第11話ゴールデンウィーク後半突入

 ゴールデンウィークの平日の谷間には授業があって、吹奏楽の練習も行われる。吹奏楽部の夏のコンクールの課題曲の威風堂々の練習も本格的に始まって、まずは第一楽章の練習。最初はトロンボーンが主旋律を担うので、温也や郷子・そしてながちゃんやたかやんたちもかなり気合が入っていて、最初から大きく息を吹き込んでノリノリで演奏していた。最初はちょっと音が合わなかったり、少しリズムが皆でずれたりしたが、それも練習を繰り返すうちにきちんと合うようになって、大体のリズムをつかめるようになって、あとは音の強弱記号や、スタッカートなどの記号に注意しながら通しで音を出しながら合わせるところまできた。初日は第一楽章のみの練習となったが、ゴールデンウィークの谷間の平日の3日間の練習では、2日目の水曜日に第二楽章、木曜日に第三楽章から最後までと言う風に練習を重ねて、連休明けから通しで演奏の練習するカリキュラムが組まれた。そのゴールデンウィークの谷間の部活動が終わって、連休後半に入った。子供の日は郷子と一緒に篠目駅までSLを写しに山口線の列車に乗って出かける。郷子は朝早くから起きて、この前試食を兼ねて作った関西風お好み焼きを作っていた。温也がだいたいどれくらい食べるかわかったので、それに合わせて材料を用意して、まずはキャベツをみじん切りにして、さらにニンジンや長芋、レンコンなどをミキサーにかけて、細かくしてキャベツと混ぜ合わせて、さらにはもやしや玉ねぎも細かく刻んで投入。それに小麦粉や粉チーズ、それからベーキングパウダーに胡椒にだしの素を入れて、牛乳を入れて生地を捏ねて、生地が完成するとホットプレートにサラダ油をひいて、マヨネーズとお好み焼きソースを小さめのタッパに詰め込んで、ホットプレートが適温になると、生地を入れて焼いている間に豚バラ肉をのせて焼き色が着くまで焼いて、一時間ほどで完成。ラインで温也に

「お好み焼きで来たよ~。今日はからしマヨネーズにしよっか?」

「郷子サンキュー。からしマヨかぁ。それもいいかもねぇ」

「で、今日は9時ごろ家を出る?湯田温泉駅まで歩いていくんじゃろ?」

「うん。じゃあ、9時ごろに郷子の家に行くわ」

「ラジャリンコ~」

「じゃあまた後でねぇ」

そうして、郷子はお好み焼きを焼いて、半分に切って二人合わせて6枚分をタッパに詰めて、あとは飲み物で麦茶をボトルに入れて、紙コップも用意して8時半を迎えた。

「さてと少しゆっくりしますかぁ」

温也も朝食を済ませて、出かける用意をしていると、瑞穂が

「今日は山口線に乗って出かけるんじゃろ?お父さんは今日、山口線の運転業務に就くって言ってたから、ひょっとしたらお父さんの運転する列車に乗るかもしれんねぇ」

「そうなん?でもお父さん運転してたら話することもできんけど、ちょっと親の仕事してる姿を見られるってのは嬉しいな」

「お父さんね、温也に篠目までSLを写しに山口線乗っていくって話したら、「そうかぁ。息子に親の仕事してるとこ、一度見せてあげたい」って言ってね、喜んでたわよ」

「へぇ~。お父さんもやっぱり子供の成長ってうれしいんやねぇ」

「そりゃそうよ。親って子供の成長を見るのが楽しみで、仕事頑張れるって言うのもあるからね」

「わかった~。そう言えば泉は?」

「泉はね、今日はクラスメイトと遊びに行くって言って、さっき出かけたわよ。学校の校庭で皆で野球するって言ってた」

「そうなん?泉って野球とかサッカーとか、本当に好きやもんなぁ。誕生日のプレゼントでも、野球のグローブが欲しいっていうくらいやからねぇ。それじゃあ今から出かけるわ」

「はーい。気をつけて行くのよ」

郷子の家の前に行って、ベルを鳴らす。郷子が出てきて

「あっくんおはよう。今日は少し暑くなりそうやから、大きめのボトルに麦茶いっぱいに入れてきた。これお好み焼きね。あっくんはボトル持ってくれない?」

「ほーい。じゃあ、出かけよっか」

「うん」

「郷子はあまり列車とか電車に乗って出かけるってことはないの?」

「私?私はだいたい出かけるって言ったら、近所の場合は自転車じゃし、遠くに出かけるって言ったらお父さんかお母さんの車に乗ってっていうことが多いかなぁ。電車に乗って出かけるって言うのは、新幹線に乗って大阪に行くくらいかなぁ」

