第10話山口へ帰る
河内長野で過ごす最後の夜を迎えて、郷子はお土産に551の豚まんを買って、明日温也に渡そうと思っていた。新山口駅まで迎えに来てくれるということで、3日ぶりに会うのを楽しみにしていた。
「早く会いたいな…♬」
そう思いながら眠りについて、翌日の29日。ゴールデンウィーク前半最後の連休ということで、天気も晴れていたので、気持ちのいい朝を迎えた。昼前まで再び祖父母の顔を見に施設に行って、今日帰ることを伝えて、昼前に戻ってきて、大阪滞在最後の昼食を済ませて、難波でお土産の豚まんを買うために、温也に伝えていた時刻よりも早めの電車に乗って、駅を後にした。
「お父さん、あっくんにお土産買って帰りたいから、少し早めに出ない?」
「彼には何買って帰るんじゃ?」
「やっぱり551の豚まんが一番喜ぶんじゃない?あれ、おやつにもいいし、夕食にも使えるからね」
「わかった。じゃあ、予定より30分早く出るか」
「やった~💕。お父さんありがとうね」
「本当、温也君のこと好きなんやなぁ。父親としてはちょっと切ないけどなぁ😿」
「何?ひょっとしてお父さん、私がお嫁に行くときのこと考えてるの?」
「まぁな。俺の一人娘として、やっぱり幸せになってほしいもんなぁ」
「お父さん、今からそんなんじゃあ、郷子の結婚式の時は、ハンカチじゃなくて、バスタオルが必要になるねぇ」
「本当。でもありがとうね。私のこと考えてくれて」
「いやいや。あと10年もしたら、郷子はお嫁さんになってるかもしれんなぁ」
そうして、大阪を出発する時間になって、高野線の電車に乗って難波駅に到着。途中堺東や、三国ヶ丘などで多くの乗客が乗ってきて、車内はかなりギューギュー詰め状態になって、やがて岸里玉出を出たところで南海本線が寄り添ってきて、複々線状態で難波駅に到着。改札前の551の直営店で豚まんを購入。ほっそりとした体形からは想像できないくらい、意外と食欲旺盛な温也なので、1回で2個は軽く食べるだろうということで、夕食の分と、おやつの分と合わせて温也には6個入りを、温也の家族の分とは別に買って、温也の家族には3人で6個買って、改札を抜けて大阪メトロ御堂筋線乗り換え改札に向かって、その間に温也に
「あっくんへのお土産~。これ好きじゃろう~」
と豚まんの写真と、特急こうやのお土産として、キーホルダーを写してラインを送った。
「おぉ。豚まんやん。これめっちゃおいしいんよねぇ。さんきゅ。もうそろそろ難波を出発するところかぁ?」
「そう。今から御堂筋線に乗って新大阪に出るよ」
「わかった~。御堂筋線はめっちゃ混むやろ?痴漢とかも多いから気をつけろよ」
「うん。荷物でおしりガードしとく。それとお父さんもすぐ近くにいるから、たぶん大丈夫と思うけどね。心配してくれてありがとうね」
「いやいや。大事な郷子やからね。また新大阪に着いたら連絡してね」
「ラジャリンコ~」
「ほなまたあとでなぁ」
郷子からのラインが入って安心した温也であった。それからしばらくすると歳也がやってきた。
「おーい温也~。今からちょっと時間あるかぁ?」
ちょうど温也は昼食を済ませた後で、12時を少し過ぎたところであった。
「14時までやったら大丈夫やけど?」
「そうかぁ。今日学校で山口北中と練習試合があるから、グローブ持ってきたんやけど、試合開始まで時間があるから一緒に学校のグラウンドでキャッチボールしようぜ」
「おぉいいぜ~」
温也は自分が持っているグローブを取り出して、歳也と一緒に歩いて学校のグラウンドに向かった。今日は練習試合があるということで、集合時間は13時30分だそうであるが、少し早めに行って練習しておきたいということであった。
「トシは今、練習はどんな感じなん?」
「今はセカンドの守備についてるよ。3年生が夏休みの大会が終わったら引退するから、1・2年生で連携をとれるようにするってことで、今はセカンドで1年生とレギュラー争いしてるわ」
「そうかぁ。セカンドって言ったら有名な選手が多いもんな。俺はプロで思い出すセカンドの選手言うたら、やっぱりタイガースの中山選手かなぁ。去年はゴールデングラブ賞とったし」
「彼は去年は再三のピンチを救ったり、華麗な守備してたからなぁ。おまけに打撃もすごいよかったし。今年はなかなか打率が上がってこんから、ちょい心配じゃね?」
「まぁ、中山選手と言うより、チーム全体が打ててないからなぁ。今はピッチャー陣におんぶにだっこみたいな感じや」
ウォーミングアップを済ませて
「おーし。準備運動も完了。それじゃあキャッチボールするかぁ」
「OK」
20メートルくらい離れたところから、お互いに構えたところめがけて投げる。やはり現役の野球部員ということで、球速はかなりある。その一方で、温也も昔は子供会の野球の試合に参加したり、地区の野球の試合に参加したりしていたので、結構野球経験があるので、歳也の投げるボールも難なくキャッチして、お互いにだんだん球速を上げて、最後はキャッチする方は完全にしゃがんでボールを受けるようになって、
