第7話映画鑑賞

 自転車で市内各所を見て回った翌日の月曜日。登校するため支度を済ませてげ玄関を泉と二人で出ると、郷子もちょうど玄関を出てきたところ。

「あっくん・泉ちゃんおはよう。今日もいい天気じゃねぇ」

「郷子おはよう。俺昨日あちこち自転車こいだから筋肉痛や」

「郷子さんおはようございます。昨日はいろいろ見て回ったんでしょ?今度私も一緒に連れて行ってほしいなぁ」

「うん。いいよ~。今度一緒に足湯に浸かりに行こうか」

「うん。その時はよろしくお願いします」

「えぇ。泉も一緒に来るのぉ?俺は二人きりの方がええなぁ」

「いいじゃんねぇ。女同士であれこれおしゃべりしたいもんねんぇ」

「そうそう。たまには私と郷子さんで出かけたっていいじゃん」

「ちぇ。つまんねぇの~」

「ほらほら、そんなふくれっ面しないの。かっこいいお兄さんが台無しになってしまうよ」

「そうそう。お兄ちゃんは全く女心が分かってないんやから」

そんなことを言いながら、三人で歩いて行って、途中で泉と別れて、学校に到着。

藍と校門で一緒になって、バレーの話になった。

「パリオリンピックの代表争い、いよいよ大詰めになってきたねぇ」

「そうそう、このままいけば、男女ともオリンピックには行けそうな雰囲気じゃね」

「藍ちゃんとしては、誰が注目なん?」

「そうねぇ、男子やったら石黒雄太選手かなぁ。エースアタッカーとして能力高いからね。それから女子だと小西小百合選手かなぁ。キャプテンとしての統率力がすごいと思うし、バックアタックも威力ありそうな感じやからね」

「そうかぁ。今はネーションズリーグを争ってるんやろ?このまま勝って、オリンピック出場獲得してほしいね」

「藍ちゃんは昨日練習試合あったんじゃなかったっけ?」

「そうそう、高村中に2‐1で勝ったよ」

「ほほぉ。凄いじゃん」

「また練習試合あるとき、教えて。俺と郷子の二人で応援に行くから」

「OK。まだだいぶ先になりそうやけどね」

そんなこんなで教室に着いて、授業の準備を始める。今日の一時限目は理科。

理科の渡川(とかわ)先生が入ってきて、授業が始まる。そして一通り午前中の授業が終わって、昼休み。

「今日、上山先生にコンクールの曲をリクエストしてみよっか」

「そうじゃねぇ。部活の時に話してみよう。ひょっとしたら先生も何曲か候補を持ってるかもしれんしね」

「ほんじゃぁ決まりやな」

そして放課後。部室に行って学期の準備をして、音合わせをしながら、先生の到着を待つ。やがて上山先生が音楽室に入ってくると、先生に

「今度の夏のコンクールに向けての曲はもう決まってるんですか?」

「いやぁ。まだ決めてないんじゃけどねぇ。何か二人は演奏してみたい曲があるん?」

「私はペールギュントの朝か、ドヴォルザークの新世界交響曲第9番が演奏してみたいなって思います」

「俺は第一希望は郷子と同じなんですけど、第二希望はボレロもいいなって思うてます」

「そぉ。来週の月曜日にでも多数決を取ってみましょう。今日、他の部員にも考えておくように言うから」

「わかりました」

練習が終わって、二人で帰りながら

「どんな曲になるんかねぇ?」

「まぁ、俺たち以外にもいろいろ候補が出てくるやろうからなぁ」

「楽しみじゃね」

「うん」

そして、家に帰り着いて、夕食や入浴も済ませて、自室に戻ってラインをしながら眠りについた二人。1週間が過ぎて土曜日。この日は温也と泉は、山陽本線の四辻駅近くに住んでいる祖父母(温也と泉の父型の祖父母・邦夫と梓)の家に向かった。

