第8話郷子、大阪へ

 二人が映画を温也の自宅リビングで鑑賞して、翌月曜日。さっそく二人で学校に向かう。昨日の映画の感想の続きなどを話しながら校門に着いて、担任で数学担当の三谷幸恵先生の号令で朝のホームルームが始まり、それから慌ただしく一日が過ぎて、吹奏楽部の夏のコンクールで演奏する曲を選ぶ時間になった。上山先生がやってきて、吹奏楽部員を音楽室に集めて、どんな曲を演奏したいのかリクエストを皆で出す段階になって、3年生からは

「ルパン三世のメインテーマ」

「白鳥の湖」

「美しく碧きドナウ」

があがり、たかやんやながちゃん達1年生からは

「アルルの女」

「エルガー作曲 威風堂々」

が上がった。それから2年生の間からは、温也と郷子の希望曲の

「ペールギュントの朝」

「ボレロ」

「新世界交響曲第9番第2楽章」

のほかに、

「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

が挙げられた。それで多数決をとったのであるが、一番人気の出た曲はたかやんとながちゃんたちが推した、エルガー作曲の威風堂々に決まった。他に候補に挙がった曲は、文化祭やほかのステージで発表するという。こうして、夏休みのコンクールの演奏曲も決まり、それに向けて上山先生が吹奏楽用にアレンジして、楽譜が手渡されたのがゴールデンウィークに入る前日。

「楽譜をプリントアウトしたから、これでコンクールに出るよ。みんな頑張ろう」

って、楽譜を手渡してくれた。トロンボーンは、最初が主旋律で、かなり難しい入りになりそうではあるが、躍動感がある曲で、実際に演奏してみると、結構楽しめるアレンジになっていた。吹奏楽部の練習が終わって、帰りながら、二人は楽譜を暗譜していた。だいたいのリズムは頭の中に入っているので、あとは細かい楽譜にかかれた強弱記号などを思い返しながら、二人で息を合わせるように暗譜しながら帰宅。そして夜ラインで、

「私たちの希望の曲は通らなかったけど、コンクールの曲が決まってよかったね」

「そう、威風堂々も俺は結構好きな曲やからね。あとは演奏する側が楽しみながらって感じやね」

「そう、ノリがいいからねぇ。あとは思いっきり楽器に息を吹き込むだけじゃね」

「まずはパートごとに別れて練習じゃね」

「そうそう、明日から大阪に行くんやろ?気をつけて行って来いよ」

「うん。ありがとう。久しぶりに大阪の伯母ちゃんに会えるわ。中学に入ってからは初めて会うからね」

「そうなんや~。じゃあ、新大阪で降りた後は、御堂筋線に乗り換えて、難波から南海高野線に乗っていくんか?」

「そう、新大阪までは新幹線で出るからね。8時11分に出るのぞみ8号に乗って、河内長野には11時20分に着く予定」

「そうかぁ。じゃあ、俺も見送りに行こうかな」

「え?いいの?新山口まではどうやっていくの?」

「山口線乗っていく。7時29分に湯田温泉出る列車に乗ったら、新山口には7時51分に着くから」

「そうなん?でも、寝坊助のあっくんやから、起きれる~😀?」

「大丈夫…と思う。でも大好きな郷子のために早く起きるべ」

「じゃあ、期待しとこ」

「明日は朝早いんやろ?早く寝んとそっちこそ寝不足で起きれんようになるで」

「はーい、じゃあお休みね~」

「ほーい。お休み~」


 翌日、朝6時過ぎに起きた温也。休みの日なのに早く起きてきた温也をからかうように泉が

「あれぇ?お兄ちゃん、今日はやけに早起きじゃん?雨降らんかったらいいんやけど」

「俺だって用事があるときくらい早く起きるっちゅうねん。泉こそ何か用事があるんか?」

「私はね、今日はひろ君のお父さんとお母さんの誘いで、秋吉台までドライブに連れて行ってもらえるの。秋吉台のサファリパークに連れて行ってくれるねんて」

「ほぉ~。じゃあ、泉もひろ君とデートじゃん」

「デートって、二人きりで会うわけじゃないんやから~もう」

「いいじゃん。それでも好きな人とおれるんやから」

そこへ瑞穂が起きてきた。

「あら?温也、今日は休日やのにやけに早起きじゃん?」

「もうお母さんまで泉と同じこと言ってる。今日はね、郷子が大阪のおばさんのところに出かけるから、見送りに行くの」

「ふーん。いつもそれくらい早く起きてくれたらいいのにねぇ。これからは郷子ちゃんに温也起こすの任せようかしら」

「ハイハイ。朝食済ませてから出かけるから。帰りは9時前に湯田温泉に着く列車に乗るから」

「わかった。気をつけて行くのよ」

「はーい」

「お兄ちゃん、郷子さんのこと、本当に好きなんやねぇ。彼女いない歴14年のお兄ちゃんがあんな美人な女性にもてるなんてねぇ」

「こらこら。お兄ちゃんをディスるんじゃないの。泉も早くしないとひろ君のご両親が迎えに来るわよ」

「はーい」

「お父さんもそろそろ起きてくれないと。泉。お父さん起こしてきて」

「OK。お父さん早く起きてってお母さんが言ってたよ」

やがて光が起きてきて、温也がいないので

「あれ?温也は?」

「郷子さんとこのご家族が大阪に行くので、今日はお見送りに行くんだって」

「へぇ、いつも朝早く起きるのが苦手な癖に、今日は起きたんやなぁ」

「まぁ、これも郷子さんのおかげねぇ」

着替えを済ませて温也は家を出て、湯田温泉駅まで歩いて向かった。

 いっぽうの郷子の家では、朝食を済ませて

「お父さんお母さん、そろそろ出られる?私は着替え終わったけど」

郷子は着替えやらの荷物をカバンに詰め込んで玄関において、両親の支度を待っていた。望も桜も支度が終わって車に荷物を載せて家を出るところであった。郷子たちが家を出たのは7時30分ごろ。そこから新山口駅近くの格安駐車場に車を入庫させて、駅で改札を通って新幹線ホームへ。7時50分ごろに新幹線ホームについて、少しすると温也がやってきた。

