第13話郷子の誕生日前日
まもなく迎える5月6日。温也は郷子への誕生日プレゼントは何がいいか、色々と考えいた。レノファ試合のチケットにしようかと思ったが、やはりずっと手元に残るものがいいかなと思い、彼女が大好きなクラシックのCDを手渡そうと思い、ペールギュントが収録されているCDをアマゾンで手に入れて、5月5日に到着するように注文して、さらに郷子と出かけて、誕生日のプレゼントを一緒に観に行こうと考えていた。
「郷子さぁ、今日は何か予定はある?」
「今日はねぇ、お昼からなら大丈夫よ~。午前中は明日の用意したりしてると思うから」
「りょうかーい。じゃあ昼めし食ったらそっちに行くわ」
「ラジャリンコ~」
と言うことで、昼から郷子とプレゼント選びに行くことになった。中学生のお小遣いなので、あまり高価なものは買えないけれど、温也にとっては、初めて自分の大切な彼女に手渡すプレゼントとなるので、これから夏に向けて、郷子にはTシャツを買って渡そうと思っていた。だが、さすがに郷子の服のサイズを直接聞くわけにもいかなくて、一緒に来てもらえたらと思った次第である。
やがて昼食が済んで、郷子の家に向かうとき、泉が
「お兄ちゃん、明日の郷子さんの誕生日プレゼント、買いに行くんやろ~?」
と話しかけてきた。
「そう。明日が誕生日やからな。俺にとっては初のバースデープレゼントを恋人に手渡すという、一大イベントや~」
「なんか、朝からすっごいにやけてたもんなぁ」
「えぇ?俺、そんなに顔に出てた?」
「うん。はっきり顔に出てた。明日は俺の彼女の誕生日なんや~って、顔に書いてあったわ」
「嘘つけ。俺はそんなににやけた顔しとらんわ」
「まぁまぁ、顔が真っ赤になってるやん。いっしっし~」
「そう言う泉は今日はどうするんか?」
「私?私は今日は家でゲームやってる」
「ふーんそうかぁ。じゃあ、俺は出かけるから。戸締りちゃんとしとけよ~」
「わかってるって。じゃあ気をつけて行ってらっしゃい」
そうして家を出て、郷子の家に向かった。家のチャイムを押すと郷子が出てきた。
「郷子、きたで~」
「はーい。あっくん?ちょっと待ってねぇ」
そうして玄関のドアが開いて、
「じゃあ、ちょっと買い物に付き合ってくんない?」
「いいよ。どこに行くの?」
「大内のゆめタウン。ちょっと買いたいものがあって」
「OK。じゃあ、ちょっと待ってて。財布取ってくるから」
「ほーい」
そして郷子と一緒に自転車こいで、大内のゆめタウンに到着。自転車置き場に自転車を止めて、ロックかけて店の中に入っていった。そして郷子のプレゼントを買いにTシャツを選ぶのに、レディースファッションのフロアに到着。
「明日誕生日やろ?何がいいかなぁって、いろいろ迷ったんやけど、これから夏に向けて暑くなるから、Tシャツなんかいいかなって思ったんやけど。他に欲しいものがあったら言ってね」
「ありがとう~。暑くなるから、シャツは何枚あっても足りないのよねぇ」
「そうかぁ。ただ、サイズがいまいちよくわからんかったからなぁ。できれば内緒で買いに来て、明日手渡ししたかったんやけどね」
「めっちゃ嬉しい。サンキュ」
「俺、自分の好きな子に誕生日プレゼント渡すのって、初めてやから、なんかめっちゃドキドキしてるわ」
「私も、恋人として、男性からプレゼントもらうって今までなかったからねぇ。ありがとうね」
「で、どんなのが似合うかなぁ?俺的には夏の沖縄っぽいような、水色っぽい色か、夏の夜空を代表する、さそり座の1等星、アンタレスをイメージさせる赤っぽい色が似合うかなぁって思ったけど。郷子はどちらかと言うと肌が色白やから、水色っぽいシャツが似合うと思うけどなぁ」
「あっくんは、私にそう言う系統の色を着てほしいの?じゃあ、大事な彼氏の意見を取り入れて、これにしますか~」
あれこれ見て、選んだのが、ヤシの木をバックに沈む夕日がデザインされた、トロピカルなTシャツを選んで、レジに進む。
