第19話撮り鉄。そしてバレーボール練習試合観戦

 やがてもうすぐ7月。まだ梅雨が続いているが、蒸し暑い中でも部活動はある。

「ひゃ~。今日も汗だく。暑いねぇ」

トロンボーンを片付けながら郷子がため息交じりに漏らす。

「ホント。この暑さ、マジで最悪じゃね?」

温也も暑いと文句をたれながら吹奏楽の練習が終わった後の片づけをしていた。

「あ、そうそう。今度の日曜日にね、藍ちゃん達バレー部の練習試合があるんだって。観に来てって言ってたから、一緒に行かない?」

「何時から?」

「えぇとねぇ、13時30分に学校の体育館に集合で、14時に試合開始だって」

「多分大丈夫やったと思うけど、一緒に歩いていくか?」

「じゃあ、おひるご飯食べたら、あっくんの家に行くわ」

「ラジャリンコ~」

そして、校門を出たところで、その藍と一緒になった。

「藍ちゃん、私たち応援に行くからね」

「ガンバ~。バレーって、めっちゃ迫力があって面白いよなぁ。対戦相手はどこなん?」

「対戦相手はねぇ、鴻野峰中。結構強いところとの試合なんじゃけどね。全中の県予選の試金石やから、勝ちに行くよ~」

彼女は今ではセッターを主に努めているとのことであった。セッターは試合の中で司令塔の役割を果たす大事なポジションで、誰にアタックを打たせるのかなど、瞬時の判断力が求められるという。なので、街中を歩いているときでも、前を歩く人が次どのような動きをするのかなど、観察しているという。

「私の理想と言うか、一番選手として尊敬しているのは、ロンドンオリンピック女子で、銅メダル獲得に大きく貢献した竹田佳子選手。セッターとして活躍し、どんなに厳しい状態に置かれても、諦めずチームを鼓舞する姿を映像で見て、ずっとファンとして応援しているという。

「じゃあ、日曜日楽しみにしてるからね」

そう言って藍と別れて、二人も帰宅。そして夕方、光も帰ってきた。今日は山陽本線の新山口駅から岩国駅までの乗務を往復したらしいが、何か少し険しい顔をしていた。その理由を食事をしながら聞いた。

「お父さん、なんかあったん?」

「うーん、実はな、乗務中に駅を発車する際に、ホームの点字ブロックの外側にまではみ出して撮影してる撮り鉄がおってな、身を乗り出して撮影してたから、危ないから発車させるわけにもいかんやろ?せやから駅のアナウンスにて注意しても止めんかったから、俺が乗務員室から降りて厳重注意して、鉄道警察にも連絡したんやけどな、その際に「偉そうに口きくんじゃねぇこのクソヤロー」って。それでつかみかかってきそうになったところ、鉄道警察隊が来て、連行されていったんやけど、なんなんかなぁ?あれで発車が10分くらい遅れて、ほかの乗客にも迷惑が掛かって。まぁ、今日俺が乗務したのは、旧瀬戸内色って言われる塗装やったからかもしれんけどな。もう少し、分別のある行動してほしいわ」

「そんなことがあったんやね…。でも、あなたに何かあったわけやないからよかったわ」

「それで、連行されていった人は、どういう罪に問われるの?」

「おそらく列車往来妨害とか、鉄道営業法違反とかになるんじゃないかな?最悪懲役刑になることもあるからね。そこまでして、同じような画の写真撮って何が面白いんやろうか?」

「まぁ、今では簡単にネットに挙げられるからねぇ。それで再生回数を稼ぎたいんちゃう?」

「そうなんかもしれんけど、下手したら自分の命を落とすことにもなりかねんから、マジでこういった危険行為はやめてもらいたいわ」

「ほかにも、自分の写したい画にするのに邪魔な私有地にある木を伐採したり、畑を踏み荒らしたり、地元の利用者とトラブルを起こしたりって話もよく聞くからね。そんなことしたら、損害賠償請求とか、不法侵入とかでも訴えられるんじゃない?」

「お兄ちゃんは、普段電車写すときにどんなことに気をつけてるん?」

「俺はなぁ、まず周りの利用する人とか、ほかの人に迷惑かからんようにしてる。自分の好きでやってることで、ほかの人に迷惑かけたくないし、自分の命を危険に晒すようなこともしたくないしね」