「まぁ、そんなもんかなぁ?山口って車社会やからねぇ」

「そうなんよねぇ」

「それにしても、郷子のお父さんの車、めっちゃ乗り心地がいいじゃん。流石日本の大手の自動車メーカーが作った車だけあるわ」

「そう、お父さんは車の開発も関わってるからね。お父さんも自信のある力作って言ってた」

「そうかぁ。俺も免許取ったら乗ってみたいなぁ」

「ぜひ買ってね」

そうこうしているうちに湯田温泉駅に着いて、9時53分発の山口行に乗って、山口駅では1番線ホームに入線している益田行に乗り換える。ホームを移動していると、光がやってきた。これから益田行の列車の運転をこなすという。益田まで運転して、16時39分益田発の列車の乗務をこなして、新山口まで帰ってきて、今日の乗務が終わるという。

「温也、今から篠目まで行くんか?」

「あ、お父さん。そう今から出かけるわ」

「お父さん、お仕事お疲れ様です。今日は少しの間ですけど、お世話になりますね」

「郷子ちゃんも今日は温也の趣味に付き合ってくれてありがとうな。将来の息子の花嫁さんを無事に送り届けんとあかんなぁ」

そう言って、笑顔を見せながらキハ47の運転台に座った。そして車内アナウンスを行って、各機器の点検を済ませて、発車準備を整えて、定刻通りに山口駅を発車した。ここから篠目駅までは上山口・宮野・仁保と進んで、田代峠を越えて篠目駅へと下っていく。宮野駅までは椹野川に沿って進んでいって、郊外の雰囲気もあるが、宮野を過ぎると急こう配を駆け上っていく。キハ47はエンジンをふかして勾配を上っていくが、SLにとってはかなりの急坂で、スピードが落ちて、黒煙を目いっぱい吹き上げながら登るところである。そして山口線最初のトンネルを潜り抜けて、仁保駅に到着。そして仁保駅を出発するとすぐにトンネルに入って、田代峠を越えていく。

「いつもなら車で国道9号線を通っていくけど、電車に揺られてのんびり行くのもいいねぇ」

「そうやろ?車では味わえない雰囲気があるし、車窓もみられるからね」

「もっと長距離のれば、列車の車内で駅弁食べたり、コーヒーとかジュース飲むこともできるしね。また今度電車に乗ってどこか行こうね」

「OK。また計画立てておくわ」

そんな話をしていたら、篠目駅に到着。

「温也、郷子さん気をつけてなぁ。熱中症にならんようにな」

「ほーい。お父さんも気をつけてよ」

「お父さん、行ってらっしゃい」

「ありがとさーん」

そう言って、光はキハ47を操作しながら益田方面に向けて発車していった。

「さて、10時44分について、これからどうする?SLの発車時間は12時なんじゃろ?まだお昼には早いし、何する?」

「えっとねぇ、この近くに神社があるってグーグルマップで出てたから、ちょっと歩いて行ってみよっか」

「ラジャリンコ~」

そうして、篠目駅から歩いて数分のところにある網野神社に行ってみた。この神社、駅からすぐ近くにあるのであるが、途中かなり急な階段を上っていくので、結構息が上がる。はぁはぁ言いながら、境内について、お賽銭を投げ入れて、手を合わせて温也は