「おじいちゃんおばあちゃん来たよ」

「おぉ。温也に泉かぁ。ようきたのう。新しい学校には慣れたか?」

「うん。俺はもうこっちには慣れたよ」

「私も。お兄ちゃんねぇ、こっちに来て彼女ができたみたいよ」

「そう言う泉だって、同級生の男の子と結構仲いいじゃん」

「まぁ、彼氏かどうかわかんないもん」

「まぁまぁ、二人とも若いねぇ」

この日は、腰を痛めて、長期療養中の祖父の様子を見に二人でやってきたのであるが、長年畑仕事を営んできて、体力の要る仕事であるため、耕運機を操作したり、機械が入りきれないところは人の手によって耕したり草を抜いたり、いろいろと頑張ってきたのであるが、長年腰痛に悩まされて、温也が中学1年の時にいよいよ腰痛が悪化したため、家族で引っ越しして、時折畑仕事を手伝ったり、様子を見に来たりしているのであった。この日は耕運機を使って畑の土を掘り起こして、夏野菜の苗を植える下準備をするのであるが、機械操作は祖父に代わって祖母の梓が行い、温也と泉は機械が通った後の草を抜いて、畦に干して肥料にするための作業を手伝う。この干した草を畑にまくと美味しい野菜が取れるという。4月の終わりだというのに、かなり気温が上がって、結構汗だくになりながら二人とも頑張って畑仕事を手伝い、お昼は祖母の特性の唐揚げを食べながら、しばらく休憩して、お昼を挟んで畑仕事を手伝い、15時過ぎに仕事を終えると、祖父と一緒に四辻駅前にあるお店で、益次郎饅頭を買ってもらっておやつに皆で食べた。ここは大村益次郎の生誕の地で、明治維新にも大きく関係した人物として知られている。四辻駅の地区は鋳銭司地区とよばれていて、鋳銭司郷土資料館で、大村益次郎に関する展示が行われている。その益次郎の地元ということで、駅前の商店で売られているのである。そして、16時29分に出る下関行の電車に乗って、新山口駅で乗り換えて、山口線に乗って矢原駅に着いたのが17時20分。畑仕事を手伝ってかなり疲れた二人であったが、家に帰って祖父母の様子を話すと、光も瑞穂も安心したようであった。

