第14話14回目のバースデー
5月6日。郷子は14回目のバースデーを迎えた。今日は温也と一緒にミラスタまで行って、レノファの試合を観戦することになっている。キックオフは14時。11時ごろに自転車で向かうのに、昼食用のコロッケとポテサラを作って、タッパに二人分詰め込んで、ご飯とお茶も用意して、用意も済ませてゆっくりとテレビを観ていた。
温也も7時ごろには起きて、朝食を済ませて、11時前に家を出て、真向いの郷子の家に向かった。ベルを鳴らすと郷子が出てきて、温也は
「誕生日おめでとう~🎉。今日はたくさん楽しもうぜ」
と言って、言葉で郷子の誕生日を祝福。郷子も
「あっくんありがとうね。これからもよろしく💕」
と言って、家を出た。初夏の風が心地よく吹き抜ける中、自転車をこいで途中で椹野川を渡って、矢原駅のすぐ近くの踏切を渡って、次の交差点に差し掛かって、温也が
「郷子、ちょっとおやつ買っていかない?そこの信号を左に曲がってちょっと行ったら、パン屋さんがあるから」
「いいよ。じゃあ、ちょっと寄り道していこうか。はるかぜパンていうお店じゃろ?」
「そうそう。うちのお袋がこの前ちょっとおやつに買ってきてくれたんじゃけど、おはぎのパンがおいしかったから、それ一個ずつ買っていこう」
「ラジャリンコ~。それじゃあ、信号を左に曲がるべェ~」
そうして矢原駅近くの踏切を渡って最初の信号を左に曲がっていった。やがてパン屋さんの看板が目について、駐車場すぐ近くの駐輪場に自転車を止めて、おはぎのパンを一個ずつ買った。郷子がお金を払おうとしたので、
「今日は郷子の誕生日なんじゃから、俺におごらせて」
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきまする~。ありがとうね。あっくん大好き」
そう言って、出しかけた財布をカバンに戻して、支払いを済ませて郷子に買ったパンを持ってもらって、ミラスタへ向かった。レジの人が
「今日はレノファの試合観に行くの?勝てるといいねぇ」
と言っていた。二人はレノファキャップをかぶっていて、郷子は河村選手のサイン入りのユニフォームを着ていたので、ファンだということが分かったみたいである。
「そうです。今日は山形戦なんですけど、勝ってくれたらいいんですけどね」
「応援頑張ってね」
「ありがとうございます」
そう短い言葉を交わして、自転車に乗り込んで吉敷川の橋を渡って、維新公園前の交差点に到着。そして、競技場の中に通じる道路を歩行者もいるので自転車を降りて、競技場に併設されている駐輪場に自転車を止めて、ツーロックかけて荷物を降ろして、チケット売り場に向かった。学生証を提示してバックスタンド側のチケットを購入して、まだ試合開始まで時間があるため、木陰で休んでお茶を飲みながら一息ついて、12時の時報が鳴ったので、
「それじゃあお昼にしよっか?」
「そうやな。おなかもすいてきたしな」
「今日はね、コロッケとポテサラを作ってきたよ。いっぱい食べてね」
「サンキュー。郷子の作る料理はおいしいから嬉しいわ。本当郷子はいいお嫁さんになると思うよ」
郷子は温也にそう言われて、カーッと顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「もう、あっくんハズイじゃん。でもそう言ってもらえると嬉しい」
そんな話をしていると、トシと藍が通りかかった。二人も試合を見に来たようである。
「トシに藍ちゃんじゃん。二人も試合見に来たんけ?」
「そう、せっかくの連休最後の日じゃからね。藍に声かけたら一緒に行くってことになってね。それで二人で来たんよ」
「そう。トシ君が声かけてくれてね。一緒に行こうって。郷子はどこで観るん?」
「私たちはバックスタンド側。二人は?」
「俺たちもバックスタンド側。今日は郷子ちゃんの誕生日じゃったね。おめでとう。それじゃあ俺たちは先に行くよ」
「じゃあね~。」
トシと藍の二人を見送って、温也が
「ひょっとしたら二人も付き合うんやないかな?」
「そうなるかもねぇ。今の二人の雰囲気、なかなかいい感じじゃったしね」