「おはようございます。見送りに来ました」

「温也君おはよう。朝早くにわざわざごめんねぇ」

「いえいえ。郷子、大阪楽しんできてね」

「ありがとうね」

「うん。俺も一緒に行けたらなぁ」

「あっくんは南海本線の沿線に住んでたんよね。また今度私も行ってみたいな」

「まぁ、俺が住んでた高石は工業地帯で、これと言って有名な観光地はないけどなぁ」

「私はあっくんが生まれ育った街を見てみたいの」

「温也君は、大阪に帰省する予定はあるん?」

「いいえ。今のところないですね。いつかは俺も帰省してみたいと思うんですけどね」

そうこうしているうちに、郷子たちが乗るのぞみ8号が到着する旨のアナウンスが入った。荷物を各自手に持って、温也は郷子の荷物を入線してドアが開くまで半分持って、郷子たちが車内に入ると、荷物を手渡してやがてドアが閉まって、のぞみ8号は新山口を離れていった。

 そして、温也は再び山口線の列車に乗って湯田温泉まで帰って、9時過ぎに自宅に戻った。

 郷子は温也と出会って以来、初めて温也と3日間ではあるが、離れることに少し寂しさを感じていた。

「私はやっぱりあっくんが好きなんじゃねぇ」

改めて温也のことが自分にとっては、とっても大事な一人の人と思ったのであった。     やがて、郷子たちを乗せたのぞみは新大阪に到着し、いつ乗っても激しい混雑で有名な大阪メトロ御堂筋線に乗り換えて、梅田や心斎橋・本町などを通って、南海電電車や近鉄・阪神電車との乗換駅であるなんばに到着。ここから乗り換え連絡通路を通って、南海電車乗り場の難波に到着。ここから高野線に乗り換えて、予定通りに河内長野に到着。郷子のおばの名村草夫・美紀子(なむらくさお・みきこ)夫妻が出迎えてくれていた。

「伯父ちゃん伯母ちゃ~ん。久しぶり~。会いたかったよ~」

「おぉ。郷子、ちょっと会わんうちに大きくなったねぇ」

「そうでしょ?今身長伸びて160センチあるよ~」

「そうなんや。元気そうで何よりやわ~」

「姉さん久しぶりやねぇ。今日はね、ゴールデンウィークで休みが取れたから、久しぶりに帰省しようってなってね。旦那の方も休みが取れたからね。短い間やけどお世話になるわ」

「お姉さん、お久しぶりです。お世話になりますね。ここら辺は変わってないですねぇ」

「さぁさ、長旅で疲れたでしょう。車に乗って頂戴」

「はーい。あっそうだ。あっくんに着いたって連絡しとかないと」

「あっくん?」

「郷子のクラスメイトで、彼氏」

「お母さんやめてよ~。ハズイじゃん」

「てれなくてもいいじゃん。いずれ郷子と温也君は結婚するつもりなんやろ?」

「まぁ、そうじゃけど…」

顔を真っ赤にしてもじもじ恥ずかしがる郷子を見て、車内は笑いに包まれた。

「郷子さぁ今度その彼氏もつれてきなさいよ。どんなにかっこいい彼氏か見てみたいわ」

「まぁ、また今度…ね…」

郷子は顔から火が出るんじゃないかってくらい真っ赤になってた。そこへ温也から

「無事に着いたみたいやなぁ。ヨカッタヨカッタ。大阪楽しんできてや~💛✌」

とラインが入った。

「まぁ、郷子は若いからなぁ。いっぱい楽しいことして、夢を追いかけて、今しかできひんことを思う存分やったらええねん。俺は応援するで」

「伯父ちゃんありがとうね」

そうして、家に着いて、移動の疲れを親下郷子たち家族なのであった。

 

 そして、一休みしてから温也にラインを送った。

「じゃーん。これが大阪の伯父ちゃん伯母ちゃん。一休み入れて疲れが取れたわ」

「そうかぁ。おじさんおばさんとなかなか賑やかそうやねぇ。今日はこれからどうするの?」

「今日はね、着いてすぐじゃけぇ、家の近くのレストランで皆で夕食食べに行くよ」

「そうかぁ。美味いもん食えよ~」

「ほーい。それでさぁ、あっくんさぁ、ゴールデンウィーク最後の日曜日、何か用事ある?用事なかったら、その日は空けててくれたら嬉しいんじゃけど」

「6日かぁ、今のところ予定はないよ。どこか行きたいところあるん?」

「いや、そうじゃないんなけどねぇ…。今は秘密なんやけど、空けててね」

「うん、わかった~」

何の用事かなぁってあれこれ思いを巡らす温也であった。郷子はこの日のレノファ山口とモンテディオ山形戦を、郷子の家でダゾーンで観戦しようと思っていたのであった。

「この前はあっくんの家で映画を観させてもらったから、今度は私があっくんを精一杯もてなしたいな」

そう思いつつ、連休最後の日を心待ちにしている郷子であった。

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