行って、

「藍、ちょっとごめん。少し時間とってもらっていいかな?」

「なんですか?」

「あのぉ…。このまえから藍に対して私がやったこと、本当にごめん。藍がどれだけ必死でセッターの練習を頑張っているか、私、知らなかったから、自分の実力のなさとか、練習や試合に臨む態度とか、全部棚上げして、あんなことして本当にごめん。許してほしいなんて私が言える立場じゃないけど、今度の全中頑張ってね。それを伝えたかったから。それじゃあ、私は帰るわ」

「ちょっと待ってください。先輩はこれで中学バレーをやめて何の後悔もないんですか?私たちは今度の県予選を勝ち抜いて、中国ブロックに行けると信じてます。でも、中国ブロックとなったら、今よりも数段レベルを上げないと勝ち抜くことはできません。ですので、まだまだ先輩の力も必要になってきます。先輩が抜けるとセッターのポジションは私しかいません。私は先輩に帰ってきてもらいたいと思います」

「え…。でも、私は藍にあんな嫌がらせをしたのに…?」

そこへ顧問がやってきた。

「A子じゃないか」

「先生、私、藍に謝りました。藍にも、ほかの皆にも嫌な思いさせて本当にごめんなさい」

「それで藍はどうなんじゃ?」

「はい、私は先輩には帰ってきてほしいと思います。先輩がいなくなったら、セッター一人で全中にでなければいけなくなります。私はまだまだ先輩の力が必要だと思います。先輩。何ボヤっとしてるんですか。早くユニフォームに着替えてくださいよ。ねぇ、ほかの皆もいいよね?」

いつの間にか集まっていた皆に藍が問いかけた。

「私は藍先輩がいいと思うのであれば、それでいいと思いますよ」

「私も。藍がそれでいいって言うのであれば」

「本当にみんな申し訳ない。これから死に物狂いで練習頑張るから」

「じゃあ、A子、早くユニフォームに着替えてこい。全中の県予選は明日やからな。今日は皆軽めの調整にしとけよ」

「はーい」

そうして、バレー部は全員が再びそろって、翌日に迫った全中の県予選に臨むことになった。

 一方、郷子と温也たちも練習に余念がなく、威風堂々の全体練習を基本にして、イントロから最後までを通しての演奏をメインとした練習が続いていた。今は最終チェックの段階で、細かい音が連続するところでのスライドの動かし方とか、トランペットやホルン、チューバやユーフォニウム・木管楽器は指の動かし方を確認して、音を出していた。そして、2時間ほどの練習が終わって楽器を片付けて、帰ろうとていた。そこにトシと藍がちょうどやってきて、

「よぉ。今練習終わりか?」

「うん。私たちも今から帰るところ。トシ君、めっちゃ日焼けしてるじゃん」

「そうやろう?夏を満喫してるって感じかなぁ。俺ってかっこいいだろう?」

「あぁ…。まぁ、そう言うことにしといてあげよう」

藍がいたずらっぽく笑う。

「そう言えば藍ちゃん、あれからどんな?」

「うん。A子先輩は直接私に謝りに来たよ。それで、私もずっと引きずりたくないし、どうしてもA子先輩の力も必要になってくるからね。これから引退するまでバレー部に復帰してもらったよ」

「そう。それならよかった。藍ちゃんが決めたことやから、私は藍ちゃんを応援するしかないけど、頑張ってね」

「え?何かあったん?」

「トシ君には内緒」

「えぇ。俺にも教えてくれたっていいじゃん」

「だからヒ・ミ・ツ。ねぇ、郷子に温也君」

「そうそう。私たちだけの秘密じゃもんねぇ」

「えぇ、ずるいじゃん」

「まぁまぁ。そう言うなって。じゃあ、藍ちゃん。明日の試合頑張れよ。俺たちも応援に行くからね」

「ありがとうね。じゃあバイバイ」

「あ、藍ちゃん待ってよ~」

「ほら。トシ君も帰るよ」

家に着いて、昼ご飯を済ませて郷子と二人、近所の公園でベンチに座りながら、藍の身に起きたことが解決できてほっとしていた。

「藍ちゃん、よかったね。明日の試合。全力で臨めたらいいね」

「ホンとそれ。大事な試合前でごたごたするのって、やっぱりきついと思うからな」

「明日は何時に家を出る?確か9時から試合開始じゃったと思うけど。会場が太閤アリーナよね」

「そうそう。8時くらいに家を出るか。歩いていく?チャリンコで行く?」

「うーん。自転車こいでもし転倒とかなったら、コンクールの本番にも影響するし、歩いて行こうか」

「じゃあ、8時に家出発ね」

「ラジャリンコ~」

そして翌日。天気は快晴。二人で歩いて藍が出場する試合会場に向かった。

「いい天気ねぇ。っていうか、もうすでにめっちゃ暑いんじゃけど…」

「まぁ、今年の夏はめっちゃ暑くなるって言ってたからなぁ。ほれ、お茶」

そう言って温也は郷子に、家で入れて着た麦茶の入ったボトルを手渡す。

「あっくんサンキュ。タオルと帽子もよし。じゃあ出発するべェ」

温也が笑みを浮かべる。

「なに?何か面白いことあった?」

「いやあ。なんか郷子が、だんだん俺に似てきたなって」

「そう?」

「話すときのべェっていうの、うつったやろ」

「まぁねぇ。それだけ仲がいいってことじゃん」

「そのうち、俺みたいにエロくなったりして…」

「もう。私はあっくんみたいにスケベじゃないもん」

「ありゃ~?でも顔がちょっと紅くなってるぞ~」

「もう、あっくんのスケベ・変態・エッチ」

そう言ったことをわちゃわちゃ言いながら会場に着いた。そして、応援席に座って試合開始を待つ二人であった



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