「さっすが私のお兄ちゃん」

「えへへぇ~・俺ってかっこいいだろう?」

「あぁ、ハイハイ。そう言うことにしとこっと」

そう言ったことを話しながら夕食を済ませて、入浴なども済ませて、郷子とのラインで、今日、光が話したことを郷子にも話してみた。

「私にはその撮り鉄の気持ちってわからんけど、そこまで周りに迷惑かけて、自分の身も危険にさらしてまで写すって、何なんじゃろうね?」

「俺にもわからん。俺は一過性の写真を写すよりも、いつもの鉄道風景を写すのが好きやからね。下手に余所行きの写真写すよりも、普段のありのままの鉄道を写すのが好きじゃから、撮り鉄で問題になるようなことはしたくないわ。この間もネットで上がってたことなんやけど、鳥取の方で、伯備線を走る特急やくもに使われていた381系が引退する前の試運転で停車しているところ、連結器の上に乗っかって写してる奴の写真がネットで拡散されて、大炎上してたなぁ。あんなんされたらめっちゃ迷惑なんやけどなぁ」

「そんなことあったんじゃね。周りに迷惑かけてまで写した写真なんか、何の価値もないと思うけど」

そう言ったやり取りをしてるうちにいつの間にか寝入った二人であった。

 翌土曜日。郷子と藍が部活に行くのにやってきた。

「いらっしゃい。温也~。郷子さんと藍さんが来たわよ~」

「おはようございます。こまちゃんいますか?」

「いるわよ。今エサ食べてるところ。どうぞ。あがって」

「少しの間お邪魔します~」

そこへ小町がやってきた。

「この子が小町ちゃん?わぁ、可愛い~。小町ちゃん、こっちおいでぇ」

「こまちゃんおはよう。今日もかわいくて美猫さんやねぇ」

そこへ温也がやってきた。

「おはようニャ。わらわは眠たいにゃん」

「かわいくないぞ~」

「ちぇっ。二人してハモらんでもいいのに~」

しばらく小町と遊んで、

「さぁ、今日も部活行くよ。私たちももうすぐコンクールがあるんじゃから、練習頑張らんと」

「そうかぁ、郷子と温也君も、もうすぐ大きなイベントが控えてるんやねぇ」

「そう。これで金賞とれたら、うまくいけば中国大会に出られるかもしれんからね」

「二人とも頑張れ~」

「藍ちゃんサンキュ」

やがて着替えが終わった温也と3人で学校に向かい、郷子と温也は音楽室へ。藍は体育館へと向かった。

その土曜日の練習も終わって、学校帰りに藍も

「小町ちゃんと少し遊んでもいい?」

というので、3人で温也の家まで帰って玄関を開けると、泉と仲のいい宇宙と泉が小町と戯れているところだった。泉が猫じゃらしのおもちゃをゆらゆらさせていると、小町が思いっきりジャンプして飛びつこうとしたり、丸めた紙切れを転がすと、ダッシュして追いかけたり、小町と遊んでいるところに、温也が郷子と藍を連れて帰宅。

「お兄ちゃんおかえり~。郷子さんと藍さんいらっしゃい」

「お邪魔します。こまちゃんただいま。こまちゃん抱っこ~」

「ねぇねぇ。今度は私にも抱っこさせて~」

「じゃあこまちゃん、次は藍ちゃんのところに行こうか

「にゃ~」

「こまちゃん宜しくねぇ。かわいいねぇ。三か月くらいかなぁ?」

「そう。来た時はがりがりにやせ細っててね。よくここまで無事に大きく成長してくれたなって思うよ」

小町は初対面の藍に対しても、すっかり安心したのか、藍の腕に抱かれながらすやすやと眠っている。

 やがて、小町をそっと寝床にまで連れて行って、5人でもうすぐ開幕するパリオリンピック・パラリンピック談議に花が咲いた。藍はやはりバレーの男女の日本代表が気になるという。特に石黒選手は、藍の好きなバレー選手で、実業団の試合も、テレビ中継があるときは見ているという。一方で、宇宙と泉はバドミントンの渡雄太選手と東山理沙選手のコンビがお気に入りで、あの絶妙なコンビネーションは二人とも応援しているという話であった。温也は柔道日本代表や卓球競技を応援しているので、頑張ってほしいっていう思いを話し、郷子はサッカーの男女代表を応援しているのを話して、そのあとに開幕するパラリンピックでは、車いすテニスの小川明人選手、マラソンの道山選手、女子柔道の廣山選手を注目しているなどと言った話が出て、はやくパリオリンピック・パラリンピックが開幕しないかなって話をして盛り上がった。