「郷子とこれからも仲良く過ごせますように。夏のコンクールが成功しますように」

と祈りを込めて、郷子は

「あっくんとこれからも一緒にいられますように。夏のコンクール、うまく演奏できますように」

そう祈りを込めた。そして、温也は郷子に

「郷子はなんてお祈りしたの?」

「私はねぇ。ひ・み・つ」

「えぇ。教えてくれたっていいじゃん」

「それはね、私とあっくんがもっと大人になってから教えてあげる」

「ふーん。じゃあ、それまで楽しみにとっておこっと」

やがて、神社を出て、駅に戻る。小腹もすいてきたので、駅の待合室で郷子が作ってきたお好み焼きを食べる。

「うーん。うんまい。やっぱり郷子の作る料理はうんめぇ」

「美味しそうに食べてくれてありがとうね。私もいただきます」

そうして、二人で仲良くお好み焼きを食べて、お腹がいっぱいになった。麦茶でのどを潤して、温也がカメラを取り出して

「郷子、ちょっとモデルになってくんない?」

「えぇ。私も一緒に写るの?なんかちょっとハズいんじゃけど…」

「いいじゃん。これからもっとたくさんいろんなところに出かけて、たくさん一緒の時間を過ごすようになるんじゃから」

「まぁねぇ。でも私あまり写真写りよくないよ」

「大丈夫。郷子はいい笑顔してるし、めっちゃ綺麗な顔してるよ」

「そうかなぁ?じゃあ、綺麗に写してね」

そうして、郷子をモデルに駅の中や駅の外れに残る給水塔や、腕木式信号機なと絡めてうつした。太陽光線の入り具合や、バックの風景の入りなどを考慮しながらいくつか写して、時間を過ごしていると11時半を過ぎていた。そろそろ、SLの入線して来るのを頭でイメージしながら、カメラの位置を修正して構える。郷子も自分のスマホでいろいろカメラアングルを考えながら試し撮りしていた。そして、駅のすぐ南側にある踏切の警報機が鳴動しだして、SLが汽笛を鳴らしながら入線してきた。温也は連写で写して、さらに停車したやまぐち号を写し、ホームの一番津和野寄りに行ってD51と給水塔を構えて写したり、35系客車を写したりして、やがて列車は汽笛を目いっぱい鳴らしながら津和野に向けて発車していった。SLが発車した篠目駅のホームは、再び静かさを取り戻していった。

 そして、温也が写した写真を郷子と一緒に眺めながら、どの写真がいいとか、これ後で送ってねとか品定めをしていた。

「また帰ってから、俺の部屋のPCで確認してみよう。デジカメの表示画面では、細かいところはわからんからね」

「そう?じゃあ、帰ったらあっくんの方にちょっとお邪魔してもいい?」

「いいぞ~」

やがて、山口行の列車に乗る時間となり、ホームに出て、遠くからヘッドライトを光らせながら近づいてくるキハ40に乗って、すいた車内の座席に座って、山口駅までのひと時を過ごす。進行方向右側に座っていくつかのトンネルを通過して、仁保駅に着く。そして、山口駅で乗り換えて、一駅先の湯田温泉駅で降りて、さっそく温也の家で、撮影した写真をPCに読み込ませて、どれがいいかいろいろと見てみて、駅舎を写した中から1枚・待合室の中で写したものから1枚・駅構内で写したものから1枚・そして、郷子が知らない間に写した、SLを写すのに夢中になっている郷子の背中側から写した写真を温也が郷子にプレゼント。

「えぇ?これいつの間に写したの?」

「ふふーん。だって、写すぞって言ったら、普段の郷子写せないじゃん。だから、夢中になってる郷子をそっと写したの」

「ずるーい。今度私もあっくんの普段の顔をカメラに写すんじゃもーん」

わちゃわちゃ言いながら、あれがいいとかこれがいいとか、二人で楽しく選んで、プリントアウトして郷子に持たせた。そして、さらに郷子に秘密にした、もう一つ郷子を写した写真をスマホに写していて、

「この郷子がはしゃいでいる写真、これは俺だけの秘密にしておこうっと」

35系客車を写すのに夢中になっていた郷子の横顔を写したものを宝物にして、待ち受け画面に設定したのであった。

 写真選びをしていて、夕方になって郷子も自宅に戻って、自分が写した写真をFacebookやインスタに挙げて、夕食を済ませてから、温也にも自分が写した写真を送って、

「今日はありがとうね。列車に乗っていくのも、結構楽しいものじゃね。今度また」一緒にどこかに行こうね」

「そうやねぇ。今度は九州の志賀島に行ってみるか?多分夏休みに行くと思うんじゃけど」

「志賀島って言うと、ええと、確か金印の発見されたところじゃったよね」

「そうそう。歴史の授業で習ったところ」

「どれくらいの時間で行けるの?」

「ええとねぇ。下関までが新山口駅から乗ったら1時間20分くらい。それから小倉駅まで15分・門司駅から博多の手前の香椎駅までが快速電車で1時間20分くらいやから、乗り換え時間もあわせて3時間ちょっと。それから香椎線ていう路線に乗り換えて20分ほどで着くから、8時くらいの電車に乗ったら、11時半くらいには西戸崎駅に着いて、そこから西鉄バスに乗っていくから、12時前にはつくよ」

「へぇ。結構乗り換えがあるんじゃ。ちょっとした旅行みたいやね。じゃあ、志賀島とか、金印について一緒に詳しく勉強しようや」

「いいぞ~」

「じゃあ、夏休みのコンクールが終わって、部活の練習が中断するときに行こう」

「わかった~。じゃあ、スケジュールはあっくんに任せて、私はまた料理作っていくね」

「頼んますわ」

そうして、夏休みの予定の一つが決まって、また楽しみが増えた郷子であった。

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