「じゃあ、思いっきり投げ込むぜぇ」
そう言って振り被って、歳也の速球を受けたのであるが、温也はセカンドよりも、ピッチャーに向いているかもなと思った。温也も野球を知っているので、彼が投げる投球フォームを見ると、力感のないフォームからボールを投げおろすので、思った以上に球威があるのである。小気味いい音を立てて、ボールがミットに吸い込まれるので、二人とも結構いい運動になったようである。そして温也が時計を見ると、14時少し前。
「あ、トシ、俺用事があるから帰るわ。練習試合頑張れよ」
「温也サンキューなぁ。ひょっとして郷子ちゃんとデートか?」
「今日は郷子が大阪から帰ってくるからな。そろそろ帰って、迎えに行く準備しとかんとな」
「ほぉほぉ。気をつけて行けよ~。郷子ちゃんによろしくなぁ。帰りは二人で電車に乗って帰るんか?」
「まぁ、それはどうかなぁ?お父さんたちと一緒に帰るかもしれんしね。じゃあ、帰るわ」
「ほーい」
歳也と別れて家に帰って、汗をかいたので軽くシャワーを浴びて、着替えてさっぱりしたところで、泉が
「今日、郷子さん帰ってくるんやろ?お兄ちゃん寂しそうにしてたよねぇ」
「ばか。寂しそうにしてないわ」
「いやいや。隠しても無駄。お兄ちゃん、郷子さんが大阪に行ってる間、ちょっとボーッとしてたもん」
「えぇ?別にボーっとしてねぇし」
「でも、今顔見てたら、すっごいにやにやしてるもん。郷子さんのお土産、なんなんやろうなぁ?」
「551の豚まん買って帰るって言ってたぞ」
「やった~。美味しいもんねぇ。食いしん坊のお兄ちゃんやったら、5個くらい食べれるんやない?」
「いやいや。さすがに5個は一気に食えねぇよ」
「お兄ちゃんやったら、食べてしまいそう(笑)」
「俺はそこまで食い意地張ってないっちゅうねん」
「はいはい」
そして、夕方17時過ぎに家を出て、湯田温泉駅から山口線に乗って、新山口駅まで迎えに行った。18時過ぎに新幹線ホームに上がって、やがて郷子たちが乗ったさくら563号が到着するアナウンスが入って、やがて徳山方にあるトンネルを抜けて、ヘッドライトが次第に近づいてくる。やがてホームに鹿児島中央行のさくら563号が到着し、郷子たちが降りてきた。
「あっくん帰ってきたよ~。迎えに来てくれてありがとうねぇ」
「温也君、わざわざありがとうねぇ」
「いえいえ。お疲れさまでした。また大阪のお話聞かせてくださいね」
「温也君は家までどうやって帰るん?一緒に乗って帰る?」
「あっくん一緒に車乗って帰ろうよ」
「じゃあ、お邪魔させていただきます」
「はい。これお土産ね。この6個入りがあっくんの分。もう一つの6個入りがあっくんの家族の分ね。それからこれ。キーホルダーもあっくんへのお土産」
「サンキュ。豚まん、懐かしいわ~」
改札を抜けて、車を停めてあるコインパーキングに行って、車に乗せてもらった。望の運転する車はCX-8。ソウルレッドの深みのある赤をまとったボディーが目を引く。温也は後部座席に乗り込んで、その静粛性を堪能して一緒に帰った。家に帰り着いて、望が車庫に車を停めて、温也の家の呼び鈴を鳴らして、瑞穂が出てきた。
「これ、大阪のお土産です」
と言って豚まんを手渡した。
「まぁ、ありがとういございます。これ美味しいんですよね。私たちも大好きなんですよ。ありがたくいただきますね」
お土産を手渡した後、、郷子たちは家に帰っていった。
やがて夕飯時を迎えて、温也の家ではサラダと鰆の塩焼きとコンソメスープが食卓に上った。
「温也、郷子さん帰ってきて安心したやろ?」
「まぁね。無事に帰ってきて安心したわ」
「よかったねぇ。お兄ちゃんまた郷子さんとラブラブで過ごせるやん」
「ブホッ。何言うてんねん」
「まぁ、お兄ちゃん、また顔が赤くなってるわ~(笑)」
「こらこら。泉もお兄ちゃんをからかうんじゃないの。泉だって、ひろくんと結構いい感じになってるじゃない」
「ひろくんとラブラブなんやろ~」
そんなこと言いながら、夕食を食べ終えて、入浴も済ませて自室に戻った。
郷子たちは帰ったばかりで、夕食は出前を頼んだ。出前の寿司を食べながら、大阪でのことを思い返していた。夕食を済ませて、入浴を済ませて望との今日の話を思い返していた。
「お父さんもやっぱり私がお嫁に行くってなったら、号泣するんやろうなぁ。私がお嫁に行くときの花嫁が着るウェディングドレス、お父さんとあっくんに選んでもらおうかな」
やがてやってくる、温也との結婚式のことを思い浮かべながら、温也とのラインのやり取りをしていると、いつの間にか寝てしまったようで、温也から
「お休み。よく寝て疲れ落とすんだぞ~」
とラインが入っていた。そして、ゴールデンウィークの谷間の平日がやってきた。
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