 そして夜、郷子にラインを送る。

「今日は畑仕事頑張ったぜぇ。明日なんか用事ある?用事が無かったら、ずいぶん昔のアニメなんやけど、映画観ん?」

「畑仕事お疲れさま。結構きつかったんじゃない?今日はゆっくり疲れ落としてね。明日はお昼から特に用事はないけど、どこで映画観るん?」

「俺んちのリビングで。明日は両親はおらんからね。リビングで一緒に観んかなぁって思って。泉は家におるけど」

「じゃあ、明日あっくんの家に行くってこと?一応親に聞いてみるわ」

「了解」

それからしばらくして郷子からラインが入った。

「お父さんに話したら、「温也君なら大丈夫やろ」っていうことで行ってもいいことになったわ」

「ラジャリンコ~」

「何?そのラジャリンコ~って言うのは?」

「了解ってこと」

「ふーん?」

そして4月21日の日曜日。昼食を済ませてから郷子が家にやってきた。

「なんか、男の子の家に行くのって小学校の時以来やから、なんかドキドキする~」

なんて独り言をつぶやきながら、温也の家のベルを鳴らす。

「ほーい」

と温也の声が聞こえて、玄関が開く。

「いらっしゃーい」

「本当にお邪魔してもいいの?」

「うん。大丈夫」

「それじゃあお邪魔します。あ、これ映画観るって言ってたから、ちょっと家にあったおやつ持ってきた」

「サンキュ」

「泉ちゃんもいるんでしょ?一緒に食べない?」

「それがねぇ、泉は今オンラインゲームに熱中してて、たぶん呼んでも来んと思うで」

「そうなん?じゃあ、泉ちゃんの分は取り分けておこう」

「泉も喜ぶで」

「で、どんな映画なん?」

「これねぇ、1979年のアニメ映画やから、今から45年くらい前の映画なんやけど、めっちゃ感動するから」

そう言って温也が持ってきたDVDソフトのタイトルは、

「劇場版銀河鉄道999」

人類が機械の体を手に入れて、永遠の命を手にした一方で、機械の体を貧しくて買えない少年星野鉄郎と、一緒に旅をするメーテルの話で、母親を無残な形で殺された鉄郎がメーテルと一緒にアンドロメダ超特急999号に乗車して、数々の困難に立ち向かい、大人に成長していく物語で、温也がDVDをセットして、二人で一緒に観た。鉄郎が経験する甘い恋や、母親の敵を討つために乗り込んだ先で知った衝撃の事実など、数々のドラマが展開されながら地球に帰ってきてのラストシーンに、郷子は感情が入ってしまったようで、感動の涙を流していた。

「この映画、私たちが産まれるはるか前の映画じゃけど、あっくんはこの映画、どうやって知ったん?」

「この映画はねぇ、鉄道大好き人間の俺にとって、SLが出て来るやろ?絶対見たい映画って思ってたんやけどね。この映画を教えてくれたのが俺のじいちゃんなんよ。俺がまだ大阪に住んでた時に、山口に帰省したときにね、こんな映画あるよって教えてくれて、ネット通販で買ってもらって、引っ越すときに持ってきたっていうわけ」

「そうなんじゃねぇ。鉄道大好きなあっくんらしいね。それにしても最後は泣けたわ~」

「そうやろ?俺も最初観た時はめっちゃ感動したもん。ちなみにまだ続編があってね、完結編が「さよなら銀河鉄道999」っていうんやけど、また今度一緒に観ようや」

「ラジャリンコ~」

映画が終わってしばらくすると、泉が下に降りてきた。

「あ、泉ちゃんおやつ食べる?」

「うん、おなかすいたわぁ。おぉ、ドーナツ。大好き~」

「それじゃあ、コーヒーでも淹れるかぁ。郷子、コーヒー大丈夫だよね?アイスにする?ホットにする?泉は?」

「じゃあ、ホットで」

「あ、じゃあ私もホットで。砂糖たっぷり入れてね」

「おこちゃまやなぁ」

「ふん、お兄ちゃんだってまだ13歳じゃん。まだまだ子供じゃん」

「いいや、少なくとも泉よりは大人やもんねぇ」

「またそうやってからかう。い~だ」

「まぁまぁ、仲がいいねぇ。私はひとりっ子じゃから、こうやってああだこうだって言える兄弟がいるってうらやましいな」

「そう?お兄ちゃんなって結構ウザいってもうよ~。その点私はめっちゃ可愛いもんねぇ」

「おいおい、自分で言うかよ」

「本当二人を見てたら、全然飽きんわ~」

そう言いながら、コーヒー飲みながら、郷子が持ってきたドーナツを仲良く食べた3人であった。やがて夕方を迎えて、郷子は家に帰っていった。

夜、ラインで

「今日はありがとうね。映画、めっちゃよかった~。あっくんも私もあの少年みたいにいつかは大人になっていくんやねぇ」

「俺らが大人になったら、今の世の中はどう変わっていくんやろうなぁ」

「平和な世の中であってほしいね」

「本当そう思う。今もあちこちで戦争とか紛争が起きてるからねぇ。鉄郎のような辛い思いをみんなしなくていいようにって俺は思うよ」

「それにしても鉄郎、格好良かったねぇ。あっくんも鉄郎みたいにたくましくなるんかなぁ」

「まぁ、それは5年後とか10年後にわかると思うけどね。今は自分の夢を追いかけていきたいな」

「そう。あっくんの夢。それから私の夢。実現できたらいいね」

そうして夜は更けていった。

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