「これ、彼女の誕生日のプレゼントなんです。包んでもらっていいですか?あと、可愛いリボンをつけてもらえたらと思います」
店員がきれいに包んでくれて、リボンをつけてもらって、ゆめタウンを出た。自転車をこいで、来た道を戻って、家の前に着くと、
「明日は誕生日やなぁ。14歳になる感想は?」
「うーん。やっぱり、あっくんにお祝してもらったのが一番うれしい。14歳になったからと言って、今までと大きく変わることはないけど、ちょっと大人に向かって背伸びしてもいいのかなって思う」
「まぁね、一生に一度しかない14歳の誕生日。明日は家族でお祝いするんか?」
「うん。お父さんは休日出勤があるから、明日の夜になるけど、あっくんも来てくれない?」
「俺もお邪魔してもいいの?絶対行く~」
「で、今日は何するの?」
「この前観た、銀河鉄道999の続編のさよなら銀河鉄道999観るか?」
「わかった。じゃあ、あっくんの家にお邪魔させてもらってもいい?」
「いいぞ~。泉はゲームやってるから、まぁ、俺たち二人で楽しもうぜ」
「泉ちゃんは何のゲームやってるの?」
「泉はねぇ、今日はサッカーのゲームやってるみたい」
「泉ちゃんて、本当にポーツ大好きなんじゃねぇ。ゲームまでスポーツかぁ。将来は何かの有名な選手になったりしてね」
そう言いながら、リビングにあるテレビとDVDの電源をオンにして、DVDを再生させる。
最初は重苦しい雰囲気の中始まって、機械化人との戦いで、すっかり荒廃してしまった地球が描かれて、鉄郎たちは機械化人の理不尽な支配に必死に戦って、やがて2年前に別れたメーテルから鉄郎に
「999号に乗れ」
というメッセージが届き、そこから一緒に戦った戦友たちの尊い命と引き換えに、鉄郎は999の発着するメガロポリスに到着し、機械化人の攻撃を受けながらも、何とか999に乗り込んで、宇宙へと旅立って、やがて思いもよらない事実を知ることになり、最後の機械化人との決戦へと向かうことになる。そう言ったストーリーで、これも2時間以上ある大作で、今回も郷子はずっと見入っていて、最後のエンディングでは、鉄郎が少年から大人へと駆け上がっていく姿に、感動の涙を流していた。
「黒騎士が出てきたときは、どうなることかと思った~。黒騎士って鉄郎の実のお父さんなんよね?」
「そう、鉄郎にとっては実の父親。キャプテンハーロックたちとかつては仲間だったっていう設定になってるよ」
「でも、いろんな事情があったにせよ、実の息子と戦わなければならなかったのは、すごい複雑な気分」
「でも、あの対決に勝たなければ、鉄郎の未来はなかったんやろうと思う」
「それで、今回はメーテルと結ばれるのかなって思ったけど、やはり別れがあったんやねぇ」
「鉄郎にとっては、メーテルって青春時代の、ほのかな甘酸っぱい初恋だったんかもしれんね」
「今日も感動したわ~。私にとっての鉄郎は、あっくんやけどね」
「えへへ~。じゃあ、俺にとってのメーテルは郷子やな。喉乾いたからなんか飲む?確かオレンジスースがあったと思うけど」
「じゃあ、ありがたくいただくでごわす」
冷えたオレンジジュースを飲みほして喉が潤った二人。時間を見ると17時過ぎてたので、郷子は家に帰っていった。
「じゃあまた明日な」
「あっくんもねぇ」
郷子を見送って、瑞穂がパートの仕事を終えて帰ってきた。
「温也・泉、帰ったよ。はぁ今日は忙しかった~」
そう言って、買い物袋をテーブルにおいて、親子で夕食の手伝い。やがて今日の乗務を終えた光も帰ってきた。
「お父さんお帰り」
「ふー。ただいま」
やがて夕食が出来上がり、家族4人そろって夕食。今日はアジのフライに刺身とみそ汁と瑞穂特製のコロッケ。皆美味しそうに食べて、風呂も済ませて、明日の郷子の誕生日を楽しみに眠りについた温也であった。そうして郷子の誕生日を迎えたのであった。
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