そんな話をしながら郷子が作ってくれたお弁当をおいしく食べて、お茶を飲みながら喉を潤して、12時半。まだ5月のはじめと言っても、昼過ぎともなるとかなり日差しは強く、結構暑くなってきた。タオルを持ってきていたので、流れる汗を拭きとりながら試合開始を待っていた。そしてキックオフの14時を迎えて、試合がスタート。前半からレノファが結構押し込んでいて、前半33分。新田海斗選手がボレーシュートを決めて、先制に成功して、郷子も大喜び。今日も郷子の大ファンの河村選手も先発出場で試合に出ていて、なかなかいい攻撃と守備を見せていた。
「孝介くーんガンバレ~。いいぞ~。その調子その調子~」
と目いっぱいの声を上げて気合い入れて応援していた。そして先制点の興奮も冷めやらぬ前半39分に若田ヤマト選手が追加点を奪い、前半を2‐0でリードして終えて、郷子のボルテージもどんどん上昇していって、温也も郷子と一緒に熱い声援を送って、ハーフタイムを迎えた。前半終了のホイッスルが鳴り響くと、郷子と二人でハイタッチして、
「このまま後半も相手を抑えて勝つよ~」
小腹が空いてきて、おやつで買ったはるかぜパンのおはぎのパンを食べて小腹を満たした。
そして、後半開始のホイッスルが鳴って、レノファの攻撃が優勢で、終始相手陣地での攻撃が続いて、後半も30分を過ぎて、郷子の大好きな河村選手が後退して、
「あぁあ。孝介君交替しちゃった~」
「これは、この2点を守り勝つってことなんやないかなぁ?」
「そうかもねぇ。今日はこのまま勝つよ~」
そして、後半45分が過ぎて、アディショナルタイムを迎えて、相手の反撃を抑えて見事レノファが勝利をおさめて、あらためて郷子とハイタッチ。抱き合って勝利を喜び合った。
「やった~。勝った~」
「よかったじゃん。今年はJ1昇格のPOも狙えるんじゃね?」
「まだまだ気が早いよ。これから厳しい戦いがまだまだ続くんやからねぇ」
そしてレノファの勝利を見届けて、今度は郷子の家に向かう。そう、郷子の誕生日のお祝いがこれから郷子の家で行われるので、温也も一緒に参加することになっていて、17時半ごろに郷子の家に着いて、
「ただいま~。レノファ勝ったよ~」
「よかったねぇ。お帰り」
「お邪魔させていただきます」
「温也君も、早く中に入って。郷子の誕生日のプレゼントありがとうね。郷子すごく喜んでたよ」
「いえいえ。郷子さんに喜んでもらえたらよかったです」
そして、やがて仕事を終えて帰ってきた望も加わって、上田家の3人と温也を加えた4人でのささやかながらのバースデーパーティーが行われた。桜が作ってくれた空揚げやクリームシチュー、鯛の刺身にハッシュドポテトなどが食卓を彩り、
「郷子、誕生日おめでとう。郷子ももう14歳かぁ。大きくなったなぁ。これからどんどん大人になっていくんじゃろうなぁ。あと10年もしたら郷子にも子供が生まれてるかもしれんなぁ」
「もうお父さんたら気が早いって言うの。今からそんなんじゃあ、結婚式の時はハンカチじゃ足りなくて、バスタオルがいるようになるかもよ」
「でも、俺も郷子とは将来一緒に暮らせたらいいなって思うよ。まぁ、高校卒業して大学行って就職して、そのあとくらいになるかなぁって思うけど」
「私も早く自分の孫の顔見てみたいわ。おばあちゃんて呼ばれるの、結構楽しみやからね。さぁさ、郷子、それじゃあ音頭を取ってくれない」
「はーい。じゃあ、今日は私の誕生日を祝ってくれてありがとう。私も今日で14歳になりました。まだまだこれからいろいろとお世話になると思いますが、よろしくお願いします。それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
そして、皆で美味しく夕食をいただいて、
望が郷子の小さいころの話を聞かせてくれた。