そして、迎えた日曜日。郷子は温也と一緒に女子バレーボール部の練習試合を見学に行くため、学校に向かった。受付で女子バレー部の練習試合の見学に来たと伝えて、学生証を見せて体育館に入る。

スタメンを見ると、藍の名前があった。2階席からコートを見ると、ユニフォームに着替えた藍の姿が見えたので、

「藍ちゃーん。試合頑張ってねぇ」

「藍ちゃんガンバレ~ファイトー」

「二人ともありがとう。頑張るからねぇ」

やがて、試合開始前のウォーミングアップ。藍は正確にトスを上げる練習を繰り返していた。そのすぐ後ろでは、ほかのメンバーが次々にアタックの練習で、コートにボールを打ち込んでいた。

 そして、14時に練習試合開始のホイッスルが鳴り響き、試合開始。相手の鴻野峰中のアタックを拾い上げて、セッターの藍のところにボールが帰ってくる。藍は誰がどのポジションにいるかを瞬時に見極めながら、味方がアタックを打ちやすいようにトスを上げて、時には豪快にバックアタックを決めるシーンもみられた。そして、藍は高身長と言う自分の持ち味を生かして、前衛に入ったときは相手のアタックをブロックしたり、時には自らの判断でツーアタックで得点を決めたりと、第一セットを25-14で奪い、インターバルの間に2階席から藍に

「絶好調じゃん。その調子で頑張れ~」

「藍ちゃんナイス~。2セット目も頑張ってね」

「二人ともありがとう~。後半もこの調子で行くよ~」

第二セットも山口第一中のペースで試合が進み、藍の活躍もあって、24-20でゲームポイントを握った。そして後衛に回った藍のサーブ。藍のサーブが相手コートのラインぎりぎりのところに落ちて、第二セットも取って、ここで藍は交替。まだ中学2年生ということもあって、フルセットまでもつれた時の疲労も考えての交替で、第三セットからは3年生がセッターとして入り、ほかの先発メンバーも大きく入れ替わった。第三セットは終始追いつ追われつのデッドヒートが続き、先にマッチポイントを握ったが、デュースに持ち込まれた。しかしなんとか26-24で逃げ切って、山口第一中学の勝利でこの日の練習試合は終わった。この日初めて郷子と温也はバレーボールの試合を見たが、かなり迫力があって、面白いと感じた。試合が終わって、2階から降りてベンチサイドに行くと、藍が二人を出迎えてくれた。

「今日は観に来てくれてありがとうね。二人に勝つ所見せられてよかったわ」

「お疲れさま。めっちゃトスが正確に上がってたじゃん。凄いぜぇ」

「いやぁ、まだ私セッターは数試合しか出たことがなくて、あまり自信なかったんじゃけど、今日は自分でもうまくいったと思うわ。将来私は全日本の日の鳥ジャパンに選ばれる選手になりたいっていう夢の第一歩にはなったかな?」

「お疲れ。これ、スポーツドリンク飲んでね。それにしてもすごい迫力じゃねぇ」

「郷子サンキュ。また次も勝てるように頑張るよ~。じゃあ、顧問の先生が呼んでるから、また明日ね」

「じゃあねぇ。私たちは帰るわ」

「うーん。ありがとうねぇ」

手を振りながら体育館を出て、帰宅の途に就いた二人。16時を過ぎて家に帰って、夕方のニュースを見ていたら、昨日光が話していた撮り鉄の問題行動に関して、列車の安全運行を妨害したとして、県内に住む男性が逮捕されたというニュースが報道されていた。容疑者は

「自分は大丈夫と思っていた。自分のお気に入りの写真がどうしても写したかった」

などと話しているそうで、温也は

「逮捕されたってか…。危険なことをしてまで写して、他人に迷惑かけて…。絶対俺はあぁなりたくないな」

そう思った次第である。

 そして、いよいよ7月に入って、次のレノファ山口の観戦の日がやってきた。

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