「郷子は小さいころは体があまり丈夫じゃなくて、気管支喘息を抱えていたんやけど、音楽が好きでね。小さいころから楽器を演奏してて、小学校の高学年になると、小学校の合奏クラブでトロンボーンを吹くようになってから、だんだん丈夫になっていって、中学校に入るころには喘息の症状も出なくなってね。だいぶ落ち着いてきたところ。郷子が喘息をこじらせて肺炎を起こして入院していたところ、たまたまレノファの河村選手が、郷子がチームに送ったメールを読んでくれてね、病室に見舞いに来てくれてね、サインボールとサイン入りのレノファのユニフォームをプレゼントしてもらえて、それからずっとレノファのファン。そしてこうして温也君と出会えて、きちんとした交際をしてくれて、父親としては本当にうれしいって思うよ。温也君、本当に郷子と付き合うことを選んでくれてありがとうね」
「そうだったんですね…。郷子にはそんなことがあったなんて…。でも今は学校でも郷子は元気に音楽の演奏を楽しんでますよ。それに学校でも明るく元気に過ごしてますし」
「もうお父さん、そんな話しなくてもいいでしょ。もう私も元気になって、あっくんも私のこと応援してくれてるし。でも、お父さんありがとうね」
「お父さんも郷子のことがかわいくて仕方がないのよ。やっぱり自分の娘がいつも笑顔で明るく過ごしてくれるのが、親にとって一番うれしいことじゃからね」
「まぁ、そう言うこと。自分の子供が一番かわいいし、子供が悲しそうな顔してたら、親にとっても辛い事やからね。それが親心っていうもの」
そう言って、夕食を済ませると、郷子の誕生日のために買ってきてくれていたケーキをいただくことになった。郷子の大好きな平川地区にあるスフレっていうケーキ屋さんにイチゴのホールケーキと、ずっしりと重みのあるシュークリームが一個ずつ。郷子はイチゴが大好きで、ケーキと言えばイチゴだそうである。
「ハッピーバースデートゥーユー・ハッピーバースデートゥーユー・ハッピーバースデーディアー郷子~。ハッピーバースデートゥーユー」
ケーキを囲んで、温也がデジカメで郷子ファミリーを写して、次は望にカメラマンを代わってもらって、温也が今度は郷子の隣に座って肩を組んで写真を写して、郷子の誕生日という記念日に一緒の時間を過ごすことが出来て、温也にとっても大事な記念日となった。
誕生日のパーティーが終わって、20時になったので、温也も家に帰って、寝る前に郷子とラインで話した。
「今日はお疲れさま。レノファも勝ったし、郷子の誕生日もお祝いすることが出来たし、俺にとっても今日は記念の日になったよ」
「あっくんありがとうね。私にとって、生まれて初めて、大切な彼氏と一緒に向和えることのできた誕生日。今日写した写真は一生の記念にするよ」
「じゃあ、パソコンに取り込んだから、今から郷子のラインに送るわ」
「ありがとう~」
「郷子、めっちゃいい顔してるやん。すっごい幸せって感じが伝わってくるわ」
「そう?ちょっとあっくんと一緒に誕生日を祝ってもらえたから、すごい嬉しそうな顔してたと思うけど」
郷子のラインに写真を転送して、写真を見た郷子から
「本当にねぇ。あっくんもすごい楽しそうっていうか、幸せな顔してるよ」
「俺も今日の写真は大事に残しておこうっと。やっぱりデジカメあってよかったわ」
「それじゃあ、今から風呂に入ってくるわ。明日からまた学校やなぁ。このゴールデンウィークはいろいろ楽しいことがあって、思い出がたくさんできたからよかったなぁ。また明日から部活頑張ろうぜ」
「私もお風呂入ろうっと。そう、明日からコンクールに向けた練習も再開するからね。コンクールで金賞とれるように頑張ろう。金賞とって、中国大会に出場できたらいいんやけどね。それじゃあお休み」
「郷子のお風呂かぁ…。ムフフ」
「あっくん、今なんか想像してない?」
「いやいや。俺も思春期を迎えた男やからねぇ」
「もう、あっくんのスケベ・変態・エッチ」
「でも、冗談抜きで、俺と郷子の二人の子供ってどんな感じなんやろううなぁ」
「きっとかわいいと思うよ~。それじゃあお風呂に入ってくるからね。変なこと想像せんのよ~。本当スケベなあっくんなんじゃから」
「ほーい。ゆっくり浸かって疲れ落とすんだぞー」
そう言って、今日はそのまま眠りについた二